ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅵ 欲望 】登場人物紹介


 __マルヴィナ__
   人間界では19歳の元天使。
   『職』は魔法戦士で、称号は“天性の剣姫”。
   称号の通り、剣術においてずば抜けた実力を持つ。
   自分の中に眠る謎の能力と記憶にとまどいを見せ始める。

 __キルガ__
   元天使でマルヴィナの幼なじみ。
   『職』はかなり素早い聖騎士_パラディン_、称号は“静寂の守手”。
   冷静で知識豊富でついでに容姿がいい。
   マルヴィナに好意を寄せるが気付いてもらえない。

 __セリアス__
   元天使、マルヴィナの幼なじみ。
   『職』はバトルマスター、称号は“豪傑の正義”。
   記憶力[は]抜群。戦いに関しては誰にも負けない。
   仲間に近づく不埒な男共を毎回悉く追っ払っている(笑

 __シェナ__
   セントシュタインで出会った、銀髪と金色の眸を持つ娘。
   『職』は賢者、称号は“聖邪の司者”。
   元天使の一人らしいが、その話題には触れたがらない。
   のんびりとした性格だが、よく火に油を注ぐ発言をする・・・



__サンディ__
   自称『謎のギャル』の超お派手な妖精(?)
   やや強引な性格。人間には姿が見えない。
   最近出番が薄れがち。
   天の箱舟の壊れた部分と格闘中。

__オリガ__
   ツォの浜の十三歳の少女。
   海のヌシを呼び出す力を持っているという。

__ロネス__
   ツォの浜の村長。人々の評判はあまりよくない。
   富に忠実な性格。

__トト__
   ツォの浜、村長の息子。十三才。オリガの友達。
   親がいない、一人暮らしのオリガを心配する。




【 Ⅵ 欲望 】――1―― page1


「あぁ……お前か」
 両手両足を鎖につながれた、ネイビーブルーの羽を背に持つ男が、独り言を言うように呟いた。
無論、一人ではない。お前、と言われたもう一人、王族の装の男は、低くしゃがれた声を出す。
「……借りにもお前は囚人だ。余に向かっての発言に気をつけるんだな」
「ふん、お前こそ立場を理解するんだな。……で? 今度は何の用だ?
お前の依頼で蘇らせた者は……闇竜に、将軍三人に、兵士に……まだ何かを欲しているのか」
「……“蒼穹嚆矢”だ」
 囚人は、興味のなさそうな顔を少しあげた。
「……あぁ。あの、伝説の。……悪いが、そいつは出来ないな」
「何だと」
「彼女の力は強すぎる。おそらくその人物は、人間ではない。……少しばかり、長い時をかけるが……
その間、別の者は蘇らせられない。それでも構わないと言うか」
 皇帝は、ちっ、と舌打ちした。相変わらず、癪にさわる物言いをする。
「……お前が女神の果実を集めきれば……私の力を増幅させられれば、簡単だとは、言っただろう。
……さて、いつになったら手に入ることか」
「黙――」
 れ、とまでは、言えなかった。
 皇帝の持つ杖の先の宝玉に、映像のように、どこかの景色がうつった。
 ……その中に、四人の影がある。
 一人は、銀髪と金色の眸持つ美しい容姿の娘。
 一人は、紅の髪をぼさぼさにした、勝気な青年。
 一人は、漆黒の少し長めの髪を風に躍らせる青年。
 一人は、闇髪と蒼海の眸の、手に黄金に輝く果実を持った――


「……・っな……女神の、果実……!?」


 皇帝は叫ぶ。囚人が、くっ、と笑った。
「遅かったようだな。……どうすることか……」
「黙っていろ!」
 皇帝は囚人を黙らせ、その四人を食い入るように見る。
(こいつ、は――!)
「これは、あのイザヤールの、弟子ではないか……!」
 しかも、こっちは。いや、こっちは……
「ほう……奇遇なことだ。……さて、どうする、皇帝。
求めているのだろう、その果実を……それも、喉から手が出るほどに」
「……………………」
 今度は、怒鳴りつけない。しばらく考えて――考え続けて――



「ふん」



 ……そして、短く邪笑った。

 杖の玉の中で、四人の若者が屈託なく笑う。が、その笑みがぐにゃり、と崩れ、



そして、一瞬にして、杖からフッ、と消えた……。


   ***


 アユルダーマ島、神聖なる青い木の下にて。

「サンディ、調子は?」

 そこに停めてある、天の箱舟の中で、サンディはその修理をしていた。
「ん? アタシは上々。箱舟ちゃんはサゲサゲ」
「………………。そう。ま、いいや……果実、一個目、手に入ったよ」
 マルヴィナは、ずっと手に持っていた果実を差し出した。意外と重い。
 サンディは、ん? と振り返り、マルヴィナの手中の黄金の輝きに目を留め、おっ、と短い声をあげた。
「やるじゃんマルヴィナ! ひとまずここに置いとく系?」
「いや、いい。自分で管理する。……これから、南のツォって浜に行って、
船のある町へ行くつもりなんだ。どう、来れる?」
「んー……」
 サンディは新天地への興味と箱舟への意地との二つの誘惑(?)に悩み、結局、
「ま、紺だけ引きこもって直ってくれないんだし。ここにいるの、いーかげん飽きたしネ。行く行く。
……で、さっきから思ってたんですケド、何そのカッコ?」
 ん、とマルヴィナは目をしばたたかせ、自分の旅装を見た。
「……あぁ、これ? 魔法戦士の証の服。わたしだけ貰ったんだ。……あ、転職したんだ」
 へぇ、と言う、あまり興味のなさそうな声が返ってくる。
 が、
「あ、じゃさ。アタシも転職できないかなー」
「ええ?」
 いきなりそんなことを言い出したサンディに、四人は同時に聞き返した。見事にハモった。
「あのオシャレでゲージュツテキでカッコイイ仕事!! あ~も~アコガれるぅ~~」
 一人ハイテンションでくるくる回りだすサンディに、キルガは、苦笑して彼女の名を呼ぶ。
なぁ~にぃ~、と歌いながらごきげんで問い返す彼女に、一言、

