ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅲ 再会 】―― 1 ―― page2


「どーせならさ。イケメンを探そーよ、マルヴィナ!」
「……断る」
「ケチ」
 “いけめん“の意味が微妙に分からなかったマルヴィナだが、
あんまりいい意味じゃなさそうだったのでそう答える。
「僧侶、の人、いないかなぁ……」
「イケメンの?」
「断る」
「ケチ」
 傍から見たら独り言を言う怪しい少女である。
 それはともかくだが、マルヴィナはその時、裏路地に目を留めた。
「…………」
 その視線の先には、六人ほどの人影があった。


 セントシュタイン国は広い。
 治安が良いので、一般的に住民は心穏やかな人が多いが、
「彼女、美人だネ。ちょっと来てくんない?」
 ……こんな柄の悪い不埒な男共もいるのである。
「…………」
 五人いる。十代か、二十代ほど。全員、不埒で不潔で不安で不審な感じがした。
 声をかけられたのは、銀髪と金色の眸の、少し背の高い美少女である。
だが、あくまでその眸は厳しい、……というより無感情だった。
「聞こえてるー? ちょっと来てくんないって」
 不埒なことに、馴れ馴れしく美少女の肩を掴んだ男は、
その次の瞬間天と地がひっくり返ったように見えて、――そのままズダンと[自分が]ひっくり返っていた。
 つまり。
 その美少女が、遥かにでかいその男を打ち(?)倒した訳である。……あるが。
「…………なああぁぁぁああっ!?」
 一人は叫び、
「て……てめぇっ!?」
 一人は態度を一変させる。


「……危ない」
 マルヴィナは、ほぼ反射的に路地へ走った。
 そして、走りながら跳躍し、そのまま一番近くの男に足蹴りを食らわせようとした時、

 別の場所で、一人倒れた。

「……っは! 悪いが、治安維持も戦士の役目なんだ!」
「セリアス、……やりすぎだ」
「相変わらずキルガは甘いな……こーゆー奴らは、さっさと――」
 マルヴィナが足蹴りを食らわせた男がどさりと倒れたとき、その声はスコンと途切れた。
「………………」
 マルヴィナはその声の主をじっと見つめ、
「………………」
「………………」
 二人のその声の主たちもマルヴィナをじっと見つめ、

 ……そして、裏路地に驚愕の声が響き渡った。


 ……というわけで。

「……マルヴィナだ」
「キルガです」
「俺セリアス」
 カニも縦に歩くのではないかと思われるほどの奇跡で再会した元天使三人組は、
絡まれていた同い年くらいの美少女に自己紹介をした。
「助かりました、ありがとう。私は、シェナ。旅人です」
 シェナと名乗った彼女は、丁寧な口調でお辞儀した。
「何かお礼がしたいけれど……あいにく、何も持ってなくて」
「いやいやいや、大げさな。ただわたしは、反射的に動いただけだし」
 手を振るマルヴィナは、そこで目をぱちくり、としばたたかせた。
 シェナの胸元には、ルイーダが言っていた、『青いバッジ』が光っていた。
 よく見れば、キルガも、セリアスも。キルガは赤で、セリアスは青ではあったが。
「……あ、」
 じゃあ、と言おうとしたマルヴィナは、シェナの何かを考え込むような視線に気付いて、たじろいだ。
「……あの?」
「……えっと……貴方たち、もしかして――」
 シェナは、ほとんど確信した声で、言う。

「――天使じゃない?」

「…………え」
「はっ?」
「な!?」
 三者それぞれの驚愕の声が重なる。
「……当たりね」
 シェナはくすっと笑った。
「ちょちょちょちょちょっ!? なんで!? 何で分かった!?」
 セリアスの質問に、シェナはあっさりと答えて見せた。
「……私もなのよ」
「は?」
「私も、色んなわけがあって天使界にいられなかった――元、天使」
 二度目の驚愕の叫びが上がった。


 ……再び、というわけで。
「ルイーダさん。バッジ返しに来ましたー」
 仲間は決定した。
 成り行き旅芸人のマルヴィナ、
 何故か聖騎士であるキルガ、
 この国で戦士となったセリアス、
 そして『元天使』、賢者のシェナである。
「早いわね」
 とだけ言われ、ルイーダはバッジを受け取った。
 
 とりあえずこれからの方針を決めようと、早速リッカの宿屋に泊まることにした。
 カウンターの横、酒場の人通りの少ない席に四人は座る。
 ルイーダが冗談めかして、乾杯する? と聞いた。
「さて……まずはどうしようか?」マルヴィナ、
「ん。俺ネタ持ってるけど」セリアス、
「ネタ?」シェナ、
「黒騎士か」キルガ。
 マルヴィナとシェナがきょとん、としたので、事情を知る男二人は説明から始めた。