ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅹ 偽者 】――2―― page3


 マルヴィナは壁に背をつけ、改めて自己紹介をした。
「わたしはマルヴィナ、とある果実を探してこの地にやってきた然闘士だ」
「……改めて。カルバドの族長ラボルチュの息子ナムジン」
 マルヴィナは右手をすっと前に出す。ナムジンは戸惑い、躊躇いつつもその手を握り返した。
「……さて。どっちから、どこから話そうか」
「その前に……君には仲間がいたはずだろう。彼らは一体どうしたんだ?」
 言った後、返答は穴の外からくる。
「はいはーい。ここにいるぞー」
 ちなみに、セリアスであった。
「……はい?」
「まー、この穴は小さすぎて、入れそうなのはわたしとシェナくらいしかいなかったんだ。で、わたしだけが入った」
 あっさりというマルヴィナに、ナムジンは閉口した。全く知らなかった。
質問の答えがすぐ返ってきたということは、このやり取りは彼らにもしっかり聞かれていたのだろう。
当然、ナムジンがマルヴィナを狙ったことも――が、彼らは落ち着きを乱すことなく、気配を消し続けたままだった。
彼女が無事であることが、分かっているから――だとしたら、なんという信頼感だろう。
 ……そう言うこともあるのだな。ナムジンは、そっとそう思った。
「……大した信頼感だな」
「ありがと。……あんたたちも、そんな風に見えるけれど?」
 ポギーのことである。ナムジンは笑って、傍らにしゃがみ込んだ。
「……こいつは、母上が見つけたんだ」
 マルヴィナが奥の墓を見る。

   “愛しの母上此処に眠る。
       その気高き魂は草原を流れる風とならん”

「……元から病弱なひとだった。けれど――本当に、強い、強いひとだったんだ。
……こいつを見つけて……ここで育てた。僕の大切な友達だ」
「なるほどね。だから……気付けたのか。シャルマナの邪まに」
 ナムジンは頷く。
「あいつを討つべく――僕らは、いや……ポギーは、草原に現れたんです。けれど、あいつの術は、恐ろしく強かった」
 初めて実行したのは、シャルマナが一人でいた時だった。が、シャルマナはポギーに気付き、
いつもその手にしている杖を向け、ポギーにしばらく動けなくなるほどまでの傷を負わせたのである。
「ようやく最近その傷が治り、僕は作戦をたてなおしたんだ。僕は臆病者のふりをして、
奴の警戒心を解こうとしていた。……これが、理由だよ」
 満足したように、マルヴィナは頷いた。
「じゃぁ、私の番だな。……実はわたしは、昨日、シャルマナに襲われた」
 ナムジンが一瞬目を見開く。
「まぁ、理由は二つあったんだが……その内の一つは、わたしに睡眠薬を嗅がせ、
あんたを追っての出立を遅らせるためだったと想像している」
 おかげで気分は最悪だったよ、と溜め息を吐く。
「……何が言いたい?」
「さきにも言ったけれど」マルヴィナは続ける。「おそらく、あんたを殺すためじゃないか?」


 ナムジンが自分を疑っていることに気付いたシャルマナは、本性がばれる前に、魔物討伐を良い盾に、
ナムジンを亡き者にしてしまおうと考えたのではないか。
おそらく、それは前夜、咄嗟に思いついたものに違いない。詰めが甘いのが、そう考える理由である。
そして、わりと戦闘能力のある旅人たち四人が彼のそばにくっついていては邪魔となってしまうだけである。
 見れば、旅人は、今回の依頼にあまり乗り気ではない様子。誰かが足止めすれば、きっと出立を遅らせるであろう。


「――ってーなことを、考えたんじゃないかと。まぁ、全体的に詰めが甘かったから幸いにして
こうやって再会できたわけだけれど」
「今のは……本当に想像か?」
 呆気にとられたようなナムジンを見て、それにマルヴィナは少し哀しげに笑った。
「わたしもそう思う。想像したことにしては、詳しすぎるって。……最近、わたし自身が、妙なんだ。
……わたしのことが、分からなくなるほどに。……でも、わりと想像しやすいことだろ?」
「言われなければ分からなかったと思う」ナムジンは溜め息をつく。
「よくは分からないが……たしかに、しっくりとくる推測だ。となると――こちらもはやめに
手を講じなければならないな」
「で、本題」マルヴィナはそこで、さっぱりとした表情に戻り、言う。
「わたしらに手伝わせてほしい。奴を討つ、その計画を」
 関係ない人に手伝わせられない――と、また言いかける。あぁ、そうだった。思い直す。先ほど、自分は
彼女を信じたばかりだった。……そう言えば、長いこと忘れていたような気がする――[人間]を、信じることを。




「……もう一度聞く。信じていいな?」
「もう一度言う。……当然」
 便乗して、マルヴィナはからかうように、だが真剣に言った。
 ナムジンは頷いた。
「手伝ってほしい」