ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅱ 人間 】―― 2 ―― page2


「……いないなぁ、ルイーダさん」
 マルヴィナは、リッカからもらったプラチナソードを右手に持ったまま歩く。 
                    ↑ 注)ゲームではこの時点では手に入りませんあしからず。
 ズッキーがその左に、スラピは右にいたため、剣が何度も刺さりそうになっては珍妙な悲鳴を上げている。
スラらんは先回りして、誰かいないかを確認していた。
「マルヴィナぁ。あそこに誰かいるー」
「本当! ルイーダさんか!?」
「男」
「……て、ちょっと待て。遭難者か?」
 何だ、と言いそうになり、慌ててマルヴィナはそう言った。
だが、スラらんのうーんとうなる声に首をかしげる。
「死んじゃってるみたいだよ、このおじさん」
「………………え」
 まさか、と思った。さっきも見たあの人か? と。
 マルヴィナは駆け寄り、やっぱりそうだ、と思い、声をかけ、ようとしたその時に遮られた。

「……この、扉の向こうに……」

「――は?」
 それは幽霊のおじさんの声(だと思う)。もう一度聞き返そうとしたが、おじさんはすぐに消える。
(言いたいこと言って、すぐサヨナラて……)
 マルヴィナが第一に思ったのは、
(あんたはイザヤール様かっ!!)
 ……ということであったが、それはこの際関係のない話。
「マルヴィナ、なんと言っていた?」
 ズッキーが槍をズブッとさして問う。スラピがサッと切っ先をよけた。
「“扉の向こう”」
「なんじゃそりゃ」
「とにかく行ってみよう。……開けるの手伝ってくれ」
 マルヴィナと三匹の魔物たちがせーので扉を開ける。
 見た目に反し軽かった。勢い余って思わず前のめりに倒れる。
「なんちゅーややこしい扉だべ!?」
 スラピが悪態をつき、
「……マルヴィナ、あれ見てみろ!」
 ズッキーが大声を出した。
「しーしーっ! 大声出しちゃだめだよっ! [あいつ]が来るっ!!」
 スラらんが妙に説得力のない注意をする。
「あれって」
 最後にマルヴィナが顔をあげ、そして目を見張った。

 誰かいる。

「……あの人……が、……ルイーダさん?」
 黒交じりの青の艶やかな髪が見えた。そのまま寝ているのか、あるいは死んでいるように倒れていた。
足元には、大きな岩。
「助けなきゃ」
 マルヴィナが走る。が、

「危ないマルヴィナ、走っちゃ駄目!」

 スラらんの声も、遅かった。

     ずうううううん……

 天井の岩が少し崩れた。地響きが起こる。
 そして、マルヴィナの目の前に、何かが立ちはだかった。



 魔獣ブルドーガ。キサゴナ遺跡に住む、巨大な魔物である。



「………………」
 マルヴィナ、フリーズ。
「ままままーずーいーっ! 見つかったっ!」
 叫んだのはスラらん。
「マルヴィナ、逃げるだ!」
 そして、スラピのその言葉で、マルヴィナはようやく我に返る。
「逃げる、て」
 そんな事出来るわけがなかった。マルヴィナはじりじりと後退した後、サッと横によけ、
そのまま倒れた女性の元へ走り出す。
 怒り狂ったブルドーガがさせまいとマルヴィナの背を追う。
だが、さらにそれに立ちはだかったのは三匹の魔物たちだ。
「行かせるかよっ」ズッキーが言い、
「んだ」スラピがあわせ、
「かよーっ」スラらんが最後だけズッキーに合わせた。
 それを聞いた時、マルヴィナの足が止まる。あんな魔物に、三匹だけで立ち向かおうとしている!?
「ちょ……」
「マルヴィナ! ここはおいらたちに任せるだ! とにかくとのおなごを助けるべよ!」
 マルヴィナの反論はスラピに封殺される。大きな二つの目に睨まれ、マルヴィナは決意する。
(早く助けて)
 走り、女性を揺さぶる。
(援護しなければ――!)
「う……アラ? あ、貴女は……?」
 女性の意識はある。マルヴィナはほっとし、名乗る前に彼女の足を挟んでいる大きな岩に力をこめた。
「ま、まずは、これを、どけてっ……」
 重い。とてつもなく、重い。だが、マルヴィナはスッと目を閉じ――神経を集中させ――

「く……っはぁぁぁああぁあああっ!!」

 気合一発、大岩はゴトン、と音を立て、わずかに持ち上がる。
「……うそ」
「嘘じゃないっ! いいから、早く、抜け、出しっ……」
 真っ赤な顔のまま、マルヴィナは必死に声をあげる。女性は今更のように気付き、足を抜き、立ち上がる。
「あ、ありがと……って、あの魔物、ブルドーガ!?」
「っだ、はぁっ……し、知って、る、のか?」
 肩で息をつき、マルヴィナは問う。
「ここを住処としている魔物よ。ここらの奴らより、ずっと強――来たわよ!」
 ぎく、とする。三匹の魔物を振り切り、ブルドーガはマルヴィナに視線を合わせ、突進してくる。
(つっ)
 マルヴィナは剣に手をかける。そのまま抜き、斬るつもりでいた。
 ……が。

―――ここを住処としている魔物よ

 女性の言葉が、耳に残っていた。
 住処。

(……誰だって……そう、だよな……住処に押しかけられたら……怒る、よな)

「……マルヴィナっ!!」
 その場でかわすことも出来た。だが、それでは後ろの女性が危ない。
 動かない。無防備のまま、攻撃を受けようとして――

       ――――――スッ――――――

 その時、その瞬間。
 マルヴィナの剣が、輝く。
 プラチナソードではない、それは、銀河を象った、ボロボロの剣――!
「グ、ガッ……・!?」
 ブルドーガの動きが鈍る。マルヴィナ自身、呆然とした。

 ブルドーガは止まっていた。

「………………」
 そして、更に。そのブルドーガは、先ほどの毒気をすっかりなくし、体の方向を変え、
 ――行ってしまった。


 ぽかん、と一同がフリーズした後、一番最初に動いたのはズッキーだった。
「だ、大丈夫、……だよなマルヴィナ……」
「だよなって何だ。大丈夫だが……ありがと」
 とりあえず、わけの分からない雰囲気を打ち消すために、マルヴィナは後ろの女性を見た。
「……ああ! と。ありがとう、あなた[たち]のおかげで助かったわ。
私はルイーダ。セントシュタイン城で酒場に勤めているの」
「あ、やっぱりルイーダさんだ。リッカが心配してたからなぁ」
「……リッカ? ――ああ、リベルトさんの娘さん――そう! ウォルロ村っ! ウォルロ村に早く行かなきゃっ!」
 目をぱちくりさせるマルヴィナの前で、ルイーダはいきなり叫んだが、
その後落ち着きを取り戻してまずは出ましょ、と促した。
 なんだか相手にペースを持っていかれたような気がしないでもないマルヴィナであった。