神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第四話 「コメディを取り戻すべく旅へと出かけよう」-6
「なぁなぁ、まだ見つかんねーのかよー志シピアのコア宝石ー」
「うるせぇな。お前ちょっと黙るってことを知らねぇのか」
いつかの薄暗い倉庫の中。若い帽子の男の問いに、新聞を読むスキンヘッドの男が煩わしそうに言った。
倉庫の内周を階上通路が囲っていて、帽子の男はその左側の欄干に座ってぶらんぶらんと足を揺らしている。
「向こうも今出来る範囲で全力を尽くしているそうですが、やはり支部長の交代が必要ですね」
帽子の男が腰を落としてる反対側、右側の階上通路に設置されたコンピュータの前で、情報係の女は言った。
「ちっくしょー、あのおっさんモタモタしやがってー!」
「おいマギス、副総裁だぞ、慎め」
ムキムキ男に「マギス」と呼ばれた帽子の男は「へーい」と適当な返事をしたが、全く気にしていない様子だ。
「でもロッドだってこの間総裁のこと『じじい』って言ってたじゃねぇか、なぁ?リシア」
ムキムキ男の名はロッドというらしい。リシアと呼ばれた情報係の女は依然、モニターを見つめたままだ。
「耳にしたことはありません」
「えー、そこ嘘でもいいから乗れよなー」
「だから幼稚なんだよお前、いい加減自分の仕事に集中しろ」
「ロッドだって新聞読んでるだけじゃねぇか」
「これも仕事の一環なんだよバーカ」
「なっ!?バカっつったなこの野郎!」
美男子マギスが欄干から階下に飛び降り、肉体派ロッドに飛びかかろうとしたとき、リシアが「あっ」と声を上げ
た。
「なんだ、新しい情報か?」
ロッドが新聞から目を離して聞いた。リシアはモニターを見つめたまま、いたって冷静に答えた。
「副総裁からの連絡で、明日午前10時から研究・総務合同臨時会議が開かれるそうです」
「ではこれより、研究・総務合同臨時会議を行います。
司会はわたくし、伊藤が務めさせていただきます。議長は青木和一二等総務佐官です、よろしくお願いします」
翌朝、午前十時。司会が一礼すると、第四会議室の中には重々しい空気と共に静寂が訪れた。
司会は続ける。
「では、さっそく議事に入ります。妖魔賛同組織の存在について、通信連絡課、若松曹長お願いします」
呼ばれた若松は立ち上がると、資料を手に説明を始めた。
主な内容は先日、ルティアが支部長に提出したものとほぼ同じだった。
ある組織がキザラビスタの大量発生に関与している可能性。
何者かが支部内外の通信機能を妨害した事実。
そして、それにより何者かが謎の放送を入れたということ。
「……と、いう訳で、我々は最高総務課に特殊捜査命令を要求します」
若松はそういうと周りの反応を待った。
「通信妨害の具体的な被害とは?」
「避難警告が鳴らせず、代わりに何者かの音声が入りました。内外のどちらから入電したのかは不明です」
「通信履歴は」
「削除されていました。おそらく相当の腕を持つハッカーか、その権限を持つ内部の上位部員でしょう」
その一言で辺りがざわめいた。
「上位部員?我々を疑っているとでもいうのかね」
「大体、通連課そのものは信用できるのか」
「まぁまぁみなさん、落ち着いて」
司会がなだめると、若松は口を開いた。
「疑っている訳ではありません。可能性を指摘したまでです」
「ならどうする?一人ずつ尋問にでもかけるか?」
誰かがせせら笑うように言った。若松はあくまでその質問に答える。
「駄目です。支部内での内部監査規定がありませんので」
「だったら外部から虱潰しに調べて行けばいいだろう」
今日の情報技術では世界中どこからでもあらゆるネットワークにアクセスできてしまう。
ひもくじで、目的の景品を引っ張ればどの糸を引けばいいのかがすぐわかるが、普通にやれば当たる確率は少ない。
ひもくじならせいぜい何十本だが、無線通信ともなれば「虱潰し」などという比喩だけでは足りないだろう。
「我々はこれが組織の計画であると踏んでいます。どうか捜査命令を」
若松は青木の方を見たが、青木は表情を揺るがさない。
「そんなことより、あの謎の鉱石の話はどこに行った。それが今日のメインの議題じゃなかったのかね」
研究部の一人が言った。司会が口を開く。
「では、少し早いですがこの件は後に回してそちらの議題に移りましょう。武器開発課、鶴迫二佐、お願いします」
司会が言うと、若松は座り、代わりに鶴迫が立ち上がった。
「えー、イディオゴン討伐の際に使用した謎の鉱石がもたらした効果。僕らはあれが志シピアであると踏んでます」
今度こそざわめきが最高潮に達した。
「なんだと!?志シピアが存在するとでもいうのか!」
「志の神は封印されたのではなかったのか」
「いや、そもそも神がいるかどうかさえ……」
「馬鹿、神の話なんざどうでもよいわい。その鉱石はどこで発見されたんだ?うちが調査しよう」
「待て!なぜあなたのところなんだ。調査権利は当然我々に……」
耳に入る言葉を流しながら、青木は考えた。
――私利私欲を考えている場合などではないだろう
「皆さんお静かに。神の存在は肯定も否定もできない。
けど、あの鉱石がもたらした効力はすさまじすぎだとは思いませんかい?」
「だとすれば?」
「コア宝石だという可能性は低い」
誰かの促しに、鶴迫は落ち着きを払って答えた。
あれだけのサイズであれば、ルビー(火のコア宝石)ならマッチ一本燃やせるかというところだ。
コア宝石は所詮魂の残骸に過ぎない。ならば――
「志の神の残した遺産、つまり志の神のコア宝石」
「だから志の神がいるかなど――」
「そこのところ、氷雨君はどう考える?」
ふと誰かが氷雨の名を上げた。全員の視線が少女に集まる。
今まで一言も発することのなかった氷雨だったが、ゆっくりと起立し、口を開いた。
「志の神はいる。どこかにそのコア宝石がある。あれはその欠片」
ざわついた室内は、一気に静寂に包まれた。

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