神々の戦争記
作者/海底2m

第一章 第二話 「記憶」-3
妖魔は普段、人間の前には姿を現さない。
人間が妖魔を狩るようになったのは3000年前。それだけあれば妖魔も「危険」ぐらい学習する。
しかし、それでも表に出てくるようになるのには主に二つの理由がある。
まずは好奇心もしくは無知の為に出てくるもの。
前者は東の大惨事の時、後者は先日の件の場合だ。この場合は単体で出現することが多く、自ら撤退もする。
そしてもう一つの訳が、究極の飢えだ。
自分たちの生息区域に喰うシピアが存在しなくなり、やむを得ず人間のシピアを食さなければならない場合。
もちろん、シピアーの持つシピアも、そこら辺の妖魔よりかはずっと『おいしい』。
しかし、逆に殺られてしまうリスクがあるので妖魔達は好き好んで食べるわけではない。
それでも餌がなくなり、飢えが限界に達した時、妖魔たちは群れを成して突撃してくる。それはもう、狂気だ。
「防衛戦?」
翌日、第2作戦会議室で勇の声が響き渡った。辺りから白い目が飛んでくる。勇は竦んだ。
集まっているのは第一部隊全員である。私語は厳禁だ。
上蔵間副隊長は一つ咳をすると話を進めた。
「その通り。イディオット統括交番から3日前に連絡を受けた」
イディオットはネクラフの南部に位置する山岳地帯だ。生息する妖魔の数が膨大すぎて、近年問題になっている。
イディオットには全体を囲うように13の交番が設置され、それをまとめるのが統括交番だ。
規模的にはネクラフで2番目に大きく、『交番』と呼ぶにはかわいそうだ。
「生息する妖魔の一部がかなり飢えているらしく、近いうちに攻めてくる可能性が大きい。
該当妖魔はレベル2~3の小型のものが多いが、何しろ数が多くて班2つや3つで片づけるのは無理だ。
第一部隊全班出動し、これを防衛する」
上蔵がそういうと、隣にいた部下がノートパソコンを操作し、壁に掛けてあるスクリーンに地図が映った。
スクリーンの中央部にイディオットが表示され、右上の方にネクラフ支部が記されている。
イディオットの周りには、交番を表す赤い点が13個。そのうちの一つは周りのそれより一回り大きい。
「統括交番はイディオットの北東部、ちょうど支部からまっすぐ行ったところに位置する」
支部から大きな赤い点まで、点線が引かれた。
「交番の200m後ろには南防壁がある」
防壁とは、通称『壁』と呼ばれ、東西南北に4つ存在し、住宅地を囲むように壁がたっている。
妖魔の侵入を防ぐものだが、ただの壁ではなく、支部の勇士たちにより大量のシピアが封じられているため、
妖魔は触れると、あっという間にお陀仏だ。もっとも、東の大惨事の件は例外だが。
スクリーンの地図上に、点線でできた囲いが現れた。
「俺たちは、交番から奥に500m程進んだところで防衛する」
交番から青い矢印がイディオットの中心に向かって少し伸び、そこに×がつけられた。
「防衛点から壁まで700m。ここを突破されたらおしまいだ」
いくら壁が大量のシピアを有するとはいえ、魑魅魍魎の妖魔が一気に押し寄せたらひとたまりもない。
明確な説明を終えた後、上蔵はどっと椅子に寄りかかり、資料をパラパラとめくった。
「んで大体2つのグループに分かれようと思う。
荒川班からルティア班までが第一グループ。残りが第二グループ。
第一グループの指揮官はルティア・O・ヴィレイトリム二等防衛佐官。
第二グループは俺、上蔵間二等防衛佐官が指揮にあたる。
総合指令監督は滝浦玄助三等防衛佐官。以上、解散!」
会議室がガヤガヤし始め、勇と川島、そして桐山は部屋を出た。

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