神々の戦争記
作者/海底2m

第一章 第二話 「記憶」-10
朝会が終わり、戦闘員が訓練に向かった時、荒川は井上を呼んだ。
「五十嵐の親父さん、なんかあったのか?」
「あぁ五十嵐吾郎さん?なんで?」
荒川は頭の後ろをバリバリと掻いた。
「昨日うなされてたようだったからな」
荒川は寝ていた素振りをしていたが、上官たるものが全員睡眠するわけにもいかない。
必ず誰かひとりは起きているのだ。
「お前も聞いてたんだ?まぁ、言い方はよくないかもしれないけど、吾郎さんは東の大惨事で亡くなってる」
「東の大惨事でか?」
東防壁エリア内にレベル9の妖魔が侵入し、壊滅的な被害を受けた事例だ。
当時、セリアム以外でレベル9の妖魔が確認されたことはなく、この事件により全世界に電撃が走った。
その被害者というならば――
「相当強かったのか」
「あぁ、氷シピアだって噂を聞いたことがある。
俺もさすがによくは知らないけど、本部からスカウトされたこともあるらしい」
「本部から!?」
通常、人間の前に姿をさらす妖魔はより強力なシピアをもつ人間を喰らう。
それは、自分の空腹を満たすためでもあり、権威を示すためでもある。
しかし、レベル9の妖魔に狙われるということは相当なシピアを有することになる。
それこそ本部からスカウトされるほどに。
「まぁ、そうっとしときな。変に触っても傷えぐるだけだ」
「……あぁ」
*
「いいか、防壁は山の中に万里の長城風に建てられている。
防衛地点から壁まで700m。向こうは下手すりゃ万単位で攻めてくる。
とにかく前だけ見て撃って蹴って追い返せ。自分のサイドは自分の責任で守れ。
一匹でもこぼれたら即死刑だぞ!」
「了解!」
滝川の激に隊員たちは声を張り上げた。
今回の作戦では三人一組の組でまとまる。一組につき塹壕が一つ用意され、そこを拠点として防衛する。
勇の組には川島、それからルティア班の若い男子が入った。
「初めまして、ファレン・S・サンタアレラクです」
「あ、え?、は、はい。よろしくお願いします…」
一級上と聞かされていたが、まさか自分たちより若いとは思わなかった。
しかも妙に敬語である。話しかけづらくてしょうがない。
「初めまして。二士の川島です。よろしくお願いします」
勇とは打って変わって、丁寧な対応で自己紹介を済ませた川島に、勇はぷーっと頬を膨らませた。
「ちょっとこっち向いてみろォ!!」
何処からともなく聞こえてきた罵声に、三人とも後ろを振り返った。

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