ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅷ 友達 】――3―― page3
「ひいいいいいいいっ!!」
「マルヴィナ――っ!?」
「大丈夫か―――!?」
「無理! 無理! 無理!」
……現在、こんな感じである。
マルヴィナは珍しく、否、初めて敵から脱兎の勢いで逃げていた。
その理由は相手がメーダロードということと、朝の起こされ方にある。
セリアスからの助言を受けた後、マルヴィナが相手を観察していると、メーダロードの触手が
怪しげな動きを見せたのである。む、と注意深く次の行動を待つと、その視線の前に闇の魔法、
闇固呪文_ドルマ_ が現れたのである。
「うわ、わわ、わっわわわわっ」
朝シェナにその呪文で起こされたマルヴィナは不幸にも闇呪文系恐怖症となっていたのである。
きゃーきゃー逃げ回る(実際にきゃーきゃーと言っていたかは定かではない)マルヴィナに対し、さらに
追いかけながら 闇力呪文_ドルクマ_ まで唱えてくるのだからもうたまったものじゃない。
原因者の一人であるシェナは、
(ごめん、マルヴィナ! 一応ははんせーしてるから、頑張れー!)
……というこれまた何とも無責任な思いをマルヴィナに向けていた。
が、
(いや、あれは頑張れはしないだろう……)
シェナの思いを読み取ったわけではないのだが、キルガは偶然にもそう思っていた。
マルヴィナが苦手とするものは無に等しいが、ないわけではない。以前天使界で[そいつ]を見た時の
マルヴィナの反応は雪と雨と槍と弓とトカゲがいっぺんに降ってくるほどの異常ものであった。
あの時よりはずっとましなものの、放っておいて良い状態でもなさそうである。
(……ダメだ、こっちはこっちで手が離せない。となると……)
「……っマルヴィナ、 呪封呪文_マホトーン_ だっ!」
キルガは間一髪、オーシャンクローの攻撃をかわすと、そう叫んだ。
マルヴィナは若干の涙目でキルガの方向を見る。
「な、何ーっ!?」
「マ・ホ・ト・ォ・ン!!」
「まほと……? あっ!」
かなり区切れ区切れに叫ばれ、ようやく気付く。マルヴィナは一度速度を速めると、
踵で急ブレーキをかけ、もう片方の微妙に震える足をダン、と無理矢理地につける。
素早く空中で魔法文字を描き、人差し指と中指をくっつけて立たせ、びしとメーダロードに突きつける。
「マホトーン!!」
高らかに、その呪文を唱える。魔法封じである。再び 闇力呪文_ドルクマ_ を唱えようとした
メーダロードの触手からは何も生じない。ぴきーん、と緊張していたマルヴィナはだぁっと肩の力を抜き、
「これがわたしの 呪封呪文_マホトーン_ だ! ありがとキルガ!」
「え、何っ!?」
いきなり呼ばれて話の内容も知らずキルガは思わず反応。ごめん、後でいい、とマルヴィナは慌てて頭を下げる。
呆気にとられたメーダロードは、やがて、ふぃぃぃぃん! と情けなく鳴くと、
持ち前の素早さでさっさと逃げてしまった。
「うん。わたしはあんたと違って、追いかけはしないよ」
来る者拒まず、去る者追わず、である。
最初は単にイザヤールを真似ただけなのだが、今ではマルヴィナはそれを誇りとしている。
(……さて。それじゃ、シェナを手伝ってやるか)
別に恐怖症が増えたのはシェナのせいじゃないよ、多分、きっと、おそらく、うん、……、と、
いまいちはっきりと断言できないマルヴィナではあったのだが。
さて。キルガは既にオーシャンクローを追い詰めた状態なのでいいとして、一方のセリアスは。
祈祷師を相手に、攻撃呪文を受けないようにと俊敏に動いていた。が。
「げげっ!?」
……攻撃ではない、状態変化を起こす呪文までは避けられなかった。
あっさりと 睡眠呪文_ラリホー_ を食らい、かくん、と頭を垂れ、そのまま
「くかー」
と規則正しい寝息を立て始める。口が半開きである。
「ちょっ!? 戦いのツワモノがグースカ寝てるってどゆコト!?」
戦闘中はいつもマルヴィナから離れ遠くから応援係と化すサンディ、当然のごとくこのセリアスの状況に
文句を思いっきり言う。
「この面倒者……」
キルガがぼそりと悪態をつき、オーシャンクローにとどめを刺すいなや、祈祷師に反撃される寸前の
セリアスをかばいつつ遠慮容赦なくゆする。が、セリアスは目覚めが悪い。一度寝たら全然起きない。
キルガはここで、祈祷師の攻撃とセリアス起こしの両方と戦う羽目にあう。
(何の罰ゲームだ……あぁくそっ、さっさと起きろセリアス!)