「……大神官にサンディの姿は見えないと思うよ」
「………………………………………………」

 サンディがピタッ、と止まった。乾いた空気が流れた。


 まっすぐ、南へ向かった一行を、鋭い眸で睨みつける者たちがいた。
 それは、血を吸ったかのような紅の鎧に身を包んだ、何処かの国の兵士二人である。

「奴らか」
「ええ、多分。……報告と、同じです」
「そうか。…………」
 黙りこくった一人に、もう一人、若い方が訝しげに尋ねた。
「……いいのですか? 少尉」
「いいのか、とは?」
「……ですから、あの者たちを襲わなくても良いのかと」
「そんな指令は受けていないからな」少尉と呼ばれた男はさらりと言った。
「それに、勝手に例の果実とやらを奪うために奴らと戦って返り討ちにあうのも面倒だからな」
「……珍しいですね、そんな弱気――あたっ」
 すかさず殴られる。
「慎重、というんだ、これは。……よく見てみろ。あの黒……いや、紺か? 黒髪の女を見ろ。
分からないか? あの眸、あの雰囲気。ただものじゃない……あいつは、戦闘に長けている。迂闊に近づけない」
「……結構可愛いですね」
「見かけに騙されるな。ホイホイくっついていったらゴキブリスプレーで吹っ飛ばされるぞ」
「……ゴキブリって、僕の事ですか?」
「私がそれに見えるか? ……まぁ、私も初めは例の言葉に従おうと思ったがな、やめた」
「……あ、分かりましたよ。“将を射んと欲すれば――”あれ、何でしたっけ」
 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、である。
 ともかく、真剣に悩み始めた若い男を無視して、少尉の男は目を細めた。
「……近くに、“あの方”がいればな……手も出せなくなる」
「あの方? ……あの、どっち向いているんですか?」
「帰るんだ。それともあの四人の中の綺麗な女二人でも眺めていたいか?」
「不埒者じゃないですか! 帰りますよ、うぅ……」
 若い男の方は、足取りに微妙な名残惜しさを加えつつ、帰路につく。



 さて、そんな中、何も知らない四人は、ようやく潮風が鼻に届く位置につく。
「うわぁ……海だ。すごい、こんな近くで見たの初めてだっ!」
 マルヴィナが、同じ蒼海の瞳に海を映し、叫んだ。
太陽に反射し、きらきらと輝く波が眩しい。
「おおおっ!! ほんとだっ! つか俺海見たのすら初めてだ!」
 それはそうだろな、とキルガ。彼は天使界すら出たことがなかったのである。
「あ~~、どーせなら超イケメンと二人だけで来たかったー」
 サンディの、キルガの斜め後ろでの発言である。彼女の言う“イケメン”にキルガは含まれていないらしい。
「ついでに、サンディちゃんの姿が見える人ね」
 シェナの言葉に、マルヴィナが笑った。潮風にマルヴィナの髪が膨らんで梳ける。
キルガは海よりも微笑むマルヴィナの横顔に見とれていた。
シェナがさりげなーく、とん、と肘でつつくと、彼は見事に、面白いようにバランスを崩す。
「…………シェナ……それは、からかっているのか……?」
「せいかーい」
 風が、あたりに吹き渡る。


「さて、ツォの浜は……ここから、西の位置だ」
 セリアスが地図を広げ(アユルダーマ島だけを描いた小さなものである)、つつっ、と指でなぞる。
「西。……まさかあれじゃないよね?」
「あれは倉庫じゃないか? ってなぜこんなところに倉庫が!?」
 あとから分かったのだが、漁業に必要な道具のしまわれるところだったらしい。
「う……浜辺って歩きにくいんだ……」
「そぉ、みたい、ねぇ……わ、砂が入ったっ」
 じゃりじゃりと足に伝わる感触に、シェナが顔をしかめる。しかめたついでに、何気なく海を見て――

 そして、気付いた。

 さざ波だったはずの海が、いきなり大波を生み出したのを。
 あたりが揺れ、暗くなった海の奥で、二つの黄色い星が光ったのを――

「なな、なんかあれ、近付いてない!? てかこっちに波が来るわよっ!?」
 普段ないシェナの焦り声に、三人はそろって海を見て、サンディが顔をマルヴィナのフードから出した瞬間に
「……逃げようっ!」同時に駆け出した。

 が、

 辛うじて村の中に入った瞬間、一行は大量の水を頭からかぶることとなる。