ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

サイドストーリーⅡ 【 夢 】1
本当に、気が付いたら、そこにいた。
目を開けているのか閉じているのかがわからない。それほどまでに、真っ暗――違う。[真っ黒な]世界……。
「……っキルガ? セリアス、シェナーっ?」
仲間は、わたしの仲間はどこにいる? わたしはどうなっているんだ。ここは――どこなんだ?
「ッ!!」
途端、わたしは震え上がる。鳥肌が一気に襲ってきた。思わず耳をふさぐ――ふさいでいるの?
同じ音量で、まだ聞こえる、まだ[叫んでいる]。誰の、何の叫び声なんだ……?
……何かが見えた、何が? ……あれは、なんだ……?
「 ――――――――――――――――――――――――――― 」
音量が高まる、空間がびりびりと揺れる――
もう無理だ、耐え き れ ―――……
「――声?」
……翌朝、アシュバルの地帯のとある場所で。
次にエルシオン学院を目指すことが決定した四人は、海の状況を見てここ二日ほどは船旅を避けたほうがいいと決め、
テントを張り、そこで野宿生活をしていた。
カルバドでもらった野菜や肉を腐らせないよう、キルガは野菜を塩漬けにし、適当な具でマルヴィナは
シチューを作り(料理はリッカに教えてもらったため、何気に今は一番上手い)、シェナはそれを手伝っていた。
鶏肉と、ジャガイモと人参、カルバド特有の玉ねぎ、大豆、なんかよくわからない紫の物体、
それにそろそろ消費期限の怪しげなものになってきたパンを小さくつぶして混ぜ込んだものである。
食材を探しに行ってくれているセリアスが戻ってきたら、もう少し中身が増えるかもしれない。
手伝いの手を止め、シェナはそう問い返した。
「うん。キルガは聞こえなかったって言っているけれど」
「珍しく寝られたからね。わからない」
昨日の不寝番の担当はセリアスとシェナだった。キルガが知らないのも無理はないのである。
「んー……昨日は静かだったからねぇ。叫んだ奴といえばブラックベジターくらいだけれど、
きぃきぃ言っていた程度だし……」
「ブラックベジター……?」マルヴィナはその名に覚えがなく、問い返す。
「紫色のキュウリみたいな、あるいはズッキーニみたいなやつ」
「あぁ……」
マルヴィナは目をぱちぱちしばたたかせてから……ガッ、といきなりすごい勢いでシチューの中を覗き込む。
「ちょっとまて。さっきこの中になんか訳分からん紫色の物体放り込んだけれど……
それまさか、……まさかじゃないよな!?」
「え? いやマルヴィナ、それは――」キルガの言葉をさえぎって、
「あれ? バレた? いやーだってあまりにも美味しそうだったからー……☆」と、シェナ。
「『だったからー……[ほし]』じゃないっ!! ちょっと待てせっかくの食材がっ!!」
「だいじょーぶだってマルヴィナ」
「全然大丈夫なんかじゃ――あ、セリアス、……お帰り……」
トーンダウンしたマルヴィナの視線の先は、戻ってきたセリアスの抱える紫色の――大きな玉である。
「…………何、それ?」
「そのシチューの中に入ってるやつ」
「……じゃなくて、その名前は?」
「あぁ、ウドラーの葉っぱ」
「………………………………」
しばらく固まってやはりすごい勢いでマルヴィナは再びシチューと対面し、中身をどうにかしようと手を伸ばし、
「紫キャベツだよ、マルヴィナ」
ようやくキルガが苦笑して真実を告げた。
「……は? むらさききゃべつ?」
問い返したマルヴィナが改めてシェナとセリアスを見ると、二人そろって笑いだすのをこらえている始末。
「あ……あんたら……」
ようやくからかわれたと気づいたマルヴィナは、お玉を持つ手に亀裂を走らせんばかりの力を籠め、
頬をぴくつかせてほんのちょっぴり黒い笑顔で二人をにらみつけた。
「いや悪い悪い、なんかあまりにも面白そうな雰囲気だったんで」
「まさかここまで簡単に引っかかるなんて思わなかったのよ」
ねぇ、と見合う二人に、マルヴィナは今度こそにっこり笑って一言、
「ふたりともシチュー抜きな」
慌てて二人が頭を下げたのは言うまでもない話。
「声……?」
幸いマルヴィナの機嫌が直って、温かいシチューにありつけるようになったセリアスは(シェナもだが)、
シェナと同じように問い返した。
「いや、確かに叫んだって言ったらこのシチューに入れたブラックベジターくらい」
「しつこいぞ」
「冗談。昨日倒したブラックベジターくらいだが……そんなに響かなかったしな。
夢に出てくるまでの声じゃあなかった」
「そっか……」
マルヴィナは天を仰いだ。
「なんか、こだわっちゃうんだよな。すごく、鮮明に覚えていてさ……何だろう、
なんか……かかわるような気がしてさ、その魔物と」
「あぁ、やっぱり、魔物だったの?」
「多分」マルヴィナはすくった時に頭を出した[紫の物体]に若干顔をしかめかけ、だが平静を保って頷く。
「でも、あんなの、見たことがない。なんか、大きくて、角があって……そう、なんか、
サイが服着て威張り散らしているような奴だった」
「……っ?」
反応したのは、キルガとシェナだ。マルヴィナとセリアスは訝しげに首をかしげる。
だが、二人とも、まさかね――とでも言いたげな表情だった。どうやら二人が考えているのは同じものらしい。
相当あっぴろげなものだったのか、あり得ないことだったのか――
その日は、マルヴィナがいくら聞き出そうとしても、二人とも何も教えてはくれなかった。

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