もちろんそこで「はーい」と言って起きるほどセリアスは単純ではない。はず。
「くっ!?」
祈祷師の攻撃は止まらない。今ここで祈祷師を相手に闘うべきか? 否、別な魔物が現れた時、
セリアスが狙われない保証はない。となると、さっさと起こすしかない。が、セリアスはちっとも目覚――
「っ! サンディ!!」
「は?」
目覚める、の言葉でキルガは思い出す。昨夜のサンディの話を。
サンマロウの花屋でもらった(と言う名の盗んだ)第一感想ド派手なコサージュ代わりの花。
確かあの花は、あの花の本当の名は――!
「貸してくれっ」
「えーっ!? 何そのいきなり――て、ま、マジすか!?」
サンディの文句を一切聞き入れず、キルガはするりとサンディのコサージュをとっていた。
「アンタ盗賊!? あーあアタシのコサージュがぁ……」
「これで……どうだっ!」
鮮やかすぎる花びらを指先でこする。と、何とも強烈な臭いが辺りに漂う。
う、と若干顔をしかめ、キルガはそのままキルガの鼻先にやはり遠慮容赦なく突きつける。
目覚めの花。そのままの意味で、その花はそう呼ばれていた。普通に飾っていればただド派手なだけの花、
だが花弁をこすった途端に漂う匂い(臭い)はどんなに目覚めの悪い人間でも
必ずや起きると言われる最恐の花である。
もともとは、もちろん寝起きの悪い人のために開発された花なので、
使い方はこれにてようやく正しいものとなったのだが、
「っ、っっっっっっっっっ!!?」
……セリアス、さすがに目を覚まし、がばっと頭をあげ、その拍子に不幸にもキルガの顎に強かに打ち付けた。
「「痛って……」」
同時に呟くが、セリアスはそれがスイッチとなったのか、先ほどまで戦っていた敵を見つけるなり相手を成敗する。
「大丈夫ー? お疲れさーん」
セリアスの戦闘が終わったことを確認したシェナは最後にそう言った。
***
思わぬところで時間を食ってしまい、四人は奥へ急ぐ。一体マキナ、否マウリヤは、どこへ行ったのか。
見つからないことに対する不安が募る。が、それだけにはとどまらなかった。
「っ――」
マルヴィナの歩が、だんだんと遅くなっていた。重たそうに引きずり、顔色を悪くし、息をあがらせる。
そしてついに、マルヴィナはふっと洞窟の壁に身体を預けるように倒れこんだ。
「マルヴィナ!?」
シェナが叫び、セリアスがあわてて助け起こす。先頭を歩いていたキルガは若干遅れて駆け寄った。
「いきなり、どうしたんだ?」
「……う、ごめん」マルヴィナはゆっくり呟く。「なんか……身体が、重い……」
「まさか」シェナだ。「朝言ってた睡眠薬の影響じゃないでしょうね!?」
「睡眠薬?」キルガが反応する。
「どういうことだよ。そんなもの飲んだのか? いや、飲まされたのか?」
セリアスもまた尋ねるが、分からないらしいわ、と代わりにシェナが答える。
「ご……ごめん、大、丈夫……」
「そうには見えない」キルガはきっぱり言い返し、腰の鞄から薬を一錠取り出す。
「何それ?」
「気付け薬」
シェナの問いに一言で返し、マルヴィナに渡す。
「この一件が解決したら、休んだらいい。とりあえずはこれ飲んで、少し我慢してほしい」
「当たり前……わたしだけひとり、残るわけにはいかない……」
