神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-20
二回目のタイムはない。そんなことは分かっている。
川島はコルピオスの周りを飛び跳ねながら歯をかみしめた。
入念な作戦は崩れた。ならば誰かがやらなきゃならない。
川島は両手に氷の短剣を生成すると、それをコルピオスの脚の関節に向かって投げつけた。
「氷柱ッ!!」
しかし、堅い甲殻にカキンと当たった二本の氷柱はあっけなく折れてはじけ飛ぶ。
体の裏側――つまり腹部を斬ることが出来ればこっちのものだ。
しかし、ローテーション混乱作戦が読み切られた今、コルピオスの腹部を狙うことは難しい。
だとすれば、残された突破口は関節だ。関節は曲がった時が一番開く。
つまり、コルピオスが足を曲げたときに氷柱を入れられれば、その部位――つまり脚の一本を無力化できる。
『ガッ』
「っ――!!」
今まさに、コルピオスは大きく脚を振り上げ、関節を最大限まで曲げた。
しかしすぐ脚は振り下ろされ、ぐずぐずしていたら串刺しにされることは間違いない。
川島は反撃を避けるだけで精いっぱいだった。
(くそ――……コイツに勝てる方法……なにかないのか……?)
-*-
「水斬っ!」
ユーフェルは胸の前で交差させていた両腕を薙ぎ払った。
たちまちそこから渦を巻くようにクロスした水が放たれ、コルピオスの脚の一本に直撃する。
ズパッと肉が切れたような音がした。
しかしユーフェルが攻撃した箇所を見ると、甲殻に薄い傷が入っているぐらいで、大したダメージはない。
ユーフェルはため息をついてその傷を見つめていた。しかしそれもつかの間。
『ガスッ!!』
「っ――!?」
目の前に足が振り下ろされた。避けようとして体を反らせた為、そのまま後ろに倒れこむ。
激しく腰を打ったため、痛みに悶絶していると。再びコルピオスの脚は持ち上げられた。
その脚先は、刃物のように輝き、ユーフェルに照準を合わせている。
もうダメだ、と目を強く瞑った。
しかし、痛みの代わりにガキンっと金属同士がぶつかる音がした。
恐る恐る目を開くと、目の前には少年の背中があった。
「だ、だだ大丈夫……ですか…???」
少年は額に汗を浮かべながらこちらを振り返った。刀を両手で押さえ、脚の攻撃を耐えてくれているらしい。
確か名前はファレン。冷静にそこまで判断して、ユーフェルは我に返った。
「あっ、すっすみませんっ……もう大丈夫です…」
ユーフェルは言いながら立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
ファレンは慌てて首を振りながら刀を振るって脚を弾き返す。
「よ、よかった……」
ファレンも手を膝につけてユーフェルを見上げ、そしてにっこりと笑った。
「何か、効果的な解決策があるといいんですけど……」
そうですね、と言おうとしたところで、ユーフェルの身体は軽く傾いた。
――コルピオスの尻尾が地面に深々と突き刺さり、地面が揺れたのだ。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク