ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅢ 】 登場人物紹介
__マルヴィナ__ 「あなたが、わたしの――……」
翼無き天使の然闘士。“天性の剣姫”の称号を持つ。
剣術においては天才的な技術を持つ。
師であるイザヤールの裏切りを境に、どこかかげりを帯び始める。
遂に自身の正体を明らかにしてゆく――……。
__キルガ__ 「誘き……だしている」
翼無き天使の聖騎士。“静寂の守手”の称号を持つ。
マルヴィナで言う剣のように、天性の槍使いである。
幼なじみのマルヴィナに好意を持ち、だがその思いに自信が持てないでいる。
自身を強くするため、色々な鍛錬に取り組み始める。
__セリアス__ 「……俺は、」
翼無き天使の闘匠。“豪傑の正義”の称号を持つ。
器用なために、ひときわ重く扱いにくい斧もやすやすと使いこなす。
仲間思いで、四人の中ではよきムードメーカー的存在。
ドミールに来てからの彼は少しいつもの調子が出ていないようだが……。
__シェナ__ 「ただいま……!」
正体、ドミール出身の竜族、『真の賢者』。“聖邪の司者”の称号を持つ。
主に弓を使うが、攻撃・回復の呪文ともに優れた才能で援護する。
ガナン帝国の捕虜であった過去を持ち、ガナンの名を聞くと敏感に反応してしまう節がある。
自分が天使でないことを今までずっと隠し続けていた。本名・シェラスティーナ。
__サンディ__ 「絶対、許さないカラっ!!」
『謎の乙女』を自称する、天の箱舟運転士をバイトとする妖精。
やや強引な性格。人間には姿が見えない。
再び壊れた箱舟を修理する一方で、今回ばかりは相棒にかける言葉が見つからず、
あえて距離をとってらしくもなく静かに見守ってゆく。
__ケルシュ__ 「お帰り――シェナ」
本名・ケルシュダイン。
ドミールの里長の家に代々使えてきた騎士。
シェナの世話係でもあった。
__ラスタバ__ 「……よく、似ています」
本名・ラストゥアーマダ。
現在の里長を務める。足が悪い。
老人。息子を亡くしている。
__グレイナル__ 「――生きよ。ウォルロ村の守護天使よ」
三百年前、ガナン帝国を下したという『空の英雄』。
そしてその正体は――……。
__ルィシア__ 「――追い詰めた」
“黒羽の妖剣”、レイピアとマンゴーシュの使い手。
“賢人猊下”マイレナの妹。
マルヴィナとの決着をつける――……。
__ゲルニック__ 「おやおや……生きていたのですか」
“毒牙の妖術師”、妖鳥のような顔つきの年齢不詳の男。
天の箱舟を襲わせた帝国の将軍。
マルヴィナを侮ってもいる。
__バルボロス__ 『久しぶりだな』
帝国の闇竜。
グレイナルを危険視。
__チェルス__ 「面を上げろ、武器をかざせ――戦闘開始!!」
三百年前の伝説、“蒼穹嚆矢”にしてマルヴィナの『記憶の先祖』。
さばさばした性格で、だがその強さは並大抵ではない。
マルヴィナの目の前に――実体で、現れる。
【 ⅩⅢ 聖者 】――1―― page1
燃える溶岩だらけのその地を、四人はゆっくりゆったり――というか、のろのろりと歩いていた。
原因は――もちろんその暑さに、である。
「暑い……」
「以下同文……」
「エルシオンが恋しい」
「………………………………」
順に、マルヴィナ、キルガ、セリアス、シェナ。
竜の門を過ぎてから、一晩が過ぎた。もっとも出立が昼過ぎだったので、妥当と言えば妥当なのだが。
が――グビアナ砂漠と違い、この辺りは夜も暑い。うーうー唸りながら、やはりマルヴィナ・キルガの
寝付けない組はそれぞれのテントで転がっていたらしい。
この状況で、魔物なんかが来たら――と思っていた矢先に早速、来た。
マグマロン
ギガントヒルズ、妖鳥マッドファルコン、溶岩ピロー、溶岩魔、共通点は。
「全員、火ぃ吹いてくるぞっ。どうする!?」
「逃げる!」
「いやそれ無理っっ……ひえーえええ、きたぁぁぁっ」
メラミ ・
炎が渦巻く、火炎呪文が飛ぶ! どかすかだだだ、と逃げ足は速いセリアス、逃げる逃げる。
「どっどどどどこに逃げりゃいいっ」
「そこそこ! そこに逃げろっ」
「そこって何処!!」
「そこはそこ、違うそこじゃないっ! あー囲まれたぁぁっ」
あまりの暑さにおかしくなったマルヴィナとセリアスを前に、キルガは額に手を当て嘆息。
「仕方ない」
そう言って、譲り受けたばかりの槍を握りなおす。敵は多い。なるべく、一撃で斃したい。
―――できるだろうか。
……やってみるしかない。
自由に、動いてみよう。決意した日から、キルガは人知れず槍の技術を磨いていた。
物理的なものではない、魔法的なものまで。
「下がれ、二人とも!」騒ぐ二人に声をかけ、キルガは目を閉じた。槍の先を地に打ち付け、祈る。
打ち付けた切先から、禍々しい色をした魔法円盤が生じ、ばちり、と電撃音を響かせる。――雷?
