ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅠ 予感 】――1―― page2
幸いにして、エルシオンには夕方になる前に到着した。
「う――――……あ、何か意外とあったかいな」
腕をさすりながらマルヴィナは言った。
エルシオンに入るには許可が必要であった。生徒であれば学生証ならぬ学院生証、
商人だったらその名と誕生日などの行き過ぎない個人情報―世界商人登録票と一致するか確かめるのだそうだ―。
旅人は最も許可審査がやりにくい人種だが、ダーマ神殿に登録された旅人、即ち“称号”を持つものなら
そのやりにくさが無くなる。幸い、四人ともそれぞれの称号を持っているので、あまり待たされることなく
許可をもらったのだった。
「何か魔法的な力を感じるわ。……きっとその力が働いて、暖かくなっているんだと思う」
シェナがそう呟いた。さすが魔術師、とセリアス。
「……広いな。この土地の七割くらいがその学院みたいだ」
キルガがおおよそを見積もって言う。確かに、学院内ではないここでも、一般民の恰好の者より学生服を
装備しているものが多かった。
「やっぱ賢者だから、こーいう頭よさそうなところに居座ってんのかなぁ……」
「はい? ……何?」
「いやシェナじゃなくて。マイレナだよ」
「あぁ、そっちね」
納得してから――別に示し合わせたわけでもなんでもないのに、四人は同時に足をピタリと止める。
そして、全員がほぼ同じ内容のことを思った。
即ち――行き場所に困ったのである。
……どこに行くべきだろう? 今更ながらにそう考えた四人に――ちょうどまさにその時、声がかかった。
「……お待ちしておりましたぞ、探偵殿!!」
……と思えば、全然違う人を呼んでいたらしい。何だ、違うのか――と再び悩みだしたマルヴィナの手が、
いきなりがっしりと掴まれ、顔の前まで上げられ、ついでに上下に大きく振られた。
「えええ!?」
いきなりのその行動について行けず、マルヴィナはされるがままぶんぶん降られる。
目が回りかけてきた辺りで、結局自分たちを呼んでいたらしいその目の前の初老の男性はマルヴィナを解放。
「いやいきなり失礼いたしました。
それにしても、名を呼ばれても簡単には反応せぬそのお姿、やり手の方とお見受けした!」
「「「「…………………………………………」」」」四人、沈黙。
「私がこの学院の長であります。この度は我々の依頼を受けていただき、感謝の言葉もありませぬ、探偵殿」
「た、たん……? いやちょ、わたしらはそ――ってぇ!!」
必死に誤解を解こうと否定し始めたマルヴィナの足を、前置きなしでシェナが思い切り踏んづけた。
マルヴィナは本気で、足から頭にかけて電撃が走ったようにびりびり震えたように感じたりする。
が、その妙な様子に気付かなかったはずがないのに、学院長は話を続ける。
「えぇ、分かっておりますとも。ですがご安心ください、あなた方の正体は、誰にも洩らしませぬゆえ。
では早速事件の話を――ですが立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
そんなわけで、言われるままに学院内に案内される四人。
何かまたややこしいことになってきた、と頭を抱えそうなマルヴィナ、
事件あるところに女神の果実あり、ってゆーでしょ、とサンディ(ちなみにようやく溶けた)、
上手くいくといいけれどな、と苦笑するキルガ、
何か面白そーじゃん、と頭の後ろで手を組むセリアス、
こうなった方が動きやすいでしょ、と満足げな顔をするシェナ。
一体何の集団だ、とすれ違った誰か一人は思っただろう。
「実はですね。昨年度の卒業試験が終わった翌日、若い生徒が一人行方不明となったのです。しかも、次いで半年前、
またしてもひとり……そして最近は、連続して行方知れずとなりました。皆が皆、若い生徒です。
……あぁ、ご存じかとは思いますが、この学校は十代から三十代まで、さまざまな年齢の生徒が通っております。
