ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅢ 聖者 】――4―― page6


「あいつっ……また来たかっ!!」
「……ふむ。紛れもない、確かにバルボロス――蘇ったとでもいうのか。恥晒しが」
「――え?」
 ハジサラシ、の言葉にマルヴィナは訝しげにグレイナルを見たが、それより先にグレイナルは
壺を咥え横に退け、マルヴィナを見た。
「すまぬが話はあとじゃ。付きおうてもらうぞ」
「……戦うつもりか」
「当たり前じゃ、里を襲うとは卑劣極まりない。この空の英雄が直々に制裁を加えてやろうぞ」
 さすがだな英雄、と答えようとして、む? と首を傾げる。
「ちょっとまて、付き合ってもらうって、どうやって?」
「儂の力を蘇らせる役を担ってもらう」老竜は即答した。
「今から貴様に竜戦士の防具を授ける。それを纏い儂の背に乗れ。そうすれば儂はまた飛べる!」
 そういうこと。マルヴィナは納得した。了解だ――そう言おうとした時、空から別の邪悪な気配が飛んできた。
風を巻きちらし、マルヴィナの前に立ちはだかる。はっとして、そちらを見る。
「くく……そうは、させん」
 まるで自分自身の力を誇るように、そいつは言った。
「何だ、お前はっ!?」マルヴィナは剣を抜き放ち、身構えた。
「名乗るものでもない、ただ竜戦士の防具とそれを纏うものを始末せよと皇帝より命を受けた一介の兵士」
「どうやらただの馬鹿だということが分かった」しっかり名乗った魔物兵士に剣を向ける。
「ふむ。狙いは貴様か……ちょうど良い、奴を蹴散らし、竜戦士となるに値する者かどうか、儂に証明してみよ」
「お安い御用だ」
 マルヴィナはにやりとする。自分に酔っていた魔物兵士は明らかに馬鹿にされた会話にピシ、と青筋をたてると、
いきなり折り畳んでいた翼を広げ、呪文を詠唱した――爆発呪文_イオラ_!!
「ッ」
 マルヴィナは小さく舌打ちすると後転し、身を低くして着地、爆発に巻き込まれるのを免れる。
(羽の悪魔――魔力の根源は、翼か!)
 マルヴィナは目を細め、踏み込んだ。つま先で地面を蹴り、飛び込むような形で敵の懐を薙ぐ。
魔物が凍える吹雪を吐いた。マルヴィナははっとし、急ぎその体勢のまま右に倒れこみ地面を転がった。
辛うじて、回避。ちょこまかと動く小娘に苛立ちを覚えた魔物は再び、羽を広げる――
刹那、その羽の付け根が、断ち切られた。
「根源を、」
 ほぼ同じタイミングで、もう片方も。
「――叩っ斬る!!」
 魔物の背後に、風を纏い現れたマルヴィナが、剣を地面に突き立てて叫んだ。
「……こ」
 憤怒に、あるいは、醜態に、その顔を歪める魔物。
「小娘ぇぇぇえ」
 感情を押し殺し、マルヴィナは魔物の急所を刺した。そこから波動が生まれ、魔物の姿をかき消してゆく。
「……ふん、やるではないか」
 グレイナルが満足げに笑い、マルヴィナは頬に着いた血を指で拭い、「お安い御用といったからな」応えた。
剣の血もふき取り、腰の鞘にぱちりと納め、マルヴィナはグレイナルに近づいた。
「おっと、その剣は、置いて行ったほうが良い。落としたら敵わんじゃろう」
「む……」
 若干不服ではあったが、仕方ないと嘆息した。確かに、武器を失うのは辛い。
二本の剣を外し、火酒の横に置く。グレイナルが鳴く。マルヴィナを、淡い光が包み込んだ。
はっと驚く間もなく、マルヴィナを、純白の鎧が覆った。鎧だけではない、篭手も、膝当ても、ブーツも。
純白に、高貴なる赤のマントが映える。兜をかぶる。頭はもちろん、口元まで覆われた兜の下で、
マルヴィナはニッと笑う。
「……似合うではないか」
「あぁ、ありがとう」
 マルヴィナは応える、三百年前の英雄に祈る。グレイナルではない、かつてこの鎧を纏い、
グレイナルと共に戦ったであろう英雄に――どうか、力を貸してくれ、と。

 ひらりと、グレイナルの背に跨る、その角をしっかりと掴む。光輝――グレイナルの咆哮。
「――ふむ。懐かしい――かつての力が戻ったようだ」
 言われずともわかる、竜は、幾分か若々しさが感じられた。
「行くぞマルヴィナ。奴を蹴散らしてくれる!」
 マルヴィナは頷き――どこかで、あれ、わたし名乗ったっけ――と首を傾げつつ、空を見上げる。

 襲い来る魔物、雄叫びを上げる光竜。
翼は空を切り裂き、魔物を叩き落とし、闇の渦巻く空へ、今再び飛び立つ――




 ――空の英雄の名のもとに。