ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅢ 聖者 】――4―― page2
「ガナン帝国は三百年前に一回滅びたってのは知っているな?」
つい最近だが、それは聞いた。それぞれの反応で頷く三人。
「それがまた現れたってことは、二つの可能性がある――はいキルガ」
「えっ?」いきなり話を振られ、困惑気味に答える。その二つを応えろと言う意味か。
「……末裔たちによってたてなおされたか、あるいはその―まだよくは知らないが―『未世界』って所から
蘇った『霊』によって成り立っているか……ってことか?」
「お前本当に凄いな」完璧な回答に若干退いて半眼で答え返すチェルス。
「正解。で、どっちだと思う?」
「本来なら前者だが……話の流れからすると後者だな」
「流石はアイの――」ついうっかりぽろりと素直な感想を言いかけて、チェルスは慌てて誤魔化した。
三人、特にマルヴィナが怪訝そうにチェルスを見るが、「続きだ」と言われ、首を傾げるだけに終わった。
「そ、んで、今の帝国には『霊』がごろついている。
今日来た奴らもそうだ……殆ど骸骨だのなんだのゾンビ系統だっただろ」
「あぁ……」マルヴィナ。「そうだったな」ファイアフォースを皆にかけたのだから、覚えている。
死してなおこの世を彷徨うものに効くのは、炎、そして光。だから聖であり炎である 空爆_イオ_系統は
浄化に適していると、シェナは言っていた。単に殲滅するだけなら、火炎系統が最も効果的ではあるけれども。
「だが――兵士には二種類いる。ひとつは、『霊』。もう一つが――正真正銘の、今生きている人間」
「へっ?」
「……・・」
「……あ、ぁ」
セリアス、キルガ、マルヴィナ―尤も喋っていないキルガをカウントに入れるかどうかの問題があるが―。
キルガは既に理解している。マルヴィナも思い出す。ようやくセリアスも気づいた。
弟を探し、ナザムの村で、その生涯を閉じた女性の存在に。
「何でまだ人間集めてんのかはまだ調査中。だが――ようやく本題に戻るが、この『発信機』は
あの国のクサレ皇帝がそんな兵士たちを監視するために使われてんのさ。もちろん、兵士には知らせないで。
――あいつは気づいていたみたいだが」あいつ、というのはルィシアだ。
「監視」マルヴィナが復唱する。「そんなもの付けて高みの見物であれこれ命令ってか」
「……いや」キルガ。「多分……脱走しないためじゃないだろうか」
「お前は……」チェルス。「何でそんなに頭が働くんだ」
「……え? ……む?」セリアス。完全に蚊帳の外。
「ハイリーさんみたいに、途中で帝国から離れたくても離れられない状況の人がいた。
……そう考えると、こっそり自分の故郷に戻って一般人のふりをする人が出てもおかしくはないだろ?」
「…………・」チェルスはかなり微妙な表情で苦笑いした。まったくこいつは。
「はいはい、じゃあもう一つはさすがにこの秀才でもわからない情報だ」チェルスはその表情のまま言う。
キルガは気を害する風でもなく、いやそもそもその『分からない情報』のことを自覚していて
そのまま尋ねるつもりでいたので、黙って話を聞く体勢に。どこまで誠実なんだこの男。
「もう一つ、『霊』に取り付ける理由だが――まぁ、人間と同じ状況も予測されるっちゃあ予測されるが
流石に三百年もたてば村町国の様子は変わる。そんな故郷に脱走してまで帰るとは考えにくい」
多分そいつ(キルガ)はそう考え済みだっただろうが――とは言わない。
「結論から言うと――『霊』の何を監視するかっていうのは、[消えたかどうか]だ」
やはり沈黙する三人組。
だから結論から言うなっての。と思ったのはマルヴィナ、
消えたかどうか……。とその意味を考えるキルガ、
………………。頭の中でも黙るセリアス。そろそろ意識がぶっ飛びそうだ。
「はいそれでは――ここでいきなりですが『未世界』について説明をします。マイにまとめてもらった」
そう言って羊皮紙を取り出すチェルス。字を書いたのはもちろん実体のある彼女だったのだが。
『未世界』――仮名。本名? 知るか。
何で存在するのか――そんな質問した奴、何でこの世があるのか説明してからにしなさい。
世間一般が『あの世』と呼ぶものとは異なる
住民は主に二種類、強く未練を残した実在していた者、即ち『霊』。
もう一つは――人間としてこの世に生まれ出でられなかった者、即ち『不人間』(仮名)。
降霊術師だの召喚士だの、そいつらが呼び出すのは『不人間』。
この世を離れきってしまった『霊』を蘇らせるには相当の魔力が必要。
しかも、本来存在する者ではない為、その身体が再び死を迎えたときその身体は[消える]。
最後のは、マルヴィナも初めて聞く話だ。チェルスは段々疲れながらも話を続ける。
代わりに読もうか、と言おうとしたのだが――それは天使界のものでありながら古代文字であり、読めなかった。
さてここで世界の真実です。
霊関係の仕事している人には有名だよ~僧侶とか「しまった、マイの言ったことそのまんま書いちまった」
人が死を迎えたとき、魂はどうやって別世界に行くのか? って話。
まぁ、死者の扉が開くんだろうって考えが最も有力らしいけれど。実は、正解。
もち名前は違うけれど、ごく小さな扉的なものが開いて、そこから魂は別世界に飛んでいく。
『霊』も同じで、死を迎えた瞬間その扉を通って『未世界』か『あの世』とかいう世界に戻っていく。
その時身に着けていたものも一緒に消えちゃう。発信機だって例外じゃない。
だから、『霊』に取り付けた発信機が消えた時点で、その『霊』が死んでしまったかどうかが分かるって仕組み。
「……マイの説明はいちいち軽いなマッタク」
重要なことを何でもない顔してさらりと言うお前が言うな、……とは流石に三人も言わなかった。
「そのための発信機か……納得した」
「やっぱ異世界っていうのは不思議だな。この世も天使界も説明し始めるとキリがなさそうだな」
キルガ、そしてマルヴィナ。セリアスは口から魂が抜けそうである。
「……説明は以上。よろし?」
「わたしは大丈夫」マルヴィナが答えたが、キルガはまだ何か考えている。
一体どこからそうも疑問が出てくるんだ。
「……まぁ、さすがに説明はもうこれで勘弁してくれ。言った通り説明は苦手なんだ」
「だってさ、キルガ」
「……あぁ」
「分からないことがあったらまた訊きに行けばいい」マルヴィナの助け舟。
不承不承、キルガも頷き、長い説明の時間は終わった。
「……これは今言っちゃいけないだろな」
宿を出たチェルスは、羊皮紙の最後の文を見て、呟いた。
なんせ、これは。
これは、これからのマルヴィナとシェナの、最も脅威となる事項であるから――
『……では、一度に大勢の霊が消えた場合――死者の扉の大きさはどうなるでしょう?』
それによって起こる現象、
それは――……。

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