ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅳ 封印 】――2―― page2


       ――ざっ!

「んなっ!?」

 とびかかったセリアス自身、驚いた。
 全くダメージを与えられなかったはずの病魔が……今、確かに、悶えた。
「……え? いまの、……実体?」
セリアスは手ごたえを感じていた。気付いた。病魔を弱らせる方法を――
 病魔は精神体だ。だがそれは、攻撃を受けない代わりに、こちらを傷つけることもできない。
 攻撃をするために一瞬でも精神体を実体に戻すというのなら――
こちらが攻撃する 機会_チャンス_ は、病魔の攻撃のその一瞬。
「…………くそっ、マルヴィナ……起きないぞ」
「……仕方ない。――奴が攻撃をする……実体に戻る機会を作る。攻撃は任せるよ」
 キルガの言葉にセリアスが頷こうとして、その言葉の意味に気付く。
「……待て。……それ、――囮になるってことか?」
「あぁ」あっさりと言われる。
「冗談じゃねぇ、そんな危険なこと任せられるかよっ」
 ……言うと思った。だからあえて、はっきりと“囮になります”と言わなかったのに。
「……それ以外の作戦を考えている暇はない。なるべく早く終わらせる必要があるんだ。
……それに、僕は」
 キルガは静かに、槍を構える。意識を集中させ、しっかりと両足立って、言う。
「――聖騎士だ」
 聖騎士――すべてを守りにかける、博愛の騎士。
 これ以上被害は出したくない。ここにいる仲間と、ルーフィンを、守ること。それが、今のキルガの使命。
 言い切られたその言葉に、セリアスは言葉に詰まる。その間に、キルガは走った。
シェナがふっとため息をつく。「……必死なのよ、キルガだってさ」
「分かってるよ」セリアスは答える。「……すぎるほどにな」
「……ま、任されたんだし――マルヴィナ心配なのもわかるけど――」
 シェナは複雑な表情をするセリアスを見る。そして、そんな戦士に、一言で気を奮い立たせた。
「――行くわよ」
「――あぁ」
 二人は集中する。



『……どう思う? 眠りに就いてしまったけれど』
 何かの、声がした。だが、誰も聞こえない。誰も気付かない。
『どうって……どー考えても、まだピンチじゃないっしょ』
『……まぁ……そうよね。無駄に“チカラ”を使うわけにもいかないし……』
 二人分の声だ。だが、やはり誰も聞こえていない。誰も気付かない。
『せめて、ブルドーガ戦の時みたいなヤバさがないと、動けないわな』
『えぇ。……でも、油断は禁物だわ。危険になったら、“チカラ”を使うわよ』
『言われなくてもわかってるって。――死なせるわけにはいかないってこともさ』
 ……声は、一度途切れた。だが、それでも、誰も気付かない――



「…………・っだぁぁああっ!」
 セリアスが叫ぶ。
「っイオ!!」
シェナが 空爆呪文_イオ_ を唱える。キルガが身を鮮やかにひるがえし、
“実体”に戻っていた病魔は再び悶えた。
「いける! ――ルーフィン、調子はどうっ!?」
「あと少し時間がかかりそうです。思ったより複雑でしてね……」
「――冷静に言うなっ」
 こっちは必死なんだっ、――と言おうとしたときに、病魔がのけ反った。
びくっ、として、セリアスは発言の機会を逃したということなのだが。
「……心臓に悪いわねっ」
 同じくシェナもびくりとしたらしく、無駄に緊張させてくれたお見舞いに 闇固呪文_ドルマ_ を唱えかけて
すでに“精神体”に戻っていることに気付き舌打ちする。
「割と弱まったわ、あとはほとんどルーフィンを待つだけなのに……」
「キルガ、もう囮になる必要はない! あとは奴の攻撃に気を付けるだけでいい。
このままの状態で、あとは封印されるのを待――」

 その時。
 病魔が、思いもよらぬ行動をした。

「?」

 今確かにそこにいたはずの病魔が――いない。
 消えた? いや、そんなはずはない。嫌な気配が、まだずっとしているのに――何処へ――

「あそこっ!」

 シェナが真っ先に気付き、指差した先は、マルヴィナのいる位置だった。
深い眠りについたマルヴィナは、目の前に病魔がいても、全く起きる気配がなかった。
「……まずい!」
 病魔の手が振り上がる。残された力を使って、一人でも多く道連れにするために――病魔は、マルヴィナを狙う。

       「っマルヴィナ―――っ!!」




 その叫びが、止まった。

 マルヴィナを包み込んだ、青白い光を見て。



  ―――カァァァァッ!

