神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第四話 「コメディを取り戻すべく旅へと出かけよう」-4


「何が、聞こえた?」
口を中途半端にあけて固まった勇を見て、氷雨は再度質問を重ねてきた。勇はゴクリと唾を飲む。

「志の神だとか、復讐だとか、あと――」
考えるより先に口が走りそうになり、強制的に筋肉の動きを止める。

「あと?」
氷雨がつめてくる。勇は目を逸らして口を開いた。

「死ね、って……」


長い沈黙が続いた気がする。不意に氷雨が口を開いた。


「あなたは、神の存在を信じる?」
突然の問いに、勇は反らしていた目をもとに戻し、氷雨に向けた。それは既に12年前に答えが出ている。


「知らねぇな。どっちだとしても、俺は妖魔を倒していくだけが使命だから」
「本当?」
「………………え?」
思わず聞き返す。氷雨の表情は依然変わらない。

「バーゼルシピアーは、ただのシピアーとは違う」
「……どういう、意味だよ?」

氷雨はその問いには答えず、もう一度白い水晶を見せてきた。

「これ、志の神の欠片」
「??? どういう……」

勇が言い終わる前に、氷雨は説明を始めた。


「炎の神、水の神、氷の神、地の神、雷の神、幻の神、そして志の神。
 彼らが死んだとき、彼らのコア宝石が形成された」
「ちょっ、ちょっと待て」

ついていけない頭を押さえ、勇は氷雨を制止した。

「それって……神がいる事前提だよな?」
    、、
「神はいた。そして神は絶滅した」

氷雨がそういうと、勇は硬直した。それを見てか、氷雨は説明を続ける。


「だから、彼らが死んだ場所に、それぞれのコア宝石が立ってる」
「ちょっと待て、『立ってる』ってどんだけデカいんだよ?」

氷雨はじっと勇の方を見つめていたが、やがて口を開いた。

「高さおよそ10m、重さにして100トン」
「んな!?」

思わず、薄暗く静まり返った廊下で大声を上げてしまった。
とっさに口を押えるが辺りには残響が響いている。

「エリフのコア宝石が大体4gだから。。。」
え――――――――――――――っと、ダメだ。桁変換能力がついていけない。

「エリフ2500万匹相当」
「ひょえ―――――っ」

まぁ神様なんだから当たり前と言えば当たり前か。存在すれば……の話だが。

「んで?それがどうしたんだよ?」
勇が聞くと、氷雨は水晶に視線を移し、口を開いた。

「志の神のコア宝石だけ見つかってない。けどこれが――
















 ――志の神のコア宝石、その欠片の可能性が高い」
「!!」

志の神のコア宝石――
もしそれが本当にあるとしたら、それは志の神の存在、そして彼が死んだことが証明される。

「可能性ってどれくらい……」
「99.99%」
氷雨は勇が言い終わる前に答えた。もし、もし、そうだとすれば――


「志の神の力ってのは、他のシピアを奪うこと……?」
「それは付属効果、本効果は――」

そこまで氷雨が言ったところで『ゴーン』と低い鐘の音があたりに響き渡った。びくっと肩を縮ませる。

「……消灯…」
「あ、そっか」

今までずっと寮にいて聞いたことがなかったが、消灯の時間が迫ると支部内に鐘の音が響くシステムになっているのだ。

「んじゃな」

勇はそれだけ言うと足早に寮へと戻っていった。


「……志の神は、人の――――。」
誰もいなくなった廊下で、氷雨は静かに呟いた。