ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅠ 予感 】――2―― page1
囚人は言う。
本当に良いのだな、と。
皇帝陛下は返す――
お前に否定権はない、と。
同じころ、ガナン帝国。
マルヴィナがどこにあるのか悩んでいるその位置にいる二人の、潜むような会話である。
皇帝陛下――即ち、ガナサダイ。 (>>387参照)
そして、つい最近、マラミアがその存在をマルヴィナに伝えた者―“霊”を蘇らせる者―囚人。
「念のため、もう一度言う。……“奴”を蘇らせる間は、誰ひとり蘇らせることはできない――」
「天使どもが思いのほか著しく力をつけ始めた」
遮って、ガナサダイは言う。
「“天性の剣姫”に関わりあるという“奴”を利用する以外の手立てもあるまい」
「確かに、味方に付ければ恐ろしいまでの戦力となるだろう」囚人は一度、肯定する。
「だが――敵となれば、最も警戒すべき脅威となる――」
「それ以上の無駄口を叩くな」もう一度遮って、ガナサダイは言う。
「貴様はただ実行さえすれば良い」
「やれやれ……」囚人はあきらめたようでも、嘲るようでもなく、溜め息を吐く。
「面倒な仕事が来たものだ……では、しばらくの面会は控えてもらおうか。強大な力に巻き込まれたくなければ」
「大きな世話だ」ひとつ悪態をつき、ガナサダイは、その場を去る――
足音が聞こえなくなったその場所で、囚人は静かに言う――
「生年不明、消滅三百年前。“蒼穹嚆矢”蘇生儀式――」
静かに、時が流れ始める。
「あーい、おつかれー」
――エルシオン学院。
その夜、四人は食堂にて、情報交換、首尾の報告、
「あっ、それは俺が食べようとっ」
……ついでに料理の取り合いをしていた。
「とられる方が悪いのよー、って、ちょっと私のゆで卵はっ!?」
「はいはーい。いただきましたー」
「マルヴィナっ!? それ美味しいのにっ」
「知っているよー。だからとったんだ」
「つーか、とられる方が悪いんだろ?」
「セリアス……明日は覚悟しなさい」
「すいませんした」
一人苦笑しながらもキルガはそれを眺め、最後に残しておいた唐揚げ――が皿の上にないことに気付く。
「……あれ?」
「あー、ここの唐揚げ美味しいな。ころもが特に」
タイミングよくそういったマルヴィナに視線を向け――
「………………マルヴィナ」
「なに?」
「……トマト、もらうよ」
「えーちょっとそれ最後まで残しておいたのにっ」
「こっちこそ唐揚げは最後まで残しておいたものだっ」
今度はその二人の会話に、セリアスは笑い、シェナはニヤニヤしていた。
ちなみにサンディはまた、人目を盗んでつまみ食いに走っていたりする。
お互いに大した首尾は得られなかったらしく、翌日に持ち込むこととなる。
マルヴィナは、悩みながらも、マイレナを探しに外へ出る。
マラミアの口調からすると、今回の事件を解決しないことには彼女には会えないのかもしれない。
だが、とりあえずは、捜しておきたかった。
門限が決まっているため、マルヴィナはそっと、気付かれないように、扉を開く。
幸い、雪は降っていない。今の内、と外に出る。
「……………………………………」
魔法的な力で学院内は寒さから守られているとシェナは言ったが、やはり[外へ出る者のいない]夜は
その力が消えている。若干雪は積もっており、そしてとても寒かった。
マルヴィナは油断なく辺りを見渡す。マイレナを探すためでもあり、
気配を感じたガナン帝国の使者に見つからないためでもあった。右手に隠したピアスを、握りしめる。
だが、やはり、何も、誰も見つかることはなかった。
(やっぱ、そうだよな……)
マルヴィナは溜め息を吐く。真っ白だった。時間も遅い。
戻るか。ちらつき始めた雪を見て、そう思った。
ざく、ざくと音を立て、マルヴィナはもと来た道を歩き――そして固まった。
寮の扉の前に誰かいる。
「…………………………」警戒して、その人物を遠くから眺め――そして、やばっ、と一言。
そこにいたのは――寮の、管理人であった。
(や、ヤバい。これって抜け出した事に気付かれたってことだよな……? ど、どうしよ……ってかなんで気づいた!?)
