神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第一章 第三話 「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-8
精密検査が終わったのは、一時間ほどたった後だった。
なんだかよく分からない器具を装着され、
訳の分からない機械に接続され、そして意味の分からない検査結果を渡された。
「さーてと、訓練行くか!」
勇が張り切って第二地下訓練施設に向かうと、やけに周囲からの視線を感じたが、そのままやりすごす。
「……あり?」
地下訓練施設に到着した勇は首をかしげた。
この前の半数も隊員がいない。いや、それどころか知っている顔の隊員が一人もいない。
勇は今日も事務椅子に座っているヤクz――訂正、赤石の元へと向かった。
いつものように周囲に目を張り巡らせている赤石に、恐る恐る勇は尋ねた。
「あの、今日はみんなどうしたんですかね?」
赤石は一回こちらを見上げると、再び視線をもとに戻し、葉巻を咥えた。
「第一の奴らは任務で西の方に行ってる」
あ――……
勇はコクンと頷く、否、うつむくと、そのまま来た道をダッシュで戻った。
訓練施設から出て行った勇の背中を眺めていた赤石は、煙を吐き出した。
「無駄なことだ」
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寮の廊下を突っ走り、勇は自室の鍵穴にカギをがむしゃらに突っ込んだ。
いつもならすんなり通るはずの鍵穴は、今日に限って滑りが悪い。
バンッ、とドアを開け放つと勇は鍵を締めずにドアを閉め、そしてベッドに飛び込み、うつ伏せになった。
どれくらい時間が経っただろう。
勇は顔を上げずに壁を思いっきり拳で殴った。
「――――――くそっ……!」
勇はむくっと上半身だけ起き上がるせると、しばらくそのままだった。
今自分がどんな顔をしているのか、鏡で是非とも見てみたい。
――残念ですか――
青木の静かな問いと微笑みが蘇る。
あれはてっきり、訓練シフトが変わることに対してだと思っていた。
いや、もしかしたら精密検査による遅れに対してだとも思った。
――違う。
川島たちと別れる直前の放送。あれは出動命令だった。
青木は「出動できなくて残念か」という意味で言ったのだ。
しばらく呆然としていた勇だったが、不意に急激な違和感、否、不安感を抱いた。
――なんだ、この感じ……?
――何か、よく分からないけどこの前のとは違う……
――影?いや、違う……
――呼吸じゃない呼吸が聞こえる……
「!!」
勇は跳ね起きると、そのまま廊下に飛び出た。
廊下を駆け抜け、突き当りの外にある螺旋階段を見つけると、ガラス製の扉を押し開く。
金属質の音が響き渡る中、勇は3階分を一気に下ると、最後の数段は飛び越えて地面に着地した。
……確か裏門があったはず――
勇が勘に任せて走り出そうとしたとき、後ろから声がかかった。
「待って」
後ろを振り向くと、そこには氷雨がいた。勇は驚きを隠せない。
「な、んでお前……?」
ここは仮にも男子寮の敷地内だ。
研究棟は正反対の方角だし、ここが外だからと言って突っ切ってもそう簡単にはここには来れない。
第一、なぜ氷雨が来たのかすらも不明だ。
「これ」
質問には答えず、氷雨は手に持ったあるものを差し出した。
「これ……って…」
勇は受け取ったものをまじまじと見つめた。
太く、水色に輝く透明な棒、それが二本。持ち手と思われる部分にはグリップが装着されている。
先端は丸みを帯びていて、ヌンチャクに見えないこともない。
が、それ以外は何の変哲もないただのガラス棒だ。いや、ガラスにしては軽すぎる。
「持って」
氷雨に言われた通り、両手に一本ずつガラス棒を構える。
「先を付けて」
どこに?と聞き返しそうになったが、氷雨のジェスチャーで先端同士をくっつけるという意味だと分かる。
勇は、コン、とガラス棒の先を合わせた。
「電気を流して」
え、いや、ここ敷地内ですけど、と突っ込みたくなる。
しかしここで「無理です」とは言えないので正直にシピアである雷を発した。
ガラス棒に白い稲妻がまとわりつき、こぼれた火花が土の上に落ちていく。
「離して」
言われた通りに先端をゆっくりと遠ざけていくと――
「!?」
完全に接触を失った二本のガラス棒だったが、その先端から稲妻がもう一方の先端に走っている。
つまり、空気放電している――
「どういう……」
光り輝く稲妻とガラス棒を見つめながら勇は尋ねた。氷雨は口を開く。
「振って」
質問には答えず、氷雨は再び指示を出した。
振るってどういう風に。と思ったが、とりあえずドラムをたたくようにして両腕を振った。
稲妻はフッ、と一瞬だけ逆U字形に変形したが、またすぐに戻る。
「もっと強く」
今度こそ思いっきり両腕を頭の後ろまで振り上げ、それを力の限り振った、いや、振る。
『ズダダダダンッ』
「!?」
突如稲妻は逆V字形に変形し、その頂点は地面に突き刺さって数メートルにわたって前進した。
うまく説明できないが、棒の先端同士をつないでいた稲妻は、地面の上を走った。
が、先ほどのように再び戻り、電撃はおとなしくなる。
地面を見ると、縦に亀裂が走っていた。おそらくこれによるものだろう。
「持ってって。裏門そっちだから」
氷雨はさっき勇が行こうとしていた方向と正反対の方を指差すと、それだけ言って向こうに去って行った。
「あ、ちょっ、待てよ!」
しかし、氷雨は戻ってこなかった。
勇は電流を流すのをやめ、二本の棒をもう一度見つめ直した。
よく見ると、グリップ部分に何かの刻印がされている。
『零式線状制御装置 Ver.雷 -ヌンチャク-』
それを見て勇は吹いた。
「だっせぇ名前」
勇はヌンチャクを握りしめると、氷雨に教わった方向に向かって駆け出した。

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