ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅰ 天使 】―― 1 ―― page2
「ままままままま魔物ののだだああぁぁぁああっ!!」
「あ、あ、あんたぁぁっ!! 逃げんじゃないよっ!! 向かってくるじゃないかっ!!」
「てっててか、な何で、村に近づいて来るんだっ!?」
「ニードさんだ、ニードさん!! 村長の息子だからって、威張り散らして、
魔物まで怒らせちまったらしいぞっ」
……騒ぎながらご丁寧に説明してくれて、どうも。
なんてマルヴィナはあきれつつもひょいひょいと人ごみをかわして騒ぎの元のところまで行く。
(苦瓜ズッキ―ニャと、スライムが二匹……)
青、緑、青。……華がない。
……さて、その七分後、三匹の“華のない”魔物たちはスタコラ退散し、
住民はほっと一息ついたのだが。
その裏側で、守護天使マルヴィナはこのような状況にあったわけだ。
「あぁんの、人間がああぁっ!」
叫んだのは、ズッキーニャ。ちゃちな槍を右手に、ぶんぶんぶんぶんと振り回して、走る走る。
「ず、ず、ズッキ~~。待って。早い。ギブギブ」
へばった声をあげるのは、スライムのうち一匹。仮にスライム1。
「なさけないっぺ。最近のスライムっちゅーのは皆そういうもんばっかだべ」
微妙に人間ナイズな言い草をするのは、もう一匹のスライム、仮にスライム2。
「あの、ニードとかいう人間、あの村に入ったよな!?」
「は、は、入、ったぁぁねぇ、ひいひい」
「んだんだ。おいら、眼のよさだけは一スライム前だっぺ。確かにあの村だぁ」
ぎゃあぎゃあと、人間の叫ぶ声がする。彼ら魔物の、最も好きな声である。
「へんっ……いっ、くぜぇぇぇぇええげっ!?」
有頂天に達したズッキーニャが叫んだ、そのタイミングで――
マルヴィナは、三匹の前に降り立った。
「あ、え、っは……?」
困惑顔(だと思う)のスライム2匹をちらり、と見て、その2秒後には、
風に踊っていた闇色の髪はそこにはなかった。
いきなりの乱入者に肝を抜かれたスライム2匹は、
……その瞬間、
「おこぺっ!?」
「ふんだらっ!?」
……奇妙この上ない悲鳴を上げて、昏倒した。
後ろで闇髪が揺れた。手に、銅の剣。
いうまでもない、マルヴィナが、疾風となって剣で気絶させたわけだ。
マルヴィナは体勢を整えなおすと、残されたズッキーニャに見向かう。……凶悪な笑顔で。
「……村を襲おうとする身の程知らず、成敗」
「………………」
ズッキーニャは、つま先から一度ブルってから、あわあわと槍を構えた。
「……ったく、これで帰りはしないか……」
マルヴィナは“勝負”を求めていたはずなのに、“戦い”をしそうな雰囲気を感じ取り、溜め息をつく。
「……うう、うるせいっ。貴様、天使だなっ!?」
「そうだけど」
「て、天使なんかに、負けるかぁっ!!」
「……負けると思うよ。その槍じゃ」
マルヴィナはそっけなく、言う。
ぎくり、として、ズッキーニャはぱっと槍を見た。
……異常は、ない。何がまずいと――
……ドバコ、
――と、微妙に鈍い音がして、ズッキーニャはよろめきひっくり返る。
ズッキーニャの意識が槍に向かったその瞬間に、マルヴィナの攻撃。しかも剣ではなく肘鉄。
仰向けにひっくり返ったズッキーニャを見て、マルヴィナは一言。
「……悪い。見間違いだったっぽいわ」
……抜け抜けと。
剣先を抜かりなくズッキーニャの鼻先(おそらく鼻のあたり……だと思う)につけつつ。
ズッキーニャが慌て、横のスライム二匹に助けを請うようにちらり、と横目をくれたが、
青の物体は今だ昏倒中であった。
「……いいか?」
そんなズッキーニャに、マルヴィナは一言言うと。
ぽかっ、
「ふだっ!?」
「はぴょ!?」
再び奇妙な声をあげさせて、青の物体、スライム二匹を起こしてやる。……殴って。
「な、な、なにぐぁ、何がどうなってどうしてどういうわけでその、」
「落ち着け」マルヴィナ、涼しい顔で一言。
事を察して身を引く(微妙に変形している)スライムたちを確認して、マルヴィナは静かに言う。
「……あんたたち、人間は嫌いなんだろ?」
「……ふぇっ!? い、いや、……えっと」
「いや、いい」マルヴィナは言う。「分かってる」
スライムの一匹は、小さく「んだ」とだけ答えた。
「人間った、すぐ暴力に訴えっぺ」
「野蛮だよね!」
「おい」
ズッキーニャも同じ事を考えているのは丸見えだったが、目の前の天使を見て、たしなめておく、が。
「そうだな。人間は、そういう生き物だ」
意外も意外、賛成してくるのである。三匹は顔を見合わせた。
「だが、あんたらは? わたしが止めに入らなかったら……今頃は?」
数秒沈黙。
「……嫌いな人間たちと、同じになってただろ?」
「…………」
マルヴィナはふっ、と笑う。この説得で、通じなかったら、悪いけど。そう思った。
だが。
「……うん」
答えはそれ。声に出さず、(約一匹渋々)頷く二匹も。
「……んじゃ、ほれ。行きな」
マルヴィナは、剣を収め、手をひらりと振った。
ぽけらん、として、状況を理解できていない三匹に、追い討ちをかけるように一言。
「……だが、次、同じような光景を見たら……容赦せず、斬る」
……青一色の顔が、ぱっと桃色に染まる。
命拾いした三匹は、後を見ずしてさっさと森の中に消えた。
「……ほんとに反省してんのかな……」
これで、七分。
……なんて事が起きていたというのに、なんせ人間にはマルヴィナが見えない。
「……ま、これだけ遠けりゃ、感謝もなんもされないわな……」
肩をすくめた天使は、翼をはためかせ天に飛ぶ。
平和な村の外。

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