ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅠ 予感 】――4―― page1
そして、時間は夜になる。
マルヴィナは、左手に握りしめた白いピアスを確かめるようにそっと盗み見た。
(“ルィシア”か――)
もちろん知っていた。彼女が、ガナンの一員であること、自分を見張っていたものであることは。
そしてこのピアスが、彼女のものであることも。
“あれ、それって、ルィシアのじゃない?”
別れの挨拶を言いに行ったミチェルダの指摘で、それを知った。
マルヴィナはその名をしっかり頭に刻み、気を引き締めた――
『……来たねー、マルヴィナー』
と。いきなりなんだか間の抜けた声が聞こえて、マルヴィナは咄嗟にピアスをその手から放した。
ポケットの中で握りしめていたので、下に落ちることがなかったのは幸いである。
そしてその声――懐かしくて、でも知らない、だが自分を呼ぶことができるのは――
「マイレナ……?」
『はいせーかい。ここまでお疲れさまだねー。……どっこらしょっと』
なんだか凄くババくさい言い方をして、マイレナは登場した。……屋根の上から。
「うわっ!!?」
『へーい初めましてん。若干有名人・“賢人猊下”マイレナと申す。ちなみに本名はマイレナ・ローリアス・ナイン。
歳は秘密で賢者やってるけど本職僧侶だよん。よろぴく』
「……………………………………………………・」
一瞬訪ねた人を間違えたかと思った――が、聞いてもいないのにつらつら説明された情報は、以前マルヴィナが
シェナから聞いたそれと一致している。……本物、だろうか。
賢者と言うからもっと真面目で堅物を想像していたのだが――が――……。
(わ……)
マルヴィナは半眼になって、
(訳分からんこの人……)
なんだかアイリスやマラミアとはまた違った意味でキャラの濃い人が出てきたなぁ、と思ったのであった。
「じゃあ、とりあえず本題に」
何故か討論みたいな言い方になって、マルヴィナが言った。
『はいはい。何でも聞いてちょ』
なんであなたはそんなに軽いんですか? ……とはさすがに聞かず、
マルヴィナはずっと気になっていたことをはじめに、単刀直入に聞いた。
「わたしの“記憶の先祖”の正体を」
『むー? ……あぁ、“チェルス”のこと?』
マルヴィナの表情が、緊迫したものになった。
ようやく。ようやく、聞けた。謎だらけだった、その人の名が。……チェルス。それが、名前――
『……称号なら、もしかしたら聞いたことあるかもね』
厳しい表情のマルヴィナの前で――マイレナはこれ以上ないほどすんなりと、
聞き逃してしまいそうなほどあっさりと、決定的な名を口に出す――
『あの、“蒼穹嚆矢”だよ』
……マルヴィナの表情が、今度は固まった。
「……………………え?」
そんな間抜けな声しか出なかった。
そうきゅうこうし。蒼穹、嚆矢……?
「っっっっっえぇぇぇぇええぇぇええっ!!?」
『ド馬鹿声がでかい!!』
“馬鹿”に ド をつける初めて聞くツッコみどころ満載の単語をツッコミの言葉に交えてマイレナが制した。が、
もちろんマルヴィナはその言葉も耳に入らない。
「そ、そっ……そう、そそ、そうきゅ」
『うん。まずはな? まずは落ち着こうなマルヴィナちゃん。……ごめん今ちゃんつけたこと後悔した』
「オイ何気に今失礼なこと言わなかったか?」
『よし調子戻ったね。……そ、あの有名な蒼穹嚆矢が、あんたを作り出したんだ。よろし?』
マイレナに確認され、マルヴィナはこくりと頷いた。あまりに衝撃的で、それこそ心臓が止まるかと思ったほど
衝撃的過ぎて一瞬混乱したが、どうにか落ち着いた。しっかりと、マイレナの話を聞く。
『おし。……では、説明しよう。こほん。……ウチとチェルスは、不人間じゃあない、霊だ。
ウチは生きてた時、あいつと旅したことあるからね。あいつはうちの正体、ちゃんと知ってるよ』
マイレナは世間話でもするように言い――幾分か、声色を真面目にした。
『覚えときな、いつか役に立つ』
「いつか?」
『いつか』
マルヴィナはその言い方に首を傾げつつも、分かった、と頷いた。そして、もう一つ気になっていたことを問う。
「その……マラミアから、聞いたんだけれど。“未世界”にいる霊を、この世に送ることのできるやつが
ガナンにいるって……詳しいことはあなたに聞けって、言われて」
マイレナはだらけきったような表情を、別人かと思うほどに引締めた。
……マラミアも、この話をするときは真面目そうだった。これは、相当重要な話らしい。
『……あぁ、知ってるよ。……今回の犯人も、その系統だしね』
「へっ!?」
『あと、あんたらが関わったっていうルディアノの黒い騎士とそいつにぞっこんラブ状態だった魔物と、
へんな病魔と……んー、そのあたり? も似たよーなもんよ』
表情の割に軽い口調も、今は気にならなくなった。次々と現れた、懐かしい名。
しかも――それらには、とある共通点があった。
マルヴィナは、自分の心臓を押さえる。マイレナはそれを見て、『まさか』と今度は本当に、切羽詰まった顔をした。
『……そいつらが昇天した時、妙に心臓動いたりしなかった?』
「!!」
マルヴィナはぎくりと身をすくませた。……図星だった。
今まで、ただの偶然だ、激しい運動の後だからだろうと、無理矢理納得して、気にしていなかったそれが――
マイレナの口から、説明されたのだ。
「……その、とおりだけれど……あの……?」
『あ、いやなんでもない。……』
その言葉の割に、その表情は――
……思いが顔に出やすい性格なのだろう、だからこそマルヴィナは、その不安を拭いきれなかった――

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