神々の戦争記

作者/海底2m

第一章 第一話「神とか…いるわけねーじゃん」-10


「うわっ!ど、どうしたそのドヤ顔!」
「五十嵐、使う言葉間違えてるよ」
鈴原に一釘刺されながらも勇は盛大に仰天した。
トラックに乗って帰還する最中、運転席の方からのしのしと亡霊のようになった川島がやってきたのだ。
「まさかお前が!?」
鈴原から、川島が滝浦たちに捕まったという情報は聞いていたが、川島が撃っていたとは。
「……あぁ」
川島はそれだけ吐き出すように告げると、どっかりと腰を下ろした。
勇はよてよてと、四足付きながら川島に近づいていく。
「なんかご褒美とかあったのか?チョコなら俺にも分けてくれ」
「いーがーらーしー」
普段は余計なことは言わない鈴原だが、その拳が頭に落ちてきた。
「いっt、だって川島だけってなんかズルいじゃないスかー!」
勇は今度は嫉妬の目線で鈴原を睨みつける。
「もういい、帰ったらチョコやるから黙ってくれ」
「マジで?わーい」
「……第一部隊の汚点だな」
勇の素の歓喜の声に、鈴原はそう吐き捨てると、寝入ってしまった。
「…五十嵐」
川島は唸るように声を発した。
「何?」
勇は万歳していた手を下ろして、真面目に聞いた。真面目に。
「お前はこの仕事どう思う」
「仕事…?」
どう思うとはどういうことか。沈黙が流れ、トラックの走行音が鳴り響く。
「お前は神に選ばれた人として、この仕事をどう感じるかってことだ」
「神に…選ばれた人…?」
嶷帝は7人の神々を生み出し、嶷帝の死後、志の神は他の6人を殺した。
6人の人間に残した最後の力、シピアを持つ人間は、すなわち『選ばれた人』だ。だが、
「俺は、おとぎ話を信じない」
今朝の授業を思い出す。確かに寝ていたが荒川のある言葉だけは正確に聞き取った。

――人間様が後から作り出した単純な「おとぎ話」――

そう、所詮おとぎ話。勇達が今こうしてここにいるのには他の理由があるはずだ。
「ただ、俺はこの仕事を誇りに思う。守ることは…大事だ」
「…そうか」
川島はそれだけ言って、鈴原と同じように眠り込んだ。もうトラックの中に話し声はほとんどしない。
守る、こと…
勇は自分のセリフをもう一度心の中で唱えた。
「神とか…いるわけねーじゃん…」

自然と声は湿っていた。