神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第一章  第三話  「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-22


バカが一匹、カエルのように上半身をのぞかせていた。
人が一人、命がけで戦っているというのに、だ。

「……五十嵐…」
荒川は唸るとズンズンと勇の方に歩み寄っていく。そして――

『ドッ!!!』
「ぎゃーーーー!」

蹴った。

いや、誤解してはならない。決して勇を蹴ったのではなく、その上の土壁をだ。
ビキビキッとひびが入ると、土壁は崩れ落ち、勇は転がるようにして這い出てくる。
手に握っているのは……二本の棒。

そして勇は顔をあげ、こちらを見上げた。

「……あ!班長! って井上教官?てかこの人だれ?でこの白いのは……」
「あんた……」
「まぁまぁ、真里谷」
真里谷が勇に歩み寄ろうとしたところを、井上が横に入って制止する。

『どうやらネクラフにはもう一人守護者がいたようだ』
無は足を引きずりながら立ち上がると、勇を見て言った。

勇は無を見つめたまま、視点を動かさない。そして――


「よし!こいつをぶっ飛ばせばいいんだな!」
「!ちょっ、五十嵐!」

荒川が止めるがしかし、勇は棒に電気をまとわせ思いっきり振りかぶる。そして――

『雷鎚!』
『隆起ッ!』

二人の声が同時に響き、閃光がはじけ、地鳴りと共に勇は後ろに吹っ飛ばされた。
見るとさっきまで勇のいたところにはポッコリと地面が盛り上がっている。

「よくやった、真里谷」
「とんでもありません」

真里谷は上げていた腕を下ろしてそつなく言った。
勇は声を上げることもなく気絶している。しかし――

「……これ、気絶してないか?」
荒川は倒れている無を目で示した。二人もそちらに視線を移す。

さっきまで立っていた無は今はぐったりと横たわっている。

「もしかしたら……」
井上は静かに言ったが、その後は真里谷が引き継いだ。


「……電気に弱いのかもしれません」
「そのようだな」


こうして、無との対決はひとまず幕を閉じた。
しかし、ここからが本当の戦いであることを、彼らはまだ知らない。