マルヴィナが自分の足跡を雪の上に残してきてしまったことに気付いたのは、その数分の後のことであった。
***
「……で、どうしたの?」
――翌朝、寮の食堂にて。
四人は再び集まり、軽い朝食をとっていた。
「んー、最初は裏にまわって二階の扉まで跳んでやろうかと思ったんだが」
「いやいやいやいやいや。そりゃ無理でしょ」
「うん、三回やってみたが無理だった」
「やったんかい!!」とは、セリアス。
シェナはこの子時々よく分からないわ、とか思い。キルガはとりあえず黙って苦笑。
「で、その時、わたしとは別に寮を抜け出している不良の奴らを見つけたんだ」
「え、何別にいたの? ……で、どうしたの? まさか囮にでもした?」
シェナじゃないんだからそれはない、とキルガは思ったが、「せいかーい」というマルヴィナの
気の抜けた声を聞き、思わず吹き出しかける。
(マ、マルヴィナ、シェナの影響受けている!?)
見直すべきだ、とキルガは本気で思った。
ともかくマルヴィナは、いたずらそうに笑うと、「もちろん理由はある」と前置きした。
「そいつら、どうやら今回の誘拐騒動にかかわりがあるみたいなんだ」
グラスに入った水で少し舌を湿らせ、マルヴィナは続ける。
「会話からしてそうだろう、って感じのいわゆる推測だから、あんまり詳しいことも分かっていないんだが、
誘拐された人間はあの不良グループの一員だったらしい。……となると、もしかしたらその誘拐犯は
そのグループの誰かを狙っているかもしれないだろ?」
まぁ、裏を突かれる場合もあるだろうけれど――そう言って、マルヴィナは食後のデザートに手を付ける。
「あぁ、それで、奴らを帰した、ってこと?」
「そう。ま、管理人には、『誰かが外に出る気配がしたので追ってみたらなんか複数の人間がいます、
あれはこの学校では普通の現象なのですか?』って何も知らない新入生のふりをしたけれどね」
「「……………………………………」」キルガ&セリアス、無言のまま固まる。
なんかマルヴィナ最近黒くなっていないか? と同時に思いつつ、視線は自然とシェナに向く。
「ん? 何?」
シェナは本気で首をかしげ、いやなんでもアリマセン、と引き下がる二人であったのだが。
そんなわけで、迎えた二日目では、主に誘拐された人物、ついでにその不良グループのことについて探ることにした。
マルヴィナ・キルガペアは、もちろんキースとナスカの双子から尋ねることにする。
「あー、あのコらねー」
ナスカはうーんとうなった。
「最初にいなくなったナシルって人さ、最初すんごい頭良かったんだよね。普通にトップとるくらい」
トップ、と聞いてマルヴィナは苦笑した。ちなみに、昨日の抜き打ちテストは、トップが七人で、いずれも満点。
その中にキルガ&シェナはごくあっさりと入っていた。どうやら二人とも、まだ訪れたことのない場所まで知っていたらしい。
マルヴィナはその訪れたことのない場所は記入していなかったし、セリアスは妙なケアレスミスで点を落としていたが、
それでもかなりの上位で、二人してホクホク顔だったのだが。
というどうでもいい話はともかく、次いで話すのはキース。
「おれナシルには結構勉強教えてもらってたりしたのよ。でもさぁ、去年の……いつ頃だったか忘れたけど、
まぁでっかい試験で、順位が一気に六位に下がってさ、すんげぇショック受けてた」
「わっかんないわよねー、あたしなんて自分の後ろに二ケタ人数いればそんでラッキー☆ なのに」
「おまえ、それはさすがにまずいだろ」
どうやらナスカの成績は思わしくないらしい。
「で、そっからちょくちょく休むようになってさ。モザイオと組むようになっちゃってー」
「モザイオ?」キルガだ。
「あ、それって……」マルヴィナ。実は、昨夜見た不良たち――それがモザイオたちだったのである。
「そ。……あいつよ」
ナスカが指したのは、教室の片隅で数人を従えて何やらやっている少年たち――の中心、
染められた金髪、だらしない服装、目つきも悪い、見た目は不良、中身も不良、ついでに行動も不良、
不良オンリーな少年。
「……………………」マルヴィナは眉をひそめそのグループを眺める。
「あいつらには近づかないほうがいいぜ。結構やばいやつらだからよ」
キースは聞こえないようにと、声を落とす。が、マルヴィナは。
「たかが不良だろ? わたしは平気だ」
頼もしくも、あっさりと言って見せる。
「いや、たかが……じゃないんだよな。……あいつ、武術の科目で剣術とってんだけどよ、
ガチの勝負で一番らしいぜ。だから誰も逆らえない」
「へぇ」
マルヴィナとキルガは、同時に意外そうな声を上げる。伊達じゃないのか、とキルガは思い、
そして剣術といえば……と隣にいる少女を見て、
……なんだかにやりと笑っているようにもみえなくはない彼女の表情を見て、妙に嵐の予感がしたキルガだった――

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