神々の戦争記
作者/海底2m

第一章 第二話 「記憶」-29
容赦なくそこに針がぶっ射し込まれる。
痛くはないのだろうが、勇のその表情は苦痛に満ちている。
やがてSLSEの中に金色の牛乳を水で割ったような液体(想像し難いがこう比喩するのが一番適している)が溜まった。
氷雨は先ほどと同じような手順でSLSEを試験管に組み立てかえる。
次はあの液体をとって…と勇は思っていたが、氷雨は、金色の液体を半分ほどもう一つの試験管に入れ替えると、
予想に反して奥にあった巨大な金庫のような鉄箱の前に歩いて行った。
ガチャコンと頑丈そうな取っ手を回すと、プシューという音と共に、扉の隙間から白い煙が湧き出てきた。
近づいてみると冷気が風に乗って肌に心地よく感じられる。
氷雨はゴソゴソやって、一つのガラス瓶を取り出した。大きさは大体高さ30cmぐらいだ。
ゴトン、と机の上にそれをおくと、キャップをあけ、ピペットを使って中の液体を取り出した。
液体は綺麗な水色に輝いていた。思わずその場の誰もが息を飲む。
氷雨は慎重にそれを持っていくと、一つの試験管を左手に持ち、その上にピペットを持ち上げた。
「おい、まさかここでやるんじゃねぇだろうな」
「安心して、外でやる」
直属ではないといえ上官である荒川に完全敬語無視なのは恐ろしく度胸がいることだが、
その口調ぶりは、ナメているというわけではないことだけは確信できるので荒川も反論しない。
中庭に通ずるガラス製のドアを開け、氷雨は外に出た。もちろん、他四人も同行している。
辺りが静まり返りすぎているのは気のせいだろうか。
「行くよ」
氷雨の声とほぼ同時に液体が試験管の中に垂れた。その瞬間――
「「「!!」」」
試験管の中の液体が突如沸騰を始めた。ボコボコという音と共に試験管から煙が上がる。
急に風が強くなった。太陽が分厚い雲に隠れ、見えなくなる。
氷雨はパッと試験管を空中に放ると、芝生の上に倒れこんだ。そして――
『ゴゴゴゴゴッオオオオオオオオオォォォォォォォンッ!!!!!』
視界を埋め尽くすほどの閃光と共に、空中に浮いた試験管に向かって天から雷が落ちた。
白い焔と共に、目の前の空間がはぎとられるようにして見えなくなる。
試験管の割れる音など聞こえないほどの爆音があたりに響き渡った。

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