神々の戦争記
作者/海底2m

第一章 第二話 「記憶」-2
のちに「東の大惨事」とまで呼ばれるようになったこの事故は、20数名の死者を出し、
重軽傷者を含めれば被害者数は3桁を突破した。両親はその20数名の中の二人。
もともと勇の両親はシピアーで、気づいていなかったが、自分自身もそうだった。
おとぎ話は何回も聞かされている。その時はその話を丸々鵜呑みにしていたが……
「神がいるのならそれは死神だ」
葬式に参列しているとき、そればかり考えていた。
なぜ神がいたのに親が殺されなければならないのか?
志の神だと?ふざけるな。
そんな事情は聴きたくもない。
神様の存在意義が全く意味不明だ。
こんなことはもう起こさない。守りたい。いや、守る。
ただ、それだけ。
*
「五十嵐、もう着いてんぞー」
「え?あ、はい」
鈴原の声で目が覚め、トラックを飛び降りる。
その時の決意が、勇を今この場所に立たせている。
「もう今日は訓練とかないです…よね?」
辺りはもう夕焼けに染まり、実践もしたことなのだが、あの鬼は何をするかわからない。
勇はおどおどしながら鈴原に聞いた。
「分からん」
鈴原は持ち前の適当さでそう一蹴すると、屋内に入って行ってしまった。
「五十嵐」
「あっ」
背後から 近づいてくるは 鬼の声
「何勝手に詠んでんだ、てか鬼とは誰のことだ?あぁん?」
「い、いえっ!なんでもありませんよ!(エスパーかぁ!!!!)」
目の前の荒川に冷や汗を流しながら、勇は必死に弁解した。
「まぁいい。今回の件だが、力が足りなかったとはいえよくやった。
戦術的にも非常にレベルが高い。誉めてやる」
「え?あ、はい」
普段ならほめるなどという行動は絶対に見せない荒川の声に一瞬戸惑いながらも返事を返す。
「それと今日はもう訓練はなしだ。デカい仕事が1個入ってるからゆっくり休め」
「え?あ、はい」
なんか多いぞこのフレーズとも思いながら屋内に向かう荒川を見送り、勇は脱力した。
後ろから川島が声をかけてきた。
「デカい仕事ってなんだ?」
勇は肩を竦めて言った。
「さぁ…」
お互い疲労がすさまじいため、会話には発展しない。無言のまま帰寮の道をたどった。
勇と川島は同室で、部屋は綺麗に2分割されている。
唯一国境をまたいでいるのは小さな丸テーブルだけだが、これも半円ずつに分割だ。
部屋にあるのは2つのベッドと冷蔵庫。これは1個しかないので公正なるじゃんけんで川島領に入っている。
帰寮してから二人でシャワーを浴びに行き、夕食はカップラーメンで済ませ、床に就いた。
部屋の電気を消すと辺りは完全に静まり返る。唯一聞こえるのは虫の鳴き声と冷蔵庫の駆動音。
そうして勇は眠りについた。

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