ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅸ 想見 】――1―― page1
空は快晴、風は爽快。まさに船旅にはうってつけの気候。
風に髪を躍らせ、マルヴィナは両手を広げた。海が好きなのである。
たなびく闇色の髪を見て、マルヴィナは少しだけすくってみた。
(……大分、伸びたな)
天使界から落ちた時は、確か肩につくかつかないか、という位の長さだった。だが今は、しっかりとついている。
(……シェナは長いし、結構きれいなんだよな。……)
しばらく考え込んでから、マルヴィナは無意識にキルガを探した。
そして、急にはっと気づき、
「っだから何だってんだっ!?」
つい、そう叫んだ。
「わっ!? な、何よいきなり! 叫ばないでよ心臓に悪いわねっ」
「わわわっ!? シェナ、い、いつからいたんだっ!?」
まさかシェナは、マルヴィナを驚かせようとして忍び寄っている途中でいきなり叫ばれて
自分が驚いてしまったなどとは言うわけにもいかず、うー、とかいう意味のなさない言葉を返しておいた。
「……で。なにが何だっていうの?」
シェナは落ち着いてから、そういった。今度はマルヴィナがうー、と意味のなさない言葉を返す側である。
(……何だったんだろ)
当然だ。自分にも分からないのだから。
そもそも、無意識とはいえ、何故今キルガを探してしまった? ふつう考えている内容からして、
捜す対象はシェナである。キルガって[そういうこと]詳しかったっけ?
いや、確かに頼りにはなるけれど、よく気を使ってくれるけれど、大切な戦友であることは変わりないけれど、
……なんなんだ? この、何か……うまく言い表せない、微妙な感じは……?
「……最近、わたし、変じゃないか?」
「えっ?」
マルヴィナのいきなりのそんな質問に、シェナの声はひっくり返る。
「な、なななななな、なな、何が、何があったのマルヴィナ一体!?」
「……何だろうなぁ……ねぇ、キルガは?」
「え。船に酔って寝てるけど」
「…………………………………………」
しばらく沈黙。
「……キルガ船酔いするんだ!?」
「確かにねぇ……普段丈夫なやつほど意外なものに弱い、とはよく言うわ」
「初めて聞いたよそれ」
まぁまぁ、と軽く答えてから、シェナは思った。
(……“キルガは”?)
……何故今、キルガのことを話題に出したのだろう?
それに、さっきの反応に、最近自分が変じゃないかなどと――
(……………………あ)
シェナはたっぷり四秒考えて、そして、思った。
(……・・もしかして)
海に視線を戻したマルヴィナを見て、シェナは一度くすりと笑い――
(船酔い野郎、あんたの想い、もしかしたら叶うのは遠くないかもよ?)
……と思ってやったのだが、
(……多分)
いつもの表情に戻りきってしまったその横顔を見直して、そう付け足しておいたのであった。
***
一方“船酔い野郎”キルガ、腕を目の上にのせて唸り中である。
「うー……これだから船は嫌いなんだ……」
酔いながらもまともな感想が言えているのだが。
ジャーマスに乗せてもらった小舟も、ツォの浜の漁師に乗せてもらった舟でも、実は調子が良くなかったのである。
迷惑がかかるからと、ずっと我慢し続けていたのだが……今回ばかりはさすがに限界が来た。
あー気分悪、とブツブツ呟きつつ、キルガが顔をしかめたまま寝返りをうったとき、
「あ~も~、風強すぎっ! これじゃヘアぼさになるんですケドっ!!」
……何とも騒がしい奴が入ってきたりする。
「つかなんでマルヴィナもセリアスもアタシの箱舟ちゃん乗ってたトキ酔ったくせにこの船じゃ酔わないわけ」
というサンディの愚痴と、
「セリアスは[運転]してるからともかくマルヴィナよマルヴィナ何でへーきなわけー!?」
という文句と、
「つかコサージュつぶれてるー。せっかくなおしたのにっ」
という意見などなど全てを、
「………………………………………………………………………………」
キルガは不機嫌のハンコを額に付けていそうな表情で聞き流す。
(……頼むから静かにしてくれ)
もちろんその考えがサンディに届くことはないのだが。
「あ、ち―――――っ……」
それから二日の時を経て、彼らは砂漠へ着く。
さすがに二日も揺られれば慣れたのか、キルガの顔色はそう悪い方ではなくなっていた。
一方で不機嫌顔なのがマルヴィナとサンディである。
マルヴィナはきっちりと止めていた胸元のボタンを外し(またシェナがその状況を確認していた)、手団扇であおぐ。
サンディはサンディで、やはり一人文句を言っていた。
「マジ、ヤバス。これいじょーアタシをこんがり美人にしてどーすんのヨッ」
そんなサンディに答えたのはマルヴィナである。
「美人かどーかはともかく、確かにそれ以上[焦げたら]作るのに失敗した目玉焼きの白身並に黒くなりそうだね」
「例え長っ」
「えーだって、白身って本当に真っ黒になるしさぁ」
「方向性違うわよ」
セリアスとシェナ、二人がかりでマルヴィナにツッこんだのであった。
ともかく、彼らはグビアナ城を目指し歩き始める。
「そういや砂漠って、サソリ出るよな……」
セリアスが何気なく呟く。
「それを言ったらタラ――」
「シェナ言うなッ!!」
残りの四文字を言われる前に、キルガがあわてて制した。ン、まで言っていたシェナの唇が止まる。
そして、キルガの視線の先のマルヴィナを見て、あ、そっか、ごめんマルヴィナ、と口を閉じたのだった。
だが幸いマルヴィナは地図と格闘しており、会話を聞いていなかった。いなかったのだが。
「……ねぇみんな。……非常に、言いにくいんだけれど……」
という、微妙に不吉な言い回しをする。
いや~な予感のした三人は顔を見合わせ、セリアスが尋ねる。
「………………ちなみに? 道に迷った以外の意見なら受け付けるが」
「じゃあ何も言わない」
「ん、ならいい」
「イヤ良くないだろうっ」あっさり答えてしまったセリアスに対しキルガが間髪を入れずにツッこんだ。
「道に迷ったのか、マルヴィナっ!?」
「んー。もしかしたらそうかもしれない」
同じようにあっさり言ってしまったマルヴィナに、暑さ以外の理由の若干のめまいを感じるキルガ。
「か、勘弁してくれよ……砂漠で遭難っていうのはかなり厳しいんだ……」
「キルガ、道、覚えてないわけ?」シェナが尋ねるが、さすがに一度通っただけで覚えられる状況ではない。
ましてや、(皆は道、道と言っているが)砂漠に“道”などありはしない。しかも今日は黄砂がたっている。
これで晴れていたら、そろそろ城の面影が見えるはずなのだが――
「……あっ」
と。キルガが、短く呟く。見渡していた砂漠の奥に、何かが見えたのである。
しかも、それは。見覚えのあるそれは。
「……聖騎士団……!」
それは、かつてキルガの所属していた、グビアナ聖騎士団の団員たちであった。

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