神々の戦争記

作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-31


「本部ってまさか……」
黒御影が唖然として口を開くと荒川は頷いて梯子に脚をかけた。
「この上にある。一人ずつあがってこい」

今だ状況を理解できていないメンバーを置いて、荒川はとっとと上に上がってしまった。メンバーが目を合わせる。
やがて、榊が頷いて梯子に歩み寄り、カツンカツンと金属音を響かせながら登って行った。
それに続くように、残りのメンバーも次々と梯子を上っていく。

やがて流れ的に勇の番が来て、勇は梯子に手をかけて上を見上げた。
一体どれぐらい上るのだろうか。

「おい、早くしろ」

後ろの川島に言われて、勇はあわてて梯子を上った。

あっという間に体が天井の中に入り込む。
足音の反響具合から、どうやらこの通路自体は相当長いらしい。

しかし、しばらくのぼっていると前に続く道があり、梯子はそこで終わっていた。
勇の前にいた真里谷がスタンと梯子からそちらの方に移る。

視界が開けた勇は、改めて上を見上げてみた。


――やはり長い。一体この先はどうなって……


「さっさとしろっつってんだよ!」「うげっ!?」

後ろから打撃を加えられ、勇は転がり込むように入り口にどてっと這いつくばった。
急いで上がると、そこはアパートの一室のような作りになっていた。広さも1LDKと言ったところだろうか。

部屋の奥にはキッチン、入ってすぐ右には洗面所か何かにつながっていそうなドア。
中央にはちゃぶ台が一つ。それを囲う様に座布団が乱雑に置かれている。
さらに部屋の右側の壁の真ん中付近に、横に細長い窓が壁を上下に隔てるようにズラリと並んでいる。
部屋の左側にはびっしりと本が詰まった本棚が並んでおり、奥の方にはパソコンも一台。
とてもじゃないが【作戦本部】のイメージとはかけ離れている。

「随分とアットホームな作戦本部だなー」

榊が壁をトントンと拳で軽くたたきながら言った。
他のメンバーも部屋の中を見渡しながら不可解そうな顔をしている。

やがて、12人全員がそろって荒川は入り口の内開きドアを閉めた。そしてこちらを向く。

「ここが作戦本部だ。裏鉄隊の任務の発令や作戦会議などは全てここで行う。手短に説明するから聞き逃すな。
 まず、ここに入ってくるときにスイッチを色々といじったが、暗号が非常に面倒なため後でまた紙を配る。
 だが、基本的にあの操作は必要ない。
 あのスイッチのどこかをいじれば、必ずこの部屋内にブザーが鳴り、
 会議室に設置されている監視カメラの映像をモニターすることが出来る。
 天井の開閉、梯子の上げ下げもこの部屋でボタン一つで作動できる。つまりインターフォンみたいなもんだ。
 本部内に一人でもメンバーがいれば、下にいる者はワンクリックで入室できるというわけだ。
 入室上の注意は以上だ。次にメンバー間での連絡手段だが――」



……残念ながら、勇の集中力は限界だった。



「――すげぇ、立ったまま熟睡してるぜ」
「ホントだ!写真撮ろう!」
「五十嵐先輩って意外とすごいのかも……」
「あ、お供カラス来たぞ」
「あれか、あの第一部隊で噂になってるっていう」
「研究部でも噂になってる」
「マジで!?すげぇ影響力だなー」
「――わぁ!目開けたぁ!」
「キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモ――」
「これぞ真の半開き」
「これって見えてるんですかね???」
「さぁな、どっちにしろそろそろ起きないとまずいだろ。おい五十嵐――」

眩む視界と反響する声の中、勇はコツーンと額に鋭い痛みを感じた。
耐えきれずに後ろに二、三歩下がり、手のひらで額を抑える。

「痛って……」
「痛い痛い言ってる場合じゃねぇ。どうせお前話の半分以上聞いてないんだろ?」

一回しか言ってねぇよ、と言い返そうとするが、強烈な眠気がそれを阻害する。このまま床に倒れそうだ。

「まぁ詳しい事は寮に戻ってから説明する。とりあえず1時から作戦会議が始まるからそれまでにここにサインしろ」
「サインだぁ……?」

見ると目の前で川島が一枚の紙を突きつけていた。
確かに、パソコンで打ち込まれたごちゃごちゃした文章の下に、勇以外の11人の、直筆の署名がズラズラと並んでいる。

「さっさとしろ。お前以外全員終わってんだ」
「分かったよ……もうなんでもいいよ…寝れれば……」

勇はへたりと地面に座り込むと、川島から渡されたペンを握る。



――その時だった。



妙な不安に襲われたのは。