ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅴ 道次 】登場人物


 __マルヴィナ__
   元天使、人間界では19歳。
   剣術においてずば抜けた実力を持つ。
   呪いを跳ね除けるなどの不思議な能力があるが・・・
   現在、成り行きで『職』は旅芸人。

 __キルガ__
   元天使。
   マルヴィナの幼なじみ。冷静で知識豊富。女性に人気アリ、
   だが本人はマルヴィナに気があるらしい(ついでにセリアス&シェナにはバレている。)。
   槍術にかけて天才的。
   『職』は聖騎士_パラディン_(の割りにかなり素早い)。

 __セリアス__
   元天使、マルヴィナの幼なじみ。
   全てを攻めにかけるバトルマスターに憧れる。
   記憶力[は]抜群。戦いに関しては誰にも負けない。
   『職』は戦士。

 __シェナ__
   セントシュタインで出会った、銀髪と金色の眸を持つ娘。
   元天使の一人らしいが、その話題には触れたがらない。
   のんびりとした性格だが、よく火に油を注ぐ発言をする・・・
   世界有数の賢者の申し子。


__サンディ__
   自称『謎のギャル』の超お派手な妖精(?)
   やや強引な性格。人間には姿が見えない。
   最近出番が薄れがち。

__オムイ__
   天使界長老。年齢不詳。気さくで優しい。
   天使界から落ちて言った天使たちを心配し、毎日のように世界樹に祈っている。

__ラフェット__
   上級天使、マルヴィナの師匠イザヤールの幼なじみ。
   人間界へ落ちたマルヴィナと、探しにそこへ赴いたイザヤールの身を案ずる。

__ダーマ大神官(名前はご想像にお任せします←ォィ)__
   転職の神ダーマに仕える賢者。
   ここ最近に行方不明になったという。

__スカリオ__
   ダーマ神殿に滞在する魔法戦士。少々嫌味な性格。
   キルガとは別な意味で容姿がいいせいか、神殿内ではモテるらしい。

__ロウ__
   ダーマ神殿に滞在するバトルマスター。厳格な雰囲気を漂わせる。
   その力は、初老となった今でも衰えることはない。




【 Ⅴ 道次 】――1―― page1


 はるか上空を漂う、天使の国――
 その、最も天に近い、世界樹の立つ場所。

「……長老オムイさま。そろそろ、お戻りになられては……」

 近衛天使が、世界樹に祈り続けるオムイに話しかけた。
「……うむ……それもそうじゃな……」
 オムイはいつもと同じように、ため息をつき、立ち上がる。
名残惜しげに、あるいは心配げに世界樹を見てから立ち去るというのは、毎回の事だった。
 ……だが。今回は、違う。
「…………・むっ……?」
「はい?」
 何かの音を聞き取ったオムイに、上級天使が聞き返す。だが、答えられる前に、近衛天使も理解した。
 突然何かに明るく照らされた空。聞き覚えのある汽笛の音。
「――あっ……あれは!?」
 つい、近衛天使のうち一人は、その名を呼んだ。

「――天の箱舟――!」

 天使たちは、驚きに顔を固まらせ、あるいは喜びに顔をほころばせる。
また[あの悲劇]がおこる気がして、顔をしかめる者もいた。
 オムイの表情は、安堵である。長老は呟く。「我々を、救いに来てくださったのじゃ……!」
 光の煙を伴い、あの日と同じ位置に、停まる。
 扉が開く。天使たちの視線が殺到する。
 光の向こうから現れた人影は、

「―――――――なっ!? まさか、……マルヴィナっ……!?」

 ――無論、マルヴィナ、キルガ、セリアスだった。


 三人は長老の間で、横一列に並んだ。
「……それでは、説明してくれ。何が起こったのか……」
 オムイはようやく落ち着きを取り戻し、促した。
 翼も光輪もない理由は、天使界から“落ちた”ことにあるのか、それとも偶然なのかは定かではない。
その説明から始まり、天使のチカラを三人ともほとんど失っていることと、人間界のあちこちで
異変が起きていることなどをオムイに話した。だが、シェナのことは言っていない。
 長い説明を終え、三人はようやく黙った。
「……そうか。ここを襲った邪悪な光は、人間界までも……お前たちも覚えておろう。女神の果実が実ったあの日――
光は雲を面向き、女神の果実はすべて人間界に落ちた。お前たちとともに」
 オムイは杖をトン、と床につく。「……お前たちの他に落ちていった天使は、いまだ戻らぬ……」
 確かに、天使界は以前より天使の姿が少なく見えた。
「そして、あの光の原因を調べるために、何人かの(天使でも数え方は“人”らしい)天使が地上へ降りて行ったが……
誰も、帰ってはこんのじゃ。まるで、皆何かがあったようにな……」
「誰も……? ――えっ、それでは、イザヤールさまはっ!?」
「……その一人じゃ。イザヤールだけではない。キルガの師ローシャも、セリアスの師テリガンも……な」
 キルガとセリアスの顔色は、ほぼ同時に変わった。
「……ともあれ、お前たちだけでも戻ってこれた……いろいろ済ませたら、世界樹で一晩祈りなさい。
感謝の意を込めて……もしかしたら、翼や光輪を元に戻してくれるかもしれん」
 その言葉を聞いた後、三人は敬礼して立ち去った。



