神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-6
氷雨はこの間も入った部屋へと足を踏み入れると、勇が入った後にドアを閉めた。
部屋は完全な密室状態となり、異様な緊張感が漂い始める。
氷雨は自分のデスク前の椅子に座り、勇も手近にあったパイプ椅子に腰をかけた。――カラスを肩に。
「で」「は、ハイッ!」
氷雨に不意を突かれ、勇は声を張り上げた。あまりの声の大きさに自分でも驚き、やってしまったと内心汗をかく。
しかし、それでも落ち着きを取り戻し、勇は昨晩の流れを説明した。
説明が終わると、氷雨は立ち上がり、乱雑する机の上にあるペン立てから、ボールペンを一本取り出した。
『シュッ』
「ッ!?」
突然氷雨がそのボールペンをカラスに投げつけた。
勇は慌てて飛び退くが、カラスはよけられない。ボスッ、と嫌な音がしてボールペンがカラスに突き刺さった――
「――って……あれ?」
ボールペンに刺されたカラスは煙になって消えていた。床に落ちたボールペンを見つめ、勇は唖然とする。
(いや、だって確かにカラスに当たって――)
「……ジャクエ」
「!?」
勇の考察を遮るように、氷雨は言った。勇が尋ねる前に、氷雨はそのジャクエとやらを説明し始めた。
「妖魔は、生まれてきたその地に、必ず『記憶石』を残す」
「記憶石……?」
勇は首をかしげた。氷雨は頷いてそのまま続ける。
「基本的にはコア宝石と同じ。微量のシピアが圧縮された鉱石で、
妖魔のシピアが尽きれば――つまり妖魔が死んだ時、記憶石も砕け散る。
逆に、記憶石が砕け散れば――」
「妖魔は死ぬ……?」
勇の言葉に対して、氷雨は首を横に振った。
「妖魔は、記憶を失う」
「…………」
勇は口を一の字に閉じ、汗をひたりと流した。
「でも、ごく稀に、妖魔が死んでも記憶石が壊れない時がある。
その時妖魔は、記憶だけが残った状態として残り続ける。それが、ジャクエ」
「つ、つまり……あのカラスは、ただの記憶ってことか?」
氷雨は頷き、勇の背後を指差した。
何かと思って振り返ると――
「のあぁッ!?」
――カラスが肩に乗っていた。
カラスは何事もなかったかのように、羽をくちばしで整えている。
その様子を見て、氷雨は首をかしげた。
「ジャクエはさわれないはずなんだけど」
「え?だってほら…」
勇は肩に乗ったカラスをヒョイと右手で手のひらに乗せて持ち上げて見せた。
な?と、自慢げに氷雨に見せる。
氷雨は、右手を拳に変えて、振りかぶって、勢いよく――
「や、やめッ……!!」
『ボフッ!』
カラスは、再び煙になって消えた。それを見て、拳を前に突き出している氷雨はさらに首をかしげた。
「まぁ、とにかくありがとう。どうせまたひょこっと出てくるんだろ?あのカラス」
氷雨が頷き、勇は立ち上がった。んじゃ、と手を振ってドアノブに手をかける。
『ガチャ』
「…………………………え???」
ドアは勝手に開いた。
向こうから顔を見せたのは――
「は、班長…… なんでここに……」
荒川は、勇を睨みつけるように見つめ、そして氷雨に視線を移した。
「班長じゃない、指揮長だ」

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