ジゴ・スパーク
「――出でよ。―――――獄雷爆」
キルガが低い声で唱えた瞬間、黒雷が魔物たちを焼き払う――そう、それは、焼き払うというに相応しかった。
……絶大。 ジゴ・スパーク
その技は――槍の奥義とも言われる大技、獄雷爆だ。
凄まじい威力に、囲んでいた多くの魔物が痛手を負い、絶命し、辛うじて生き永らえたものは
慌ててその場から逃げて行った。
「――――ふぅ」キルガの一息に、唖然としていた三人が駆け寄る。
「キ、キルガ。今の何……じゃなくて、いつの間に」
「……え?」キルガは問い返して、あぁ、と答えなおす。「……今、だ」
「今!?」
「まさか初めて!!?」
「………………まぁ」
再び唖然とする三人組。
「初めてで……あれって……」
「いや」キルガはその言葉には顔を曇らせた。
「魔法の類は、まだ慣れない……現に今も、少し逃がした。魔法円盤も小さい。まだまだだ」
「でも、凄いじゃんか!」セリアスはばしっ、と戦友の肩を叩く。
「いつの間にか強くなってるってことだろ? 俺も負けちゃいられないな!」
「わたしも今、練習しているものがあるんだが」
マルヴィナがいきなり言いだし、今度はキルガを含めた三人が驚く。
「いつの間に?」
「つい最近」
「ちょ、マジかよ! まさかシェナまで」
セリアスはシェナを振り返ったが、……彼女は放心したように虚空を見ていた。
セリアスがシェナの前に立ち、少し大声で呼ぶまで、彼女は全く気付かなかった。
……気付いたら気付いたでかなり取り乱したのだが。
「どっど、どう、したの……?」
「い、いや、……まさかシェナまでなんか新技の鍛錬してるとか言わないよな? って聞こうとして」
「…………………………」
シェナは一瞬、迷ったように目をそらしたが……「ないわ」と結局、短く答えた。
「そっかー……。俺らもなんか、考えてみるかなぁ」
「とりあえず、わたしは早くこの技を完成させたい」
マルヴィナは拳を握り、剣を軽くたたいた。「キルガ」
いきなり名を呼ばれ、キルガは目をしばたたかせてマルヴィナを見た。
「……付き合ってくれないか?」
だが、いきなり言われたその言葉に――「え」一度短く答えて、内心でかなり慌てていた。
「な、ちょ、マ、マルヴィ、ナ?」
「この技も雷関係なんだ」だが、自分の言葉の意味を自覚していないマルヴィナは、さらりと言う。
「鍛錬。付き合ってくれないか?」
「……………………………………あぁ。……そっちか」
「?」
キルガは一瞬慌てた自分の考えを怒涛の勢いで殴りつけたい心情に陥りながら、
マルヴィナの願いに応えたのだった。
***
水筒の中身が乏しくなり始めた三日目・夜。
幸いにして彼らは海岸にたどり着き、自然の恵みに大いに感謝しながらそこで休憩をとることにした。
キルガが海水をろ過し、マルヴィナは簡単に料理、セリアスは海の幸の調達。
シェナは、体調不良を隠し、精一杯元気なように振る舞いながらマルヴィナを手伝っていた。
「よーうマルヴィナ、でっかいの捕ったぞ」
セリアスが木の枝で作ったもりの先に大きな魚を刺し、マルヴィナの前に。
さんきゅ、と答えて、マルヴィナは魚をさばき始める……彼女は魚をさばくことだけは下手だったが。
簡単に食事を終え、水を補充し、たき火をおこし、キルガは地図を広げた。
「今はここ……『竜の翼』地方だ」
地図の海岸のところを指でぐるぐると円を描きながら、キルガは言った。
アギト
「ここから、こう……『竜の尻尾』地方を通り、それから『竜の咢』地方に行く。
ここをぐるっと回れば……ドミールの里だ」
「こりゃまた……ややこしいな」セリアスが唸った。
「いや、そうでもない」だが、キルガが答える。「一本道なんだ。遠いが、道に迷うことはなさそうだ」
「でも、この分だと、明日につくのも厳しそうか……明後日の昼とか、そのあたりかな?」
