ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅲ 再会 】―― 1 ―― page1


 リベルトが昇天し、夜が明け――二日後。
 セントシュタインの兵士から、峠の道が開いたとの連絡が来た。
 そして、リッカがセントシュタインへと旅立つ日が来たのである。
「リッカ」
 マルヴィナは、声をかけた。
「うん」
「いろいろ、お世話になった。ありがとう」
「こちらこそ。マルヴィナには、いろいろ助けてもらったし」
 リッカは笑う。
「……宿屋。いつか来てよねっ」
「もちろん。……リッカの未来に、薔薇の祝福を」
 古めかしい挨拶をして、二人はいつかのように微笑んだ。

 リッカが旅立ち、そして。
「さー! あたしたちも出発しよ! 天の箱舟、場所もち覚えてんでしょーネ?」
「峠の道」
「おっけ。さ~、レェッツ・ゴーーッ!」
 テンションがついていけない。


「さ! 乗って乗って!」
 急かして、サンディがパタパタ飛び回る。
 ……天の箱舟。あの日、砕け散ったはずの舟……
 それにわたしが乗っている。わたしがここに立っている!
「そーれ、いっくよぉーー……ス・ス・スイッチ・オンヌッ!!」
「………………・は?」
 
 ――がしゅ。

 小気味いい音がした。したのはしたが。
「……………………」
「……………………」
 反応なし。
「……ダメか」
「諦め早っ」
「ぐぅぅ……アタシ的には天使乗せりゃ絶対動くと思ってたのに……」
「……はぁ」
 サンディはしばらく考え込み、ぐるっと振り返る。
「アンタさ、あん時星のオーラ見えなかったよね?」
「……うん」
「それってやばくネ? だいたいさぁ、天使なのに人間に近いってありえないっしょ!」
 ぐさりと急所を刺された気分に陥る。
「……………………・・まあね……」
「あれ。意外と素直じゃん。超ウケる! ――とか言ってる場合じゃないか。
アタシもトロトロしてると神様に怒られるっぽいし……って、そーよ、神さまよ。
何でアタシらがこんな目に遭ってるのに何もしてくれないわけ!?」
 同じことを思っているな、とマルヴィナは思った。
「……とにかくマルヴィナ、アタシ達もセントシュタインに向うワヨ。
きっとそこで星のオーラ見つけて天使だって証明すれば
天の箱舟だって動くって――え、何その思いっきり疑ってる顔」
 超受ける、と付け足して、サンディはマルヴィナの背中を思い切り蹴った。
「んじゃ、人助けの旅に、レェェッツ・ゴ――!」
「…………痛いよ」


   ***


 マルヴィナは、新しい土地に向かって歩いた。見たことのない魔物が多い。……当たり前だが。
「マルヴィナー」
 サンディがひょこっ、と 頭巾_フード_ から顔を出して、言う。
「ここら辺からホント自分の身はしっかり守りなさいヨ? 
殺しちゃかわいそーなんて言ってたらアンタがやられちゃうんだし」
「う……分かった」
 そういうことをサラリと言わないでほしい。
「……ん」
 サンディの何かに気付く声、マルヴィナが首をひょいと伸ばした、「あ、そっちダメ」という
サンディの声がした、その瞬間。

   ハビューーンッ!!

 ……というような音を伴って飛んできたのは、

「…………っだはぁぁがっ!?」ばひゅっ。

 ……小さな火の玉であった。
 しかも、マルヴィナの顔面に直撃した。
「……………………」
「……マルヴィナ。いまのすっごく……ダサかった」
「………………………………」
「あそこにいる見習いのまほー使い見える? 多分あのコ。
マルヴィナに当たったてことも気付いてナイっぽいネ」
「…………うん」
 怒る気にもなれないマルヴィナは、とりあえずくちの中でホイミ、と言った。
 …… 治療呪文_ホイミ_ 、名の通りの回復の魔法である。
 先日、いつかホイミスライムと言うスライム族の亜種になりたいと願っていた
スラらんから教えてもらったのである。
 ……とりあえず、結局なんだったんだと呟いてから、マルヴィナは再び歩き出した。


 セントシュタインまではそんなにかからなかった。
 城下町に入ったマルヴィナが第一に思ったことは、
(すごい町)
 である。町並みは綺麗で、シンプルな明るさがあった。
「……………………」
 同時に、どこへ行こうか迷った。
「あ、マルヴィナ、宿屋ってあれじゃネ? 行ってみよーよ!」
 だが、挟まったのはサンディの発言。ある意味助かったマルヴィナは、サンディの言葉に従った。


 宿屋に入り、扉を閉める。
「いらっしゃいませ。宿帳はこちらです」
 その声は。
「……あ、リッカ」
「……あ! マルヴィナ! 来てくれたんだ!」
 カウンターに立っていたのは、リッカであった。
 マルヴィナは目をしばたたかせ、言う。
「……もう、仕事してるの?」
「うん。――いや、最初はこんな娘、って言われたけどね。任されてますよん」
「さすがだ……」
 マルヴィナ、苦笑。
「あら、マルヴィナ!」
 続いて、登場したのはルイーダ。相変わらず優雅である。
「ルイーダさん!」
「ん。そういえば、遺跡で助けてもらったお礼、まだしてなかったわね。
……貴女、確か一人で旅をしていたのよね?」
「……え。まぁ」
 サンディを例外としていいものか悩むが。
「私が一緒に冒険してくれる仲間を見つけてあげましょうか」
「……仲間」
 マルヴィナは、ぽかん、とした。人間の仲間って……
「そ。彼らは、このセントシュタインにいるわ。このバッジをつけているの。
こっちの赤が募集中・募集され中、青が募集され中。……どっちにする?」
 仲間決定かよ。
「……赤で」
「了解。――目安は四人。貴女を含めてね。あまり多いと、狙われやすいから――
それじゃ、良き時間を!」
 ……やっぱりこの人と話すと、ペースを奪われる。
 マルヴィナは苦笑した。