ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 ⅩⅠ 予感 】――4―― page3


 一両目に残された三人は、それぞれ席に座り、思い思いの行動をし始めた。
キルガは棚にあった歴史書を読み、セリアスは簡単な筋力トレーニングを始めた。
シェナは、運転するサンディのご機嫌な鼻歌を聞きながら、
ひとり、先ほどのマルヴィナ以上に思いつめた表情で考え込んでいた。
(……ばか。なんで、ついてきたの)
 自分自身に、嫌気がさしながら。
(……どうする気なの。今更、言うの? そんなこと、できるはずがない)
 シェナは自分が、小さく震えていることに気が付かなかった。
(……これから、どうしよう……もし、いられなくなったら……どうすれば、いいんだろう……っ)
 心のどこかで。彼女は、このまま箱舟が、どこにも着かなければ良いのに、そう考えていた――……。




 果実のあまりの重さにあっちらこっちらよろけつつも、マルヴィナは三両目の扉の前に立った。
開けようとして――止まる。

「………………………………」

 そして、黙り込んだ。……考え込むことが、多すぎて。

 第一に、“蒼穹嚆矢”チェルス、記憶の先祖。自分を創り上げたもの。
自分は、創造神グランゼニスが生み出したものではない――
 では、そのチェルスというのは何者なのか? 天使を一人創り上げるだけの力を持つ――その、チェルスという者は。

 第二に、マイレナ。暗闇でよくは見えなかった、だが、彼女は、どことなくルィシアに似ていた。
邪心のない、ルィシア。どこか、共通するものがあった。……まさか、子孫?

 第三に――昨夜、マイレナとの会話の途中に感じた疑問。
 地上に落ちた、天使たち。随分長いこと旅をして、おそらく世界の大半はすでに回ったであろう。
だが――天使の姿を、誰一人として見なかったのである。
天使界に戻った時、天使の姿は見えた。だから、見えなくなったわけではない。本当に、見なかったのだ。
落ちたのはマルヴィナ、キルガ、セリアスだけではない。他、地上へ、いなくなった天使たちを探しに
師匠たち――イザヤールや、ローシャや、テリガンといった上級天使たちも
天使界を離れて地上に降り立っているはずなのだ。……何故、誰にも会わなかった?

 第四に――シェナだ。
何故彼女は、天使界へ行くことを拒んでいるのだろう。
自分を、[昔翼を失い地上に落ちた元天使]と称す彼女の噂を、マルヴィナたちは聞いたことがない。
天使たちによって、隠されているのか? おそらく同い年の彼女を、マルヴィナたちは知らなかっただけなのか?

 そして、第五に――女神の果実。
七つ集めきった。これで、天使たちは神の国へ戻ることができる。それを昨日は喜んだ。
だが、ふと思い出した――カルバドの草原で思ったこと。
……翼も光輪もない自分たちは、果たしてどうなるのかと。
それに、地上に、ガナンや、謎の者―“未世界”から霊を蘇らせられる者―を残して、
このまま行ってしまっていいのだろうか。

 ……すっきりしなかった。分からないことが、多すぎた。早く戻りたい、戻って、皆の喜ぶ顔が見たいと考えつつも、
どこかで、このまま天使界へ行ってしまっていいのだろうかというもやもやとした思いが渦巻いていた。




 そんなことを考えていたからか。マルヴィナは、気が付かなかった。
自分の後ろで、淡い光の渦が生じていることに。
それでも、しばらくして振り返ったのは、懐かしい声が聞こえた気がしたから。
真っ直ぐ自分に、「久しいな、マルヴィナ」と言われたからだ。
しびれかけた腕を気にせず、マルヴィナは勢いよく振り返り、そこに立っていた姿を見て――
マルヴィナは、その瞬間、思考を停止させた。


 なぜなら、その人は。








「…………え……っ………………イザヤール、さまっ……・!?」














 それは、何年振りかにあった、自分の師匠だったのだ。










            【 ⅩⅠ 予感 】  ――完。