神々の戦争記

作者/海底2m

第一章  第二話 「記憶」-9


廊下の途中で鈴原は同僚たちと行ってしまい、代わりにやってきたのは言うまでもなく桐山だ。
「っていうかさぁ、なんで滝浦隊長って上蔵二佐とかルティア二佐より階級低いのに隊長なの?」
「そういやそうだな…」
トレイを持って並んでいるとき、不意に桐山が投げかけた疑問に同調する。
「年が上行ってるからじゃね?」
川島が頭をかきながら遠慮しがちに答えた。
まぁそうだけどさぁ…と、桐山が納得がいかない様子でパスタを自分の皿によそった。
「専門的な問題だ」
「!」
後ろからかかったお馴染みの声に、勇はとろうと思っていたハンバーグを落としかけた。
「荒川二曹…」
荒川は自分の分のおかずをヒョイヒョイヒョイととると、口を開いた。
「お前ら、滝浦隊長と上蔵二佐の決定的な違いが何かわかるか」
「違いって…シピアーか非シ…」
「!」
三人とも黙り込んだ。
滝浦は非シピアだ。つまり戦力的に上蔵やルティアにはるかに劣る。
今回の作戦で二人はグループの指揮はとるものの、自ら前線にも出るだろう。
それに対して滝浦は、自分が最前線で戦う身体の持ち主ではないことを知っている。
滝浦はきっと指揮官としての道を歩んできたのだろう。
「まぁ、年の問題もそうだ。キャリアが長く、信頼が厚い隊長ならではの役職といったところか」
「なるほど…」
「って班長!ステーキにスパゲティにグラタンってどういう選択の仕方ですか!?」
勇は、荒川のトレイに載っている品々を見つめて怒った。
荒川はむっとした表情で、
「これでも栄養バランスは考えてある」
「バランスとれてりゃなんでも食っていいってわけじゃありませんッ!」

そのまま三人は胃袋に放り込むようにして食事を終えると、シャワーを浴びて床に就いた。
夜は静かに更けていく――いや、戦闘男子たちのいびきがある限り、静かな夜は訪れない。
勇はもちろんのこと熟睡である。しかし、その中でかすかな声が聞こえる。




    『勇、逃げろ!逃げろーッ!!』





「親……父…」
勇はうめいた。にじみ出た汗が頬を伝う。




    『お前は神を信じぬか』




「誰…だ……」
ただでさえこの人数だ。室内の温度は尋常ではない。勇はごろりと寝返りを打つ。





    『これは、報いだ』





    『勇!お前は逃げろ!生きろッ!!!』






報い…だと……





    『志の神ここにありけり。
           3000年の時超えて、我が復讐を果たしたり』

復讐?なんだ、こいつ……


志の神……だと… なめるな



    『逃げろォッ!!』




黒い闇が父を飲み込む。そして――
「親父ィィィッ!!!」













沈黙。


酷い寝汗を腕で拭いながら辺りを見渡し、目覚まし時計を探しあてる。
短針はおやつの時間を示していた。――午前午後逆ではあるが。
大きなため息をついて、誰かの上に寝転がる。
「ウゲッ!」
下の隊員がうめき声を上げた。どうやら急所に倒れてしまったらしい。
辺りの隊員はいびきをかきながら全員熟睡だ。
勇は再び深い眠りに着く――着こうと思ったが、その後は全く寝れなかった。