神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-12


『志の神の石か。聞いたことがないな』
「え?ないのか???」

勇はうつむいていた顔を上げて驚いた。神様(厳密には違うけど)でも分からないとは。
オルグは金色の目を少しだけ細めた。

『封印地というのはある。英雄たちが志の神を封印したとされる場所だ』
「そこに石はないのか?」

今度は川島がきいた。オルグは頷き、勇は溜息をつく。
しかし、意外なことに勇は先を続けた。

「なぁ、その石ってのは神が死んだときに生まれる訳だよな?」
『……そうだが』
オルグは少し疑問を持ったように言った。

そして勇はニヤリと笑う。



「だったらさ。生きてんじゃねーの?志の神」





恐ろしいことに、思わぬ言葉で沈黙が生まれてしまうのはよくあることだ。
世の中の7大怪奇現象の一つと言っても過言ではない。

沈黙の中、オルグがフハッと笑った。やっぱり王様そっくりだ。


『面白いことをいう奴だな。確かに、英雄は志の神を『殺した』ではなく『封印した』と伝えられている。
 いまだに志の神が生きていたとしても、不思議ではない』


しかしその時、川島が思い出したようにあっと声を上げた。
『「どうした???」』




…………カミサマとハモった。



どうでもいいことを考えていると、川島が口を開く。

「明日裏鉄隊の模擬訓練があったんじゃ……」
「うわ、まずい!」

二人はほぼ同時に時計を見上げた。長い針は11を、短い針は1を指していた。

「ウッそ、もう2時!?」
神様と長話をしすぎた。
疲れを残してはいい結果が出ないことぐらい、一年訓練してきてる勇たちには分かり切ったことである。

『なんだ、その裏鉄隊とは』
オルグは怪訝な顔で聞いてきた。川島が説明する。

「前に支部が直接妖魔の攻撃を受けた時があるんだ。あ、支部って此処の事だが」
『心配するな。人間にしてみればかなり長い歴史を持つ組織だ。吾輩も記憶の片隅に残っている』
「なら話が早い。支部はそれが人間による組織的な攻撃と見て、それを崩壊させるために裏鉄隊を組織した」

オルグは思い出したように呟いた。

『そういえば、前に仕えていた人間もそんな事を言っていた気がするぞ』
「え、それっていつの話?」
勇は聞いた。

『ついこの間だ。あー、人間の年月単位でいうとざっと200年くらいか』
「フえっ!?」

素っ頓狂な声を上げた勇だったが、川島は話の核心をついた。

「前期裏鉄隊が招集された時期だ」

確かに、荒川はそんな事を言っていた気がする。オルグは頷いた。

『敵が増えた、と言って疲れ切った様子だった気がする』
「そいつの名ま『ゴフッ』「他に何て?」

川島に殴られて、勇はちゃぶ台の上に重い頭をごつんと乗せた。
いくらなんでもひどすぎる。

『スピノザに行けたらなぁ、といつも言っていた』


――スピノザ……神の住む処に……


川島は立ち上がって口を開いた。

「ありがとう。いろいろ助かった。俺達そろそろ寝なきゃならないんだけどどうやったらアンタを戻せる?」

オルグは笑って答えた。

『簡単だ。左手のひらを天に向けて、「エンプフェル・ディ・ナトラシア・フォン・リーグテルク」と唱えれば消える』
「なげぇよ!!ゴマとは大違いじゃねぇか!」

勇は地団駄踏んだが、それを見てオルグは再び笑う。

『心配するな。副神とて休養の権利があるからな。お前が認めれば、吾輩はスピノザに戻ることができる』

それを聞いて、勇の顔は上がった。

「え、じゃぁ、帰っていいです、ありがとな」

勇は見上げて言った。その瞬間、金色の光は失せ、いつの間にかオルグの姿はどこにもなかった。