「っ!?」
 マルヴィナを包み込んだ、“光”――それは、マルヴィナの腰に吊る、リッカから譲り受けた、
あの使い物にさえならなさそうな剣から発せられたもの。
 青白く、神々しく光る。昏睡状態だったマルヴィナの身体が動いた。ゆっくり立ち上がり――開眼する。
驚愕の表情が向けられている。マルヴィナは一瞬きょとん、とし……そして、気付いた。

「っ」

 今、自分が、するべきことに。
 目の前に病魔、一対一。相手は固まっている。病魔でも、驚くのか? ……いや、違う。
[この止まり方は]……・・!

(今、)

 マルヴィナは本能的に、剣を手に取った。
光の消えたあの剣は、前より若干綺麗になっていたものの、やはりまだ使えそうになかった。
 病魔の焦りが見える。[動けない]。動かないのではなく。何かに、止められているように。

(――っだ!!)

 もう、躊躇う感情はない。人を苦しめ、あざ笑う魔物に、天罰を――マルヴィナは叫ぶ。剣を振る。
そして――

           ――斬る!!


 〈 ―――――――――――――――――――――― 〉

 病魔が叫ぶ。人間の言葉では表せない、断末魔の、叫び。
「……っ治りましたよ!!」
 ルーフィンがようやく口を開く。四人は頷いた。全員で、意識を集中させる。

「悪しき魂よ……再び、 永久_とこしえ_ の眠りにつけ!!」

 示し合わせたわけではない。だが、四人も、ルーフィンも、導かれたようにそう叫んだ。
 病魔が――




     封印された。




「――――――――っ」
 どくん、と。
(……な……また、だ……?)
 戦いは、終わる。
 だが、マルヴィナの心臓が、その瞬間……脈打った。嫌な感じに。
 マルヴィナは知っている。この脈打ち方、普通なら絶対にありえないこの打ち方を。
(イシュダルが死んだときと……レオコーンが昇天した時と……同じだ)
 その時も、マルヴィナの心臓は脈打った。誰にも言ったことはなかったし、あのときはそう気にもしなかった。
(……一体、何……?)
「――おー、倒したねマルヴィナ。とちゅーでグースカ寝ちゃったときは焦ったよ、マジで」
 いきなりサンディ登場。一体どこにいたんだ。
「……で、天使だからだいじょーぶだとは思うけどさ、……ヘンなビョーキもらってないよね? マジ」
「……多分」
 当たり前だろ、とは、言えなかった。病気? ……いや、違う。
 これは――
「ふーん。ま、いいケド。……ところでさぁ、アンタがねちゃったとき、ヘンな声したじゃん? 聞こえた?」
「声……?」キルガ、セリアス、シェナが首をかしげる。
「したじゃん! どー考えてもピンチじゃないー、とか、ムダにチカラ使うわけにもいかんー、とか」
「………………してないよ、そんなの」
「うん。してないしてない」
「え? うっそ。……あー、コレだから天使モドキってヤッカイなのヨ。絶対したんだからね!!」
 サンディは叫んで、プイ、と横を見る。
「…………。とりあえず、もどろっか。……ルーフィンは?」
「あ、この奥。名前のない王様の墓調べるとかなんとか言ってた。……で、先戻ってろだって」
「……結局そーなんのか……」
 マルヴィナはため息をついた。




 四人は町長に病魔封印完了を伝えるべくべクセリアに戻る。

 ……しかし、戻った時に見たのは――










  エリザの、亡き骸だった。