ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅲ 再会 】―― 2 ―― page1


 ――シュタイン湖。
 セントシュタインの領域、その国の北に位置する湖。

 黒騎士は、現れた。

 マルヴィナ、キルガ、セリアス、シェナの四人は容赦も遠慮もせず、いきなり攻撃を仕掛けてくる黒騎士に相対した。
「……っヒャド!!」
 マルヴィナが叫ぶ。氷固呪文_ヒャド_、小さな氷の刃を生み出す魔法だ。
 黒騎士はそれを、自分に降りかかる前に槍でいとも簡単に払いのける。マルヴィナは舌打ちした。
 キルガは聖騎士として、常に他の三人の様子に注目した。
一番注意したのは魔法に集中し守りの疎かになったシェナへ降りかかる黒騎士の攻撃だった。
 セリアスは剣を構える。剣術でマルヴィナに勝った事は一度も無かった。
だが、腕としては、並みの旅人より遥かに上だった。余計なことは考えず、ただ攻撃に集中する。
 シェナはキルガの体調に応じて応急呪文_ホイミ_を唱える。
余裕があるときは、闇固呪文_ドルマ_というらしい、賢者のみ使いこなす魔法を黒騎士に投げかけた。

 そして、黒騎士の足が、がくりと崩折れた。

「っ!」
 四人が、同時に息をつく。初めての連携にしては、なかなかいいチームワークだった。と思う。
「……な、ぜだ……?」
「……む」
 膝を屈した黒騎士が、一言声を発する。マルヴィナは眉を持ち上げた。
「何故、メリア姫は、お前たちのような者を、ここに向かわせた……? あの時の約束は、偽りなのか……?」
「メリア姫?」
 戦いの終わった気配を感じ取ったサンディが、マルヴィナの頭巾_フード_から顔を出す。
「……ねぇマルヴィナ、この黒騎士おかしくない?
あの城にいたのは確かフィオーネ……メリアじゃなかったはず」
 うん、と頷こうとした時、
「それは誠かっ!?」
 と、間髪入れずに黒騎士の問い返しが来る。ビクッ、と身を引いてから、サンディは叫んだ。
「ッキャー!! ななっ、何でアタシが見えんのよぉっ!? マジびびったんですケドっ!」
 そして、サッサとフードに潜る。髪の毛が微妙に引っ張られて、マルヴィナは小さく悪態をついた。
「……な、あれは、メリア姫ではなかったのか……?」
「……あんたは一体、何者なの? それから話してくれないか」
「……」
 黒騎士は立ち上がる。
「――私は、深い眠りについていた」
 そして、語りだした。


 マルヴィナは目を閉じた。
黒騎士の話をまとめると、こうだ。

 黒騎士の名はレオコーン。
 ルディアノという名の国の騎士だった男だ。
 ずっと眠りについていたような感覚……記憶は無かった。
自分が誰で、何が自分に起こったのかは、何も分からなかった。
 その記憶が戻ったきっかけが、セントシュタイン城、いや、その国姫君の姿を見たときであった。
 自分はルディアノの騎士。
 あの姫君が、メリア姫、自分と婚礼の約束を交わした方だと。
 だが、それは違った。国はルディアノではなく、セントシュタイン。
そして、名はメリアではなく、フィオーネ。
 全くの別人だった――

「んじゃアンタ、あの姫と元カノ間違えちゃったてワケ? ドンだけ似てんのよその二人ー」
「も、元カノて」
 軽すぎだろサンディ、とか胸中で思いつつ、マルヴィナは黒騎士レオコーンをもう一度見た。
「……いずれにせよ、私はこの過ちについて詫びないといけないだろう。
あの城にもう一度向かわねばなるまい」
「……やめたほうがいーと思うぞ」
 セリアスがぼそり、と言う。
「確かに……ややこしくなるだろう」
 キルガも頷いた。
「次は本気で殺されちゃうかもしれないしねぇ」
 シェナがのんびりと恐ろしいことを言う。
「……わたしらから伝えておこうか? あなたの伝言を」
 マルヴィナが問う。なんだか上手くまとまったような。
「……そうだな。そうしていただきたい。もう城には近づかない。そう伝えてくれ」
「……分かった」
 レオコーンは頷き、くる、と背を向けた。
「ルディアノでは本当のメリア姫が私の帰りを待ちわびているはず……私はルディアノを探すとしよう」
 ひらりと、黒い馬に跨る。そして、そのままゆっくりと行ってしまった。
傷を負っていた割にちゃっかりしているような気もする。
(……なんか、変だな……)
「……あ」
 湖に四人残された状態、セリアスが一言。
「……馬取り返すの忘れてた」
「馬?」
「……あ」
 キルガまで。
「……あの黒い馬。武器屋のおっちゃんの。……どうか取り返してくれって涙流して言われてたんだ
……ああやばいなぁ……どうしようか」
 返答は風の音。