ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅱ 人間 】―― 3 ―― page2
いきなり、何者かの声が、二人の耳に飛び込む、そして――
「ぎゃ」
マルヴィナに突進!
「はだっ!? いったァ……い。ちょっとどこ見てんのよ、ちゃんとかわしなさいよぉ!」
「って、だったらぶつからなきゃ――あれ?」
振り返って、そこには誰もいなかった。思わず探し、だが居場所は声が教えてくれた。
「ここよ、ここ!」
その方向に視線を従わせる。と。
「……………………」
かける言葉を失った。何故なら。
「……妖精?」
「は? アタシが? 何言ってー。……ってのはどーでもよくてー……」
「……………………」
再び黙るマルヴィナ。とりあえずこのいきなりの乱入者(?)を観察した。
大きさは子供の手のひらの1,5倍ほど、肌は黒く、髪は茶と金の間ほど、ウェーブがかかっている。
そこにピンク色の花が収まっており(コサージュ、とか言うらしい)、
また妖精のような背の羽も同じような色だった。オレンジのワンピを着ているが、露出が多く、
マルヴィナが抱いた第一印象は――『派手』である。
その観察を終えた頃、その妖精らしきものはずびしとリベルトを指し、開口一番、
「オッサン!」
……目まいがするかと思った。
「はいっ」
急に珍妙な妖精らしきものに呼ばれ、オッサン・リベルトは直立不動した。
「アンタ今、天使って言ったよネ? アタシもそー思ったんだケド、なーんかイマイチ自信ないのよネ。
だってこの人羽もワっかもないのよ! これってヘンじゃね?」
「………………・」
アンタの喋り方のほうがヘンじゃね? と言いたくなるのをどうにか我慢するマルヴィナ。
「……・・はあ」
オッサン・リベルト、空返事。
「……いやいや、変と言えば貴女もいったい何者で?」
すると待ってましたと言わんばかりの表情。
「フフン……それを聞いちゃいマス? 聞かれちゃあ答えるしかないわネ」
「自分から名乗れって言わないんだ」
「メンドいしカット」
「……………………」
マルヴィナが本当に目まいを感じた時には既に、さっさと自己紹介を始める妖精らしきもの。
体を横に反り、左手でピースを作り――
「聞いて驚けっ! アタシは“謎の乙女”サンディ! あの天の箱舟の運転手よっ」
「マルヴィナさん、天の箱舟って?」軽くスルー。
「私たち天使の特別な乗り物」マルヴィナもスルー。
「はぁ……なるほど」
「――って、ガン無視ですかっ! ――ちょっとアンタ、今自分で天使って言ったよネ?
ンじゃ何であんたどー見ても人間になってんのよっ!」
マルヴィナは自分の身に起こったことを、とりあえず長々と説明した。
話し終え、マルヴィナが息をついたところでサンディぽつり。
「何か信じらんないんですケド」
「は?」
「だって羽もワッかもないってのにユーレーや箱舟だけ見えるって、何そのハンパな状態?
どーしても天使って言うんなら、……そーね、そのオッサン。そのオッサン昇天させてみなさいよ」
「……・えっ!? わ、私ですか!」
急に話を振られたリベルト、再び直立不動。
「はい決まり! どーせオッサン、この世になんか未練残してっから、こんなトコうろついてんでしょ?
聞ーたげるから言いなさい」
「え、と。未練、ですか……? 何だろう? ……宿屋の後ろに埋めた、あれ……かな?」
「アレって何よ。――ちょっと自称天使。ボーっとしてないでさっさと行きなさいヨ!」
(わたしはパシリか!!)
マルヴィナはカチン、と頭の中のスイッチがONになる音を聞いたが、黙って探しに行った。
風が冷たい。
***
「あったよ」
「早ッ!」
戻ってきたマルヴィナに、サンディは飛んだまま引いた。対象的に駆け寄ったのはリベルトだ。
「そう! それです! 宿王のトロフィー! ああ、懐かしいなあ……」
リベルトはゆっくりと笑うと、口調をしんみりさせ、語りだす。
「この村に来た時に、封印したんですよ。セントシュタインでの夢を、断ち切るために」
「……なんで、また」
「……リッカのため、ですかね――私の妻は病弱でしてね。その病気は、あの子にもあったんです」
マルヴィナは目を見開いた。リッカが、病気。
「ああいや、今は元気になっています。そう、この村の名水を飲んで育ったおかげで。
ここの水は病気を遠ざけ、治す効果を持っていますからね」
リベルトは、マルヴィナの手にあるトロフィーに目を戻した。
「そんなトロフィーを見たら、あの子は何ていうか……知らないほうがいい。
あの子が自分の為に私が夢を捨てたなんて思ってしまったら、お終いですから」
マルヴィナは黙った。……そして、くるり、と家に向かった。
「……え……な、なにを!?」
「リッカに話すために決まっているだろう?」
「ま、待ってください! それを見たら、あの子は!」
「“自分の為に父は夢を捨てた”……確かに思うかもしれないな。そういう性格だ。
だけど、あなたが望んでいるのは、真実を知っても強く生きていける娘じゃないのか?
そして、自分の代わりにたくさんの人たちと宿屋を続けていてくれる事じゃないのか?」
リベルトは反論しない。すべて、図星。
「あなたの本当の未練は、それだ」
「…………」
「だったら……腹くらい、割りなさいっ!」
「……くくりなさい、じゃね?」
「…………………………そうとも言う」
「そうとしか言わないっしょ」
咳払いして、マルヴィナは扉を開けた。
リベルトは、もう止めない。
「………………そう、だったの……」
リッカは、きゅっと拳を握り締めた。
その手に、マルヴィナはトロフィーを置く。
リッカはしばらく黙った。黙って、黙り続けて――そして。
「私……セントシュタインに行くわ」
「……リッカ!」
マルヴィナは笑った。リッカも、力強く頷く。
「父さんが宿を続けられなくなった分……私が続けてみせる!」
リッカは、下へ降りて言った。リッカの祖父に、そう話すために。
マルヴィナはフッと笑い、そしてリベルトを呼ぶ。
リベルトは、マルヴィナに頭を下げた。
「……貴女の、言うとおりでしたね……あの子は強くなったんですね。……もう、重い残すことはありません」
天を仰ぐ。
「――お別れ、です。ありがとうございました、天使様――」
――昇天。
光に包まれ、そして――消えた。
「……行っちゃったわね」
サンディは呟くと、いきなりクルッと振り返った。
「なかなかやるじゃん! こりゃアンタのこと、天使だって認めないわけにはいかないかー!」
「……声、でかいっ」
「ヘーキよ、アンタ以外聞こえないんだし。
――でさ、アンタ天使なんだから、」いいの?拾わなくて」
マルヴィナはきょとん、とした。
「……何を?」
「は? だから、星のオーラ。そこに転がって――」
静寂。
「ま、まさか、ちょっ、マジ!? 見えないの!? 見えなくなっちゃったのっ!?」
「……みたい」
「みたいって……前言テッカイしたいんですけど……ほんとーに信じちゃっていいのカナ」
「だからぁ……」
二人の議論はしばらく続いた。
【 Ⅱ 】 ――終結。

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