ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅸ 想見 】――2―― page4


 自分自身でさえ、驚いてしまった。
疲労で、もう歩くことも出来なさそうな自分だったのに、まだこんな大きな声が出せたなんて、と。
 だが、大丈夫。出せたのだから、出し切ってしまえばいい。
誤解が解けるのなら、主が気付くのならば――

「これ以上、アノンを傷つけるのはおやめください……!」

「―――――ジーラ!?」

 主が――ユリシス女王が、私の名を呼ぶ。




 だが、叫んだら叫んだで、ジーラは足の力が抜けて崩れ折れかける。
「危っ」
 セリアスはその腕をつかみ、体勢を整えさせる。
「む……」
 マルヴィナの後ろ、シェナから、そんな声が聞こえたような気がした、……が、気のせいだろう。
「ユリシスさま、無事で良かったです。アノンまでいなくなってしまっては……ユリシスさまはもう、
誰にもお心を開かなくなってしまわれますわ」
「………………」マルヴィナは黙る。
 ユリシスは明らかに困惑していた。何故? どうしてそんなことを言う?
視線でその考えを読み取ったジーラは、申し訳ございません、と言う。
「私は見てしまったのです。ユリシスさまが夜な夜な、アノンに語りかけているところを」



 先代王ガレイウス、ユリシスの父。
彼はおそらく、歴代の中でもっとも慕われた王だったろう。
水不足を補うために自らつるはしをふるい井戸を作り、義援金を送り……忙しくも充実した日々を送る王だった。
 だが、その忙しさゆえに。幼いユリシスにかまう余裕などは生まれなかった。
 寂しい。我が侭な自分が嫌い。でも、抑えられない。後悔しかできない。
 傲慢で、我が侭な女王の裏には、孤独で、寂しがり屋の、小さな娘がいる。



「どうか、そのお気持ちを、私たちにも打ち明けていただきたいのです。
ユリシスさまは決して、一人ぼっちではありませんわ」
「……………………………………」
 ユリシスは黙る。顔はずっと伏せたままだった。
マルヴィナはずっと無表情だった。シェナは小さく溜め息をついた。
(ひとの心は簡単には変えられないわ。でも……何かは、変わったのかしらね)
 ちらりと、そんなことを思う。

 アノンはと言うと、先ほどの邪気はどこへやら、呆けたような、安心したような、微妙な思いを巡らせていた。
「……城には、アンタみたいなええ人もおったんやなぁ。これならわてはピエロやで」
 いやピエロじゃなくて蜥蜴、……あるいはドラゴンだろ、と方向性の違った反論を仕掛けて止める。
今ここでそんなことを言えば蜥蜴の声の聞こえないユリシスとジーラに一発で変人マルヴィナの称号をもらいそうだった。
「……なぁ、アンタ」
 その考えを知ってか知らないでか(多分後者)、アノンはマルヴィナに向かって話しかけてくる。
「……わて、人間ちゃうやろ。人間は口から火ぃ吹かへん。……やけど、アンタ、アンタも人間ちゃうやろ?
……わてこんな力、もういらへん。城で生活する。せやからこの果実……アンタに託すわ。欲しがっとったんやろ」
 マルヴィナの返事を待たず、アノンは直立不動する。金色の鱗が、さらに金色に輝く。
別の輝きではあったが、それは、それぞれが演奏し合うように、お互いの光を強めた。


 白い光が辺りを照らす――


 目を開けた時、そこにいたのは、小さくあどけない金色の子蜥蜴と、眩く輝く、五つ目の果実だった―――……。