ですが、いずれも行方知れずとなったのは、十代の若者ばかりなのです」
「それって、夜逃げ……ってことはないか。ここの天候からして、夜は吹雪状態……そんな中で逃げるのは
自殺志望者か駆け落ちくらいね」
「シェナ……」
さらっと子供の教育に悪そうなことを言うシェナに、半眼を送ったのはセリアスであった。
「いや、でも、その通りなのです。そう、突然消えてしまった――と言うことなのです。――ですが、こうして
探偵の皆さんがやってきてくださったからには、事件は解決したも同然ですな!」
イヤだから話聞けよ、……とはもうマルヴィナも言わなかった。
「それは分かりませんが……年若い彼らに聞き込みをしても、簡単に話してくれるでしょうか?」
「無理でしょうね。……学院長、私たちに潜入捜査させてくださらない?」
シェナの発言に、学院長はもちろんと言わんばかりに頷く。残る三人は「潜入捜査ぁ!?」……と叫びかけて、
皆が同じようにその言葉を飲み込んだのだった。
マルヴィナは肩を回しながら、学生寮の中を歩いていた。
結局四人とも『探偵』とされたまま、潜入捜査をしなければならなくなった。
まぁ、救いだったのが、シェナの言うように学院内で果実探しとして動きやすくなったことと、
タダで寝泊まり + 三食飯付き という状況になったことである。
ちなみに、二人一組で調査を進めることとなり、やはりマルヴィナとキルガ、セリアスとシェナの二つに分かれた。
別にマルヴィナとシェナ、キルガとセリアスでもよかったとは思うのだが、シェナが真っ先に
セリアスと組むと言い出したので、そうはならなかった。
「……まぁ、これでいいけどよ。シェナ、お前まさか俺の馬鹿に付け込んで何か狙ってないだろな?」
ものを考えることが苦手なセリアスは心底いや~な予感がしてそう言う。
「考えておくー」
が、シェナの反応はそれだった。
(やっぱり誰かに聞いた方が、情報は集めやすいか……)
明日から学院内に入れることになっている。入学試験さえ受かれば、いつでも入れる仕組みになっているらしい。
だから、その入学試験も受験者が受けたいと願った時に出願すれば良いということだ。
不審がられる心配はなくなった、あとは、どうやって学院内で四人集まろうか……入学試験に同時に
受かった者同士仲良くなった、という設定でいいか。などと、いろいろ考えながらマルヴィナは自分の部屋につく。
鍵を開けようとして――ふと、その手を止める。足元で何か音がしたのだ。どうやら、何かを蹴ったらしい。
視線を落とし、それを見つける――それは、小さな、白いピアスだった。一瞬マルヴィナは自分の耳に手を当てるが、
彼女のもの―守護天使は皆、担当地ごとに異なった色のピアスを装備するのがしきたりだった―とは違った。
よく見てみれば、マルヴィナのものより、もう少し灰色がかっている。
落し物だろうか。そう思って、拾い上げる――その、一瞬手前。
―――――――――……。
「っ!!」
マルヴィナは、ぞくりと身をすくめた。
それは一瞬だった。邪悪――脅威――感じ慣れたその気配――ガナン帝国。
こんな所でも、それを感じた。
(ま……まさか、こんなところにまでいるのかっ……!?)
あたりをぬかりなく見渡す。だが、すでに気配は、消えていた。
「――――――――――っ……」
マルヴィナは軽く奥歯を噛みしめ、全身の力を軽く抜いた。警戒した方が良い。やはり、カルバドでの失態が、
このような形で出て来てしまったのだろう。
落ちたままのピアスを拾い上げる。目の前まで持ち上げる。珍しい形だな、と思いつつも、
何処かで見たことがある気がした。最近じゃない……遠い昔……違う、何か違う。……いつ……?
しばらくの時間をおいてから、マルヴィナは不意に眉をひそめた。目つきが険しくなっている。
その表情のまま数秒固まり――マルヴィナは、そのピアスを、ぎゅっと握りしめた。

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