ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

サイドストーリー 【 聖騎士 】3
(“大切な人を守る、博愛の騎士――それが、聖騎士”)
(“攻撃こそ、最大の防御”)
二つの言葉が、あの日から、キルガの頭を離れなかった。
(攻撃が……最大の、防御?)
言葉としては、聞いたことがある。だが――意味は、よく分からない。
(……何かを守るために、攻撃をする……?)
なんだか矛盾していないか? と思う。攻撃なら、『職』バトルマスターの専門ではないか、と。
(……難しいな)
キルガは起き上がり、窓の外を見上げる。夜、宿舎。仲間のいびきがよく聞こえる。
もともと夜すぐに寝られないのだが、さらにいびきの大合唱が耳に飛び込んできているこの状況で
どうやって寝ろというんだ、というのがキルガの感想である。
(……星空、か)
人間界へ落ちて、そろそろ一週間がたつ。姿は人間のまま、変わりはしない。
もう、一生戻らないかもしれないな、と苦笑した。諦めたのだろうか。自分の感情も、分からない。
「…………?」
と、キルガは、不意に広場を見た。守護天使像の前。誰かいる。キルガは声をあげそうになった。
金髪、長い髪を頭上で結わえている、キルガと同じ灰色の瞳の、神秘的な女性。
彼女は守護天使像の前に立っていた。だが、像は見えた……すなわちその女性は、[透けていた]。
見たことはない。だが、キルガは知っていた。誰なのかが分からないというのに――知っている。
(…………何、だ?)
彼女はキルガをまっすぐ見ていた。が――瞳があった瞬間、ふっと笑い――そして、消えた。
「っ!」
無意識に、呼び止めようとして……かなわないことを理解する。
キルガは口をつぐんだ。今のは、何だったんだろうと、考える――当然、何も思いつかなかった。
何重ものいびきを背音楽に、青年は一人たたずむ。
……そして、翌日、彼はグビアナ城を離れた。
理由は、単純である。修道院を追われたのだ。朝、聖騎士団長から、厳しい話があった。
グビアナの女王から修道院への寄付金が送られなくなった、と。
よって何人かが、修道院を後にすることとなった。新米のキルガは当然その内に入っていたし、
なんとあのハルクまでもが追われる一人となっていた。
「まぁ、な。決まったことだ。仕方ねぇよ。……よう、キルガ。これからも聖騎士で居続けるかどうかは、
お前さんの勝手だ。だがな……俺の言った、あの言葉だけは……忘れんなよ」
「……“攻撃こそ、最大の防御”……ですね」
「あぁ。……んじゃ、元気でな」
それが、ハルクと交わした、最後の言葉だった。
そして、数日の時が流れ、彼は奇跡的な出会いを果たす。
同じように人間界に落ち、翼と光輪をなくした戦士セリアス、
そして、また同じように、翼と光輪のない恋しい人――マルヴィナに。
あの日以来、聖騎士は、考え続ける。
自分の戦友たちを守る役目を持つ青年は、ずっと。
サイドストーリー 【 聖騎士 】―――完

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