「マルヴィナ! 久しぶりだな!」
「キルガさん、おかえりっ!」
「おぅセリアス! 帰ってこれたって聞いて、あわてて来たぞ」
 マルヴィナは、仲間天使とハイタッチした。同じ剣術を学ぶ男天使がほとんどであった。
つまり、仲間の女天使はかなり少ない。
 一方キルガは、やはりというか一部の女天使に絶大な人気を誇って(?)いる。
少々距離が遠く見えるが、しっかりと彼の周りに集まっているという有り様である。
 ちなみに、セリアスは上級天使もしくは見習い天使の方に人気がある。
あの時世界樹を一緒に見に行った(行かされた)天使テルファもそこにいた。
「……しばらくしたら、世界樹に行こう。久しぶりだから、何かいろいろ話もしたいだろ?」
「あぁ、分かった」
「んじゃ、気が済んだら、“星の扉”に」
 了解、と答えた後、多分セリアスが一番早く行くだろうな、と思ったキルガであった。


 マルヴィナの、先ほど言った通り数少ない友達の女天使の二人。
 長めのツインテールに天使界製の眼鏡をかけた少女がチュラン。
栗色の、ぼさぼさロングヘアーの勝ち気そうな少女がリズィアナ、通称リズィー。
他によく話す奴らと言えばあとは男ばっかりである。特にチュランとリズィアナとよくいるのは
アレク、フェスタ、ラフ、カルテ、リーラス、……とそんなものだが、今回は関係ない話。
 チュランはイザヤールの幼なじみラフェットの弟子である。
リズィアナは、……イザヤールファンらしい。つまり実際にはそう関係なかった。
 ともかく、ラフェットの弟子、という立場から、チュランはラフェットに会うよう勧めた。
「最近石碑の前で祈ってばっかなんだ」チュランは言う。
「石碑……?」
「そ。イザヤールさんのお師匠様の石碑なんだってさ」今度はリズィアナだ。
「イザヤールさまの師匠? ……あれ、そういえばわたし、聞いたことないな……」
 それに何で石碑、と言いたげなマルヴィナに、チュランは呟くように答える。
「んー……その話するの、イザヤールさんがタブーにしちゃったんだけどね。多分ラフェット様なら教えてくれるよ」
「だろーね。ずっとマルヴィナとイザヤールさんの無事、祈ってたから……ね、ラフェットさんてさぁ、
どう見てもイザヤールさんのこと好きなんだよね?」
「「はい?」」
 マルヴィナとチュランの声が重なる。
「……あんたいきなり何言ってんの……?」チュランが呆然とした顔のまま言い、
「そりゃそうだろ幼なじみなんだから」“好き”の意味を別方向に捕らえた(というかそっち方面しか知らない)
マルヴィナが首を傾げながら答える。
「……二人とも疑問詞なんだ……マルヴィナはともかくチュランならわかると思ったのに」
「「だから何が?」」
 再び重なった鈍感少女二人の声に、リズィアナは本気で脱力した。


 チュランの言うとおり、ラフェットは石碑の前にいた。
 マルヴィナが話しかけると、ラフェットは驚き、また喜んだ。イザヤールが一緒でないことには、顔を曇らせていたが。
 そして、自分が祈っていた石碑に名を刻まれる天使のことを、マルヴィナが何も言っていなくても語りだす。

 石碑に刻まれた天使の名はエルギオス。

 かつて大いなる天使と呼ばれ、またイザヤールの師匠だった。
「マルヴィナは彼の孫弟子ということになるね。……カッコよかったよ、彼は。私も大好きだった」
 マルヴィナはへぇ、と頷く。憧れのラフェットが憧れる天使が師匠の師匠、……何だこのややこしい設定は。
「彼はね、ある村の守護天使だったんだ。でも、あるとんでもない嵐の日――不運にも彼は、
人間界に降り立つべく星の扉を通った直後でね。それ以来――天使界には帰ってこなかった」
「…………えっ」
「それ以来、その村には守護天使が誰も就いてなくてね。イザヤールもウォルロ村に行っちゃったっしょ。
だからそれ引き継いで、マルヴィナもウォルロ村守護天使になったわけだけど……もし彼がそのままいたら、
イザヤールもマルヴィナもその村を守護してたんだろね」
「……その村って」
「ごめん。名前忘れた」
 あっさり言って見せたラフェットだが、口調はやはり寂しげだ。
「……イザヤール、恐れてたんだよ。マルヴィナまで、もう戻って来ないんじゃないかってね。
人間界に降り立った天使はみんな戻って来ないし、あいつにまで何かあったらまずいって思ったんだけど……ダメ。
言っても聞かないんだよ。あいつ、見かけによらず弟子思いだからさ」
 ぽん、とマルヴィナの頭に手を置く。そして、はにかんだ。「愛されてることで」
「あい……」
 マルヴィナは考え込む。思いついたのはエリザの姿だった。
(……よく分かんないな……何なんだろ?)
 首を傾げかけるマルヴィナの頭から手を放し、ラフェットは石碑をもう一度見る。
「……イザヤール、きっと帰ってくるからさ。気長に待とうぜ。
あいつは諦め悪いから、かなり時間かかるかもしんないけどさ」
 いささか元気の戻ってきたラフェットは、そう言ってまた笑った。