受け取り、マルヴィナはそのまま喉奥に放り込む。立ち上がり、再び歩き出す。
が、そのしばらくした後、彼女は眠りに落ちた。
「本当はこれも睡眠薬なんだ」
マルヴィナがすっかり寝てしまったのを確認して、キルガは彼女を負いながらそう言った。
「あのままじゃマルヴィナ、絶対無理をするからな。それでよかったんじゃないか?」
セリアスは納得し、そう言う。咎めはしない。一回休んだ方がいい、と言う意見に賛成していた。
「それ、キルガがいつも使ってる薬よね?」
念のために、シェナが確認する。キルガは頷いた。キルガもキルガで寝つきが悪いため、
どうしても休養をとらないといけない時に使用するらしい。
「あぁ、だから目覚めは悪くないとは思う」
「ならいいわ」シェナは嘆息した。「本当に、誰が混ぜたのかしら」
「偶然入っちまった、ってことならいいんだけどよ。……まずないよな」
「ないわね」
「……ちなみに根拠は?」
あまりにもきっぱりとシェナが言ってしまったので、セリアスは一応尋ねる。答えは簡潔であった。
「女の勘よ」
それからは幸い、魔物には見つかることなく奥へ進むことができた。
が、歩を進めるごとに、嫌な気配を感じる。ツンと鼻を刺す臭いまでしてきた。
「……あれ?」
セリアスが久々に口を開く。ここに来るまでずっと黙っていたせいか、若干声が上ずった。
「……あそこにいるの、マキナ……じゃなくて、マウリヤじゃないか?」
金色の髪と朱色のリボン、間違いない――洞窟の最深部、マウリヤは一人そこに立っていた。
「ようやく見つけた……これで解決ね」
シェナが苦笑した。
「ここの空気、身体に悪そうなのよね。正直さっさと退散したいわ」
「あぁ、そうした方がいいな」キルガも頷く。
……が、ここでもやはり、現実は彼らに甘くはなかった。
セリアスは先ほど、こう言った。
(“何かこの洞窟、すっげぇ深いトコ行くと、ヤバい魔物が出るんだってよ”)
その姿、形は、誰も知らない。
だが、彼らには分かった。
目の前に現れた、八の脚と髑髏の顔を持つ巨虫――それが、セリアスの言った魔物だということに。
そして更に、キルガとセリアスは気付く。
その魔物の姿は、マルヴィナが闇呪文以上に苦手とする[そいつ]と同じであったことに――。
「ひいいいいいいいっ!!」
「マルヴィナ――っ!?」
「大丈夫か―――!?」
「無理! 無理! 無理!」
……現在、こんな感じである。
マルヴィナは珍しく、否、初めて敵から脱兎の勢いで逃げていた。
その理由は相手がメーダロードということと、朝の起こされ方にある。
セリアスからの助言を受けた後、マルヴィナが相手を観察していると、メーダロードの触手が
怪しげな動きを見せたのである。む、と注意深く次の行動を待つと、その視線の前に闇の魔法、
闇固呪文_ドルマ_ が現れたのである。
「うわ、わわ、わっわわわわっ」
朝シェナにその呪文で起こされたマルヴィナは不幸にも闇呪文系恐怖症となっていたのである。
きゃーきゃー逃げ回る(実際にきゃーきゃーと言っていたかは定かではない)マルヴィナに対し、さらに
追いかけながら 闇力呪文_ドルクマ_ まで唱えてくるのだからもうたまったものじゃない。
原因者の一人であるシェナは、
(ごめん、マルヴィナ! 一応ははんせーしてるから、頑張れー!)
