神々の戦争記

作者/海底2m

第一章  第二話 「記憶」-21


巨大兵器は、「ギュイイイィィン」と機械音を発しながら、砲塔を回転させた。
照準が微調整され、イディオゴンが隠れているであろう土塊に向けられる。

「待たせたな」
上蔵はしゃがんで待機しているルティアの隣にやってきて小さくつぶやいた。
「期待は裏切るなよ」
冷たく言い放つルティアが、本当は「信じてる」と言いたいのだとわかって上蔵は苦笑した。

『発射準備完了しました。いつでもご指示を』
「了解。発射はまだするな、また連絡する」
担当責任官から連絡が入り、苦笑したまま上蔵は言った。
通信を終えて、ルティアが上蔵を見上げ、睨んだ。

「なぜ発射しない」
「着弾してからの指示を先にしとかなきゃならねぇ」
上蔵は滝浦の周波数に無線機を合わせ、口元に寄せた。

「…隊長は頭が固いしな」
ルティアは微笑だにせず前を向きなおした。



『あーあー、こちら滝浦。なんだか腹がいてぇからさっさと済ますぞ。
 知ってるやつは知ってるとおり、これから特殊な弾を撃ち込ませてもらう。
 着弾して奴が出てきたら攻撃はせずに塹壕にバリア張って待機しとけ。
 身体吹っ飛んでどうなっても知らねぇからな。以上』
珍しく冗談をぶちかます滝浦に、勇は少しばかり驚いた。が、気を引き締めてバリアを張る。

…………と言っても、勇にその技術はないのだが。
川島がゆっくりと橋を架けるように氷を上空に張り巡らせ、ファレンは炎壁を繰り出した。

「…氷と火だととけちゃいますね」
ファレンが小さく笑った。川島も笑い返す。
「なんとかなるでしょう」
結果、氷と炎の境目で発生した水は、勇がバケツで受け止めることになった。



「よし、発射しろ。くれぐれも制御室から外に出るな。できるだけ低い姿勢をとれ」
上蔵の合図で再び巨大兵器が起動音を唸らせる。
そして――
















『ズダンッッ!!!!』





















静寂。



それだけだった。
しかし、事はその後起きた。

『グオオオオォオォォォオ!!!!?』
異様な雄叫びを上げ、土塊の中からイディオゴンが飛び出した。そして――

「「「「「!?」」」」」

激しい轟音と共に、塹壕を覆っていたバリアが急激に取り上げられていく。
勇の頭上にある川島の氷壁は無残に吹雪となってイディオゴンに向かって飛んでいき、
蒼い焔は風に荒らされる蝋燭のように激しく揺れた。

二人は一心不乱にバリアを張り続けるが、勇にはそれができない。

と突然、身体からすぅっと力が抜けていくのが自分でもわかった。
長い時間無呼吸で泳ぎつづけ、地上に上がった時のような重圧感が勇を襲う。
急に貧血のような症状に陥り、勇は倒れた。

耳元で滝浦の怒鳴り声が聞こえるが、それすらも轟音と薄れゆく意識でかき消される。
そして勇は、完全に眠りに落ちた。