ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅰ 天使 】―― 2 ―― page3
見習い天使一同は、天使界の外には出してもらえない。
『守護天使候補』や、同じ位にある『上級天使見習い』もまた、そうであった。
理由は、単純。守護天使や上級天使でもない彼らに
意味もなく世界樹を見せるわけには行かない、ということからである。
例え女神の果実が実るかもしれないとしても。天使たちは妙にそのあたりが義理堅い。……だが。
「ちぇ、頭固いんだよなぁ……あ、おいテルファ、そっちじゃない、こっちだ」
……例外の、守護天使候補止まりのセリアスは、
勝手に子分としている見習い天使テルファとともに、何故か外にいた。
「セリアスぅ。やっぱ止めようよ。怒られるよ」
「ばかいえ。チャンスなんだぞ。世界樹を早く見れるかも知んないんだぞ。お前の仲間よりも」
「でっでも、トゥールさん見張りについてるし、あの階段上らなきゃ見に行けないんでしょ?」
「それが今困っていることだろうが。説明せんでいい」
セリアスは、世界樹への階_きざはし_の前で、
(セリアスのような)守護・上級以外の天使が来ないよう見張っている
上級天使トゥールを見張っていた。
……見張りを見張るという、珍妙な行動であった。
「あ~~っ、くっそう。これは奥の手を使うしかないのか……」
「さっきも言ってなかった? それ」
「……奥の奥の手だ」
「……ちなみに?」
テルファが促し、セリアスは至極あっさりという。
「“俺も守護天使になりました”」
真顔で。
「……………………ぶはっ」
長い沈黙、最終的に笑い出すテルファ。
「あはははははは! セリアス、そりゃムリムリ!」
「ばか、声がでかい!」
「うぐほっ」
「いいか、俺は『守護天使候補』だぜ?だから全然ダメってわけじゃ――」
彼はサンマロウという名の町の次期守護天使候補であった。
……ちなみに、先ほどの『うぐほっ』は、
テルファがセリアスから肘鉄をマジに食らった時の彼の非の叫びである。
「……だめって、わけじゃ――あ、やべオムイ様だっ」
……結局隠れる二人。
「無理だようほんとに~」
「だー、あきらめ早い。そんな根性で守護天使になれるのかっ」
「神の国に行ったら、なる必要もなくなるよ」
「…………・・」
反論できなくなったセリアス、とりあえずスコーン、と殴っておく。
「ってぇ。……あ、トゥールさん行っちゃった」
オムイに促され、自分も世界樹の元へ行く見張り。チャーンス!! と、二人は同時に目配せ。
人目を気にするゴキブリのように、かさこそ歩く二人の、……後ろから、
「――何やっているんだ?」
……なんて言葉がかかり、ゴキブリは、否二人の天使は
その名のとおり飛び上がり、脱兎の勢いで壁に張り付き、――脱力。
「きっきキルガかよぉ……マジでびびったぁ……」
それは、星のオーラを五つ左手に持つキルガであった。
その彼は、二人の様子を観察、次の言葉は、
「バレた時、責任はとらない」
であった。
世界樹見たいんだよ、なっ、頼む、黙っていてくれ!――そう言おうとしていたセリアス、ドン引き。
そしてキルガは、何事もなかったように再び歩いていった。
「っあービビった。くっそうキルガめ、相変わらず脅かし」
「――何やってるんだ?」
「「うおわえあがっ!!」」
しかし次なる同じ言葉がかかり、――脱力再び。
次は、キルガと同じく星のオーラを右手に五つ持ったマルヴィナであった。
セリアスはともかく、テルファは失神寸前となっていた。
***
……天使界、頂上。
リタイア(?)したテルファを置いてきたセリアスだけがこっそり階を上る。
正式な守護天使二人はもちろん堂々とそこへ向かった。
金と、銀と、蒼と、白。
美しく、神々しい光が、今までに例のない輝きを見せていた。
ギックリいったのにもかかわらずやはり驚異的なスピードで昇りきったオムイと、
既に世界中の傍らにいたイザヤールは、若い守護天使二人に命ずる。
星のオーラを捧げよ、と。
共鳴するかのように輝く結晶は、
浮かび、煌き、
樹に吸い込まれ――光輝。
星の輝く夜空は、それより遥かに強い光に包まれる。
それだけではない。
光は止まない。
葉と、葉の、間。
膨らみ、輝き、実を結ぶ――女神の、果実!
黄金の煌き、神の国への搭乗券。
見守っていた上級天使たちは、喜び、手を叩き、喝采の声をあげる。
マルヴィナは、隣のキルガへガッツポーズをして見せた。キルガも同じように返す。
遠い夜空の向こうから、次第に大きくなる一等星が見える――否。
汽笛の音と共に、光の煙を伴いやってくる、あれは。
「天の……箱舟じゃ!!」
それは、神の国へ戻るための――名の通り、箱舟。
つまり、神の国へ行けると……そう、証明している。
「女神の果実を神の国へお届けせねば。――そうじゃキルガ、下にいる者たちを呼んできてくれ」
「はっ」
キルガは敬礼。そしてその必要もないかもと、セリアスの顔を思い出して考えた。
――そんな中、一人だけ。
ラフェットだけは、表情が曇っていた。
“行って来る”
そう言ったきり、帰ってこなかった、天使エルギオス――イザヤールの、師匠。
彼は――
「――――――――っ!?」
だが、その刹那。
「 うっ……ああああっ!? 」
……地が、揺れる――地上から、凄まじい爆発音が轟いた。
いきなり。
何の前触れもなしに。
邪悪としか言いようのない、黒と、紫の雷_いかずち_、波動……
それが、
――――天使界を襲っている。
果実は飛び散る。
天の箱舟は砕けた。
地上へと吸い込まれていく。
誰一人立てない。
……いや、それどころか。
「 」
だれかが、叫んだ。――キルガだ。
「――っキルガ!!」
ラフェットが叫んだのとほぼ同じだった。
彼もまた、箱舟や果実と共に地上へ、落ちる。ラフェットの顔がさらに引きつった。
そしてまた、マルヴィナも。
風が、揺れが、邪_よこしま_の力が強すぎた。
左手一本で、辛うじて何かを掴んでいた。だが、もう腕は痺れている。絶えられそうに、
「――マルヴィナ!!」
……イザヤールの声が、届く。マルヴィナの薄れかけた意識が戻る。
「つかまれっ!」
風が反発する。右手を必死に前に出してゆく。
だが。
その瞬間、左手の痺れは、消えた。
感じるのは、強い風のみ。
風に、飲み込まれた。
わたしは、落ちていた。
誰かが、私の名を呼ぶ。
だが、その声も、聞こえなくなり――
辺りは、闇になる。
【 Ⅰ 】 ――終結。

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