……というこれまた何とも無責任な思いをマルヴィナに向けていた。
が、
(いや、あれは頑張れはしないだろう……)
シェナの思いを読み取ったわけではないのだが、キルガは偶然にもそう思っていた。
マルヴィナが苦手とするものは無に等しいが、ないわけではない。以前天使界で[そいつ]を見た時の
マルヴィナの反応は雪と雨と槍と弓とトカゲがいっぺんに降ってくるほどの異常ものであった。
あの時よりはずっとましなものの、放っておいて良い状態でもなさそうである。
(……ダメだ、こっちはこっちで手が離せない。となると……)
「……っマルヴィナ、 呪封呪文_マホトーン_ だっ!」
キルガは間一髪、オーシャンクローの攻撃をかわすと、そう叫んだ。
マルヴィナは若干の涙目でキルガの方向を見る。
「な、何ーっ!?」
「マ・ホ・ト・ォ・ン!!」
「まほと……? あっ!」
かなり区切れ区切れに叫ばれ、ようやく気付く。マルヴィナは一度速度を速めると、
踵で急ブレーキをかけ、もう片方の微妙に震える足をダン、と無理矢理地につける。
素早く空中で魔法文字を描き、人差し指と中指をくっつけて立たせ、びしとメーダロードに突きつける。
「マホトーン!!」
高らかに、その呪文を唱える。魔法封じである。再び 闇力呪文_ドルクマ_ を唱えようとした
メーダロードの触手からは何も生じない。ぴきーん、と緊張していたマルヴィナはだぁっと肩の力を抜き、
「これがわたしの 呪封呪文_マホトーン_ だ! ありがとキルガ!」
「え、何っ!?」
いきなり呼ばれて話の内容も知らずキルガは思わず反応。ごめん、後でいい、とマルヴィナは慌てて頭を下げる。
呆気にとられたメーダロードは、やがて、ふぃぃぃぃん! と情けなく鳴くと、
持ち前の素早さでさっさと逃げてしまった。
「うん。わたしはあんたと違って、追いかけはしないよ」
来る者拒まず、去る者追わず、である。
最初は単にイザヤールを真似ただけなのだが、今ではマルヴィナはそれを誇りとしている。
(……さて。それじゃ、シェナを手伝ってやるか)
別に恐怖症が増えたのはシェナのせいじゃないよ、多分、きっと、おそらく、うん、……、と、
いまいちはっきりと断言できないマルヴィナではあったのだが。
さて。キルガは既にオーシャンクローを追い詰めた状態なのでいいとして、一方のセリアスは。
祈祷師を相手に、攻撃呪文を受けないようにと俊敏に動いていた。が。
「げげっ!?」
……攻撃ではない、状態変化を起こす呪文までは避けられなかった。
あっさりと 睡眠呪文_ラリホー_ を食らい、かくん、と頭を垂れ、そのまま
「くかー」
と規則正しい寝息を立て始める。口が半開きである。
「ちょっ!? 戦いのツワモノがグースカ寝てるってどゆコト!?」
戦闘中はいつもマルヴィナから離れ遠くから応援係と化すサンディ、当然のごとくこのセリアスの状況に
文句を思いっきり言う。
「この面倒者……」
キルガがぼそりと悪態をつき、オーシャンクローにとどめを刺すいなや、祈祷師に反撃される寸前の
セリアスをかばいつつ遠慮容赦なくゆする。が、セリアスは目覚めが悪い。一度寝たら全然起きない。
キルガはここで、祈祷師の攻撃とセリアス起こしの両方と戦う羽目にあう。
(何の罰ゲームだ……あぁくそっ、さっさと起きろセリアス!)
もちろんそこで「はーい」と言って起きるほどセリアスは単純ではない。はず。
「くっ!?」
祈祷師の攻撃は止まらない。今ここで祈祷師を相手に闘うべきか? 否、別な魔物が現れた時、
セリアスが狙われない保証はない。となると、さっさと起こすしかない。が、セリアスはちっとも目覚――
「っ! サンディ!!」
「は?」
目覚める、の言葉でキルガは思い出す。昨夜のサンディの話を。
サンマロウの花屋でもらった(と言う名の盗んだ)第一感想ド派手なコサージュ代わりの花。
確かあの花は、あの花の本当の名は――!
