神々の戦争記
作者/海底2m

第一章 第二話 「記憶」-27
「おい五十嵐!」
川島は、昼食後の昼休みに廊下で勇の背中を見つけると、駆け足でこちらに向かってきた。
勇は無表情で後ろを振り返る。
「お前なんで検査の時言わなかったんだよ、お前バ――」
「おい五十嵐、あと川島」
二人は同時に後ろを振り返り、会話を中断した声の主を見つめた。
「荒川二曹」
川島が応えた。荒川が二人に手招きをすると、勇は川島と顔を見合わせ、小走りで荒川の元へ向かった。
「どうしたんですか」
口を開いたのは川島である。荒川は後ろに隠された人物を表に出した。
「!? 鈴原士長?」
「よー、どもども」
ヒョコっと現れた鈴原はチュッパチャップスを片手に手を振った。
「今回、お前らには会ってもらいたい奴がいるんだ。この間の巨大兵器あっただろ?」
荒川は三人を引き連れて廊下を歩きながら説明を始めた。勇を除く二人はこっくり頷く。
「その設計に大いに貢献した人間だ。まだ下等研究員だが」
さすがに勇も目を丸くした。下等研究員があの兵器の設計を携わったというのか。
なんとも矛盾する話に困惑する川島と勇を置き去りにして、荒川は説明を続けた。
「今回、五十嵐にはしてもらいたいことがあるんでな」
勇は眉間にしわを寄せたが、そうこうしているうちにいつの間にか研究棟へと入り、目的の部屋の前に到着した。
ドアの右側に掲示されているプレートには『武器開発B6 - 担当 鶴迫櫂』と書かれている。
荒川はドアを二、三回ノックするとガチャリと開けた。
ドアを開けるとそこは学校の教室ほどの広さで、中央に事務机がいくつか配備されている。
壁という壁は設計図と思われる紙でびっしりとおおわれており、窓際には機械の類が乱雑に置かれていた。
椅子はほとんどなく、白衣を着た5、6人の研究員が作業している。
「……どの人が鶴迫さんですか?」
勇は聞いた。荒川は眉間にしわを寄せて口を開いた。
「鶴迫二佐に会いに来たわけじゃない。こっちだ」
荒川はそういうと、三人を部屋の右側にあるドアに連れて行った。
防衛員がよくもまぁズカズカと……と思いながら、勇は作業に没頭する研究員をちら見(×2)した。
ドアを開けるとまた似たような光景が広がっていたが、ただ違うのは人が二人しかいないということだ。
デスクの奥に座っていた中年(小太り)が立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。
「やぁ、君が荒川二曹かい?」
「初めまして、鶴迫二佐。今回はよろしくお願いします」
荒川は深々と、鶴迫という名の男に頭を下げた。鶴迫がとんでもない、と笑った。
しかし、では、と一言だけ残して鶴迫は部屋の外に出て行ってしまった。
取り残されたもう一人の白衣を着た女性研究員はドアが完全に閉まると、てくてくと歩いてきた。
身長は小柄な勇よりも少し低く、髪は綺麗な水色のセミロングで、少し癖がついている。
おっとりとした瞳は、もはや『やる気のなさ』を象徴しているようで、本当に研究員なのか、と疑うほどである。
「……鈴原氷雨、よろしく。一応二士だから」
「ん、よろしく……
ってその苗字まさか……」
川島が言葉をなくし、そして隣のへろっとしている先輩をみあげる。
「どうもー、俺の妹でーす」
そして勇はここ数日ぶりの笑みを浮かべた。

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