「魔物に襲われなければ、それくらいだろう」キルガは頷いた。
「この先に水を補給できるところはない。節約したいのは変わらないな」
「了解」皆は頷いた。
今日の不寝番も、セリアスとシェナである。
「……・ぁ、ぁわはがぁ……」
セリアスは大きく口を開けて、あくびをした。眠い。
もともと規則正しい時間に寝て必要以上に起きるのが遅い彼にとって、不寝番はある種の敵である。
だがもちろん、仲間で決めた約束は破らない。そう言った義理は、堅いのだ。
とはいえ、現在寝ているのはシェナだけである。マルヴィナとキルガは、先ほどから外に出て、
昨日マルヴィナが言っていた『新技』の特訓に励んでいた。
……シェナももうすぐ交代のために起きてくるはずだから、一回だけ皆が起きていることになる。
何十回目かのあくびを噛み殺しながら、セリアスは特訓をする二人を眺めた。
ずっと、ずっと一緒だった仲間。いつも、三人でいた。
……いつから、キルガはマルヴィナに特別な思いを抱いていたのだろう。
ずっと、仲間として、友達として接してきたから、シェナに言われるまで気付かなかった。
キルガが、“そういう想い”を抱いているということは。
でも、彼は、悩んでいる。自分の思いに、自信が持てなくて。
いつまでも前に進めない。自分の思いに、真面目すぎて。
(それでも)
それでも、セリアスは。
(それでも、俺は応援するぞ。ちゃんと応援するぞ)
そんな親友に、心の中で、思う。
(だって、仲間だもんな)
口の端で、笑いながら。
テントの幕が開いた。シェナが、長い髪を後ろで束ねながら出てくる。
「おぅ、シェナ、おそよう」
セリアスが冗談を言い、シェナは。
「…………………………」
吹き出すことなく、はっと目を見開いて、セリアスを見た。
初めて言った冗談が空回りし、セリアスはちょっぴり落ち込んだ笑いを見せる。
「せめてなんかツッコんでくれよ。独り言親父みたいじゃないか」
「……え。……えぇ、ごめん」
「謝るほどじゃないからいい」セリアスは気にせず屈託なく笑うと、んじゃ、よろしく、と言って
そのままテントへ戻って行った。
えぇ、と小さく答えて――シェナは、手を離してしまい垂れ下がった長髪の先を軽く握って、
少し、本当に少し目を細めて、歯をかちり、と鳴らした。
どうして、今更。
…………
彼の姿に、嫌いだった少年が、重なって見えたのだ。
もう一日日は巡り、五日目になった朝――ようやく、あと少しというところまで来た。
が、もう殆ど彼らは、口をきく余裕がない。休憩回数も、徐々に増えてきた。
あんなに補充したはずの水も少なくなってきて、一刻も早く人里に着きたい一方で
これ以上速く歩くことに限界を感じてもいた。
だが遂に――そうも言っていられない状況になる。
朝から、というか最近、体調の悪そうだったシェナ。
彼女の足取りが、本格的に遅くなり始めたのである。
「おいシェナ、本当に大丈夫か?」
セリアスの三度目の問いは――答えが、一番弱々しかった、どころか―――。
「……ん。ちょっと、ふら、ふ―――」
「危ない!」
口を開いた瞬間――シェナは、ふらりと体勢を崩す。咄嗟にセリアスが、前から腕を背に回して受け止めたが、
シェナは身体をその腕に預けたままぐったりとし、動かなくなった。
「ちょ――シェナ!?」
あわててマルヴィナが、疲れを気にせず駆け寄る。その額に手を当て――すぐに、引っ込めた。
「熱、い」
「な……やっぱり、熱があったんじゃないか! 何で、隠してっ……」
「急ごう」セリアスはきっぱり言った。
「もうすぐなんだろ。早く着いて、宿に運ぼう」
言われるまでもないことだった。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク