神々の戦争記
作者/はぜのき(元海底2m

第一章 第三話 「たかが幻、されど幻。彼の瞳もいつも幻(殴」-10
「っ!」
荒川はキザラビスタの斬撃をしゃがんでかわすと、塹壕の中に飛び込んだ。
追ってくる敵を炎の拳で一発殴って吹っ飛ばす。
「どうした?」
隣でスタンバイしていた井上が聞いた。
荒川は額を指でこすりながら空を見上げる。
「――呼吸じゃない呼吸が聞こえる」
井上はそれを聞くと、一つ頷いて隣の真里谷を小突き、顎をしゃくった。
「了解」
真里谷は無線機を取り出すと、隊長の周波数に合わせる。
『どうした』
耳の向こうで滝浦が言った。真里谷は落ち着きを払って口を開く。
「十時の方向に二、三匹の敵の逃走を確認しました。
仲間の誘導を抑えるため、只今より荒川、井上二曹両名と共に後を追います」
『分かった、片付け次第連絡を入れろ』
「了解」
真里谷が無線を切ると、井上が背中をポンとたたいた。
「上出来」
「とんでもありません」
真里谷は言うと、三人は塹壕から飛び出し、群れをかき分けながら草原を突っ切った。
男は西の草原のとある丘の上に立ち、静かに顔をかすめていく風を感じていた。
髪は長く、透き通るように白い。着ているのは赤と黒の混じった着物ようだが、靴はヒールブーツだ。
男が地平線を見つめていると、突然、胸の中で携帯が振動した。
完全に時代がかけ離れているハイテクスマホを胸から取り出すと、男はそれを耳に当てた。
相手は――真里谷六角。
『――と、いう具合に作戦を実行しました。後はよろしくお願いします、フォルティス三佐』
報告を一通り聞き流すと、フォルティスと呼ばれた男は口を開いた。
「了解だ。こちらは任せておけ」
ヴィータ・フォルティスはそういうと、携帯を再び胸の中に戻した。
すっ、と背中に掛けていた鎌を抜き取ると、それを握りしめる。そして再び地平線を見つめ始めた。
と、その時。
「はぁ、はぁ……」
背後から荒い息と共に何者かが走ってくる気配を感じた。
ヴィータは後ろを振り返りもせず、鎌を持っていた右腕をすっと肩と水平に持ち上げた。
「あだっ!!」
右側をそのまま通過しようとしていた人物は、額を鎌の柄にしたたか打ち付け、すっころんだ。
ヴィータは初めてその人物…少年を見る。
「……貴様が五十嵐勇か」
「あ?姉さん誰?つーかどいてくれないかな」
勇はごしごしと額をこすると立ち上がった。
そのまま通り過ぎようとする勇の前に、ヴィータは回り込み、鎌を向ける。
「吾輩はヴィータ・フォルティス。他の人間はおろか、貴様をここから先に行かせるわけにはいかん」
「……いや、俺はここを通りたいんだけど。てか男だったのかよ!」
勇が突っ込むのを見ると、ヴィータはヌッと勇の後ろに回り、その首に刃先を引っ掛けた。
「通りたくば吾輩を討ち取るがよい」
「あー、なーるほどね」
勇はそういうと、しゃがんで鎌の下に回ると、そのまま前に跳んでヴィータとの距離を取った。
こちらを向き、二本の棒を手に勇はニヤッと笑った。
「んじゃ、遠慮なく」
キン、と無機質な接触音と共に、閃光が視界を覆った。

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