神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第五話 「裏鉄隊と残された一匹」-26
『何?それは本当か?』
「間違いないっすねー。うちの妹が言ってるんで」
静まりかえった夜、鈴原は自室でペン回しをしながら電話の向こうの上官に言った。
『つまり、敵が狙っている『雫』はそこにあるんだな』
「そーゆーことです。ただヒントくれた理由が俺には分かりません」
『その男が敵であるかどうかがまだはっきりしていない。もしかすれば……悪い、なんでもない』
聞いて鈴原は苦笑した。気を遣っているのはバレバレだ。
「気にしないで下さいよー、俺もあいつも分かってますから」
『そうか……分かった。報告ご苦労』
「いえいえー。うちの妹がそちらにお世話になるなんて噂を耳にしたんでねー。一応です。あいつ口堅いんで」
しばらく間を置いて、上官は言った。
『……どこからそれを』
鈴原はほほ笑みながらペンをくるりと宙返りさせる。
「情報網ってものがありますからー。死角はないっすよー」
『お前には負けたよ。こっちでも成果が出たら随時報告する』
「ありがとございまーす。あ、これって給料上がったりします?」
『この前昇格したばかりだろうが。頼むぞ、鈴原班長』
それを聞いて、鈴原はテーブルに乗っていた、この前もらったばかりの通告書に視線を移した。
「りょーかいっす。よろしく頼みます裏鉄隊隊長」
それには何も答えず、相手は電話を切った。
鈴原はふぅーっとため息をついてカーテンで閉ざされた窓の方に目を向けた。
……なんか騒がしいな。
そっとカーテンを開けると、門限を過ぎているのにも関わらず、人影のかたまりがこちらに向かっているのが見えた。
わずかに歌声のようなものも聞こえる。
――にし~のおっちゃぁんふんどしいっちまいっ あらブヒッブヒッブヒッ あそ~れブヒッブヒッブヒッ
思わず鈴原は笑った。
昼間にコルピオスの討伐訓練が行われていたと聞いてはいたが、まさかこの時間まで遊んでいるとは。
鈴原はもう一度カーテンを閉め、そしてベッドに横になった。
――雫は霞ヶ丘に滴り落ちん……
謎が、少しずつ、絡み合った糸をほどくようにして解けてゆく。
「…………
眠いッ!!!!!」
「無駄口叩いてないでさっさと着替えろ。緊急招集だぞ」
翌朝早朝。
頭を爆発させた状態で、勇はベッドにポカーンと座りこんでいた。
もちろん、その頭には記憶だけの存在である『ジャクエ』としてこの世界に取り残されたカラスが乗っている。
そのため、爆発した頭がまるでカラスの巣であるかのような異様な画に仕上がっている。
川島は、さっさと着替えを済ませて鍵を手にし、タムタムと足を踏み鳴らしていた。
「だって昨日あいつ倒したんだよ?もっと寝かせろよ不公平だろー!」
「焼き肉食いに行こうと最初に言い出したのはどこのどいつだ!いいからさっさと着替えろ!!」
結局、昨晩半ば強制的に金髪カツラだけ被せられ、バシャバシャ証拠写真を撮られた川島は不機嫌な様子だ。
これ以上怒らせたら何するか分からないので、勇は渋々着替えをし始めた。
-*-
「遅いぞお前ら。連絡から何分経ったと思ってる」
一番最初に召集された小さな会議室に一番最後に入った二人は、初っ端から荒川に叱られた。
川島が深々と腰を折って謝罪する。
「申し訳ありません」「ありません…」
その後にぎこちなく続いた勇の姿がおかしかったのか、数人のメンバーが吹き出した。
「……まぁいい」
それを見て再び不機嫌面になる荒川だったが、話をし始めた。
「全体召集前で悪かったが、最悪の事態が発生した」
「最悪の事態?ってなんですか?」
峰がおびえたような顔をする。メンバーの間にも緊張が走った。
「先日、妖魔による支部襲撃を行ったとされる組織『黒鴉(ブラックロウ)』が先ほど、犯行声明を
無料動画サイトにのせている事が明らかになった。これを見ろ」
荒川は、困惑気味のメンバーが取り囲む事務テーブルの上に置いてあったノートパソコンを開いた。
既にそのサイトは開かれているようで、すぐに動画の再生ができる状態になっている。
「あ、ようつべだ」
桐山が言った。隣にいた勇は顔をしかめる。
「ようつべって何だよ」
「え、あんた知らないの!?ほら、今話題のミクとかが載ってるやつ」
桐山の説明が不服だったのか、今度はファレンが口を開いた。
「あれ本家はニヤニヤ動画の方じゃないんですか?」
「うっさい。静かにしとけ」
真里谷の警告で再び緊張が張り詰める。
それを確認した荒川は、動画の再生ボタンをクリックした。
それは、暗い倉庫かどこかのようなものを固定したカメラで撮影しているものだった。
カメラはテーブルの上に置かれているのか、画面には誰も座っていない椅子が映し出されている。
しかし数秒ほどすると、スーツを着た一人の男が画面の右側から現れ、椅子に腰を掛けた。
顔は画面外に出ていて見えないが、体格から推定するに年齢は40半ばというところだろうか。
『画面の前の諸君、ようこそ。この動画を目にしてくれたことに感謝する。
我々は真の平和を求めるために結成された組織、黒鴉だ』
画面の中の男は言った。声は低めに変換されている。20世紀少女に出てくる包帯男のような声だ。
『そして私がそのトップに立つ存在、いわゆるボスだ』
「なんかうぜー」
黒御影がつぶやくと、周りはそれに賛同するように数回頷いた。
『我々が望む真の平和、それは他でもない、シピアの根絶だ』
男はテーブルの上に載せた手を交差させたりしながら話を進めていく。
『現代社会においてシピアは、民衆の安全を脅かし、時に災害をもたらす。
諸君も知っているだろう、妖魔という名の怪物が、すぐそこをうろついている。
しかし、それを守ってくれているのはゼンザス、妖魔討伐組織だ。
現代の平和は彼らによって守られ、続いている。
彼らの活躍は諸君も知る通りだ。妖魔が民衆に危害を加えようとすれば、全力でそれを阻止する。
だが、それには致命的な問題点がある。
それはずばり、継続的かつ確実に発生する『犠牲』だ。
妖魔が出たら倒す。被害が出たら謝罪する。果たして本当にこれでいいのか?
12年前のあの悲劇を、忘れた者はいないだろう。
ゼンザスは力になれず、結果多くの尊い命を奪い、犠牲者を出した』
「こいつ……!」
勇が拳を強く握り、歯を噛み締めた。
両親は死んだ。だからこそゼンザスに入った。守り抜く。そう決めた。
それを侮辱されたからには、怒りを押さえつけることはできなかった。
『残念だが、これが現実だ。
事が起こってから対処するのでは遅すぎる。
今の体制を根本的に変えなければ、真の平和は訪れない。
これほどまでに妖魔の数が膨れ上がった現代においてそれを実現するには、
根本的な原因、つまりシピアを排除する以外に方法はない。
我々は真の平和を最終目的とし、非力で野蛮なゼンザスなど不要の世界を築き上げる。
その為にはまず、志の神を復活させる必要があるのだ。
フッ、神は存在しないと思っていたか?
深く考える必要はない。真実を知り、自らの手で世界を救いたければ、我々に連絡してくれたまえ。
諸君の理解を、そして平和を願う全ての者の幸福を祈る。Good Luck』

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