「貸してくれっ」
「えーっ!? 何そのいきなり――て、ま、マジすか!?」
サンディの文句を一切聞き入れず、キルガはするりとサンディのコサージュをとっていた。
「アンタ盗賊!? あーあアタシのコサージュがぁ……」
「これで……どうだっ!」
鮮やかすぎる花びらを指先でこする。と、何とも強烈な臭いが辺りに漂う。
う、と若干顔をしかめ、キルガはそのままキルガの鼻先にやはり遠慮容赦なく突きつける。
目覚めの花。そのままの意味で、その花はそう呼ばれていた。普通に飾っていればただド派手なだけの花、
だが花弁をこすった途端に漂う匂い(臭い)はどんなに目覚めの悪い人間でも
必ずや起きると言われる最恐の花である。
もともとは、もちろん寝起きの悪い人のために開発された花なので、
使い方はこれにてようやく正しいものとなったのだが、
「っ、っっっっっっっっっ!!?」
……セリアス、さすがに目を覚まし、がばっと頭をあげ、その拍子に不幸にもキルガの顎に強かに打ち付けた。
「「痛って……」」
同時に呟くが、セリアスはそれがスイッチとなったのか、先ほどまで戦っていた敵を見つけるなり相手を成敗する。
「大丈夫ー? お疲れさーん」
セリアスの戦闘が終わったことを確認したシェナは最後にそう言った。
***
思わぬところで時間を食ってしまい、四人は奥へ急ぐ。一体マキナ、否マウリヤは、どこへ行ったのか。
見つからないことに対する不安が募る。が、それだけにはとどまらなかった。
「っ――」
マルヴィナの歩が、だんだんと遅くなっていた。重たそうに引きずり、顔色を悪くし、息をあがらせる。
そしてついに、マルヴィナはふっと洞窟の壁に身体を預けるように倒れこんだ。
「マルヴィナ!?」
シェナが叫び、セリアスがあわてて助け起こす。先頭を歩いていたキルガは若干遅れて駆け寄った。
「いきなり、どうしたんだ?」
「……う、ごめん」マルヴィナはゆっくり呟く。「なんか……身体が、重い……」
「まさか」シェナだ。「朝言ってた睡眠薬の影響じゃないでしょうね!?」
「睡眠薬?」キルガが反応する。
「どういうことだよ。そんなもの飲んだのか? いや、飲まされたのか?」
セリアスもまた尋ねるが、分からないらしいわ、と代わりにシェナが答える。
「ご……ごめん、大、丈夫……」
「そうには見えない」キルガはきっぱり言い返し、腰の鞄から薬を一錠取り出す。
「何それ?」
「気付け薬」
シェナの問いに一言で返し、マルヴィナに渡す。
「この一件が解決したら、休んだらいい。とりあえずはこれ飲んで、少し我慢してほしい」
「当たり前……わたしだけひとり、残るわけにはいかない……」
受け取り、マルヴィナはそのまま喉奥に放り込む。立ち上がり、再び歩き出す。
が、そのしばらくした後、彼女は眠りに落ちた。
「本当はこれも睡眠薬なんだ」
マルヴィナがすっかり寝てしまったのを確認して、キルガは彼女を負いながらそう言った。
「あのままじゃマルヴィナ、絶対無理をするからな。それでよかったんじゃないか?」
セリアスは納得し、そう言う。咎めはしない。一回休んだ方がいい、と言う意見に賛成していた。
「それ、キルガがいつも使ってる薬よね?」
念のために、シェナが確認する。キルガは頷いた。キルガもキルガで寝つきが悪いため、
どうしても休養をとらないといけない時に使用するらしい。
「あぁ、だから目覚めは悪くないとは思う」
「ならいいわ」シェナは嘆息した。「本当に、誰が混ぜたのかしら」
「偶然入っちまった、ってことならいいんだけどよ。……まずないよな」
「ないわね」
「……ちなみに根拠は?」
あまりにもきっぱりとシェナが言ってしまったので、セリアスは一応尋ねる。答えは簡潔であった。
「女の勘よ」
それからは幸い、魔物には見つかることなく奥へ進むことができた。
が、歩を進めるごとに、嫌な気配を感じる。ツンと鼻を刺す臭いまでしてきた。
「……あれ?」
セリアスが久々に口を開く。ここに来るまでずっと黙っていたせいか、若干声が上ずった。
「……あそこにいるの、マキナ……じゃなくて、マウリヤじゃないか?」
金色の髪と朱色のリボン、間違いない――洞窟の最深部、マウリヤは一人そこに立っていた。
「ようやく見つけた……これで解決ね」
シェナが苦笑した。
「ここの空気、身体に悪そうなのよね。正直さっさと退散したいわ」
「あぁ、そうした方がいいな」キルガも頷く。
……が、ここでもやはり、現実は彼らに甘くはなかった。
セリアスは先ほど、こう言った。
(“何かこの洞窟、すっげぇ深いトコ行くと、ヤバい魔物が出るんだってよ”)
その姿、形は、誰も知らない。
だが、彼らには分かった。
目の前に現れた、八の脚と髑髏の顔を持つ巨虫――それが、セリアスの言った魔物だということに。
そして更に、キルガとセリアスは気付く。
その魔物の姿は、マルヴィナが闇呪文以上に苦手とする[そいつ]と同じであったことに――。

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