ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅳ 封印 】――1―― page3
「呪いぃ?」
べクセリア町長ラオン、出したのは素っ頓狂な声。
四人は手分け(?)して、以下の内容を説明し終えた。
・ 病の原因は呪い
・ 病は数百年前にも起こったことアリ
・ 当時の原因は西の封印された祠の中のツボを住民が不用意に開けたため
・ その中には病魔がいた。それが病気を発生させた
・ 住民はあわてて封印した。
・ おそらく今回は、以前起きた大地震のはずみでツボの封印が解けたものと思われる
・ つまり、再び病魔が現れた可能性あり
「……ってことです」
「……な、なるほど」
「それでー、壊れたツボってすごい複雑らしいですよ。直せるのはルーフィンさんみたいな考古学者だけみたいです」
シェナが微妙にくすくす笑いながらそう言った。小悪魔。
「む、むぐぅぅぅぃ。あ奴に任せるのか……しかし、これ以上被害を出すわけにもいかんし……
お、そうだ! あなた方は若いが、腕が立つとお見受けしました。どうですかな、それなりの報酬は出します、
ルーフィンの護衛を頼めませんかな?」
あ、認めた、とシェナ。
こういった依頼を受けるか受けないか判断するのはたいていマルヴィナとなっている。だが、彼女は一言。
「……今回の判断はキルガに任せる」
「キルガ?」
ラオン、二度目の素っ頓狂声。
「あ、あなたは、キルガさん……とおっしゃるのですか?」
「……ええ、まぁ」
言葉遣いが微妙におかしいような。
名前を尋ねるときに『おっしゃる』は違ったような……という考えは声には出さない。
「……わかりました。引き受けます」
キルガはほぼ独り言のように言う。マルヴィナは安心したように、にやりと笑った。
「では、この鍵を奴に渡してください」
ラオンは言いつつ机の引き出しをやや時間をかけてずりずりと引っ張った。
小さな箱を取り出し、開けて、キルガに渡す。銀色をなしていたのだろうその鍵は、
長い時をかけたせいかすでに灰色と化した本当に小さな鍵だった。
「あの祠は、かつて名を奪われた王の閉じ込められた場所なのです。あ奴は、そのことについて研究しており、
何度も入れろと言われておったために、意地でも開けてやらんと思っておったのですが……」
「頑固なんだ」
シェナがポツリ。あわててマルヴィナがシェナの口をふさぎ、
「そ、それでは行って来まーすっ」
なぜか敬語でいい、ハイリーに見送られてそそくさと逃げた。
町長の家から出て、最後にいたセリアスが扉を閉めた。
「なあ――天使界を襲ったあの黒い光。あれと同時に、この世界では地震が起こった。
そのせいで、魔物も増えて、世界のあちこちでも異変が起きてる。
あの地震……何か、とんでもないことが起きる前触れってことはないよな?」
「……。その考え、間違ってないかもしれない。
僕たちの知らないところで、何かが動き始めているのかもね」
「なにかって……あれ、シェナ、どーしたの?」
シェナ。妙に青ざめた顔になっていた。しかも、少し震えている。
「……ちょ!? 流行病がうつったのか!? それとも口ふさいだ影響で窒息!?
それとも食べすぎで――痛」
シェナチョップ炸裂。
「何でそーなるのよ。食べすぎはあんたでしょうが」
「いってぇ。誰がいつ食べ過ぎたっていうんだ」
「毎日」
「……………………………………」
言い返せなくてマルヴィナが微妙な敗北感をもらった時のこと。
――ヒュン――
「っ!」
音を伴い飛んできたそれは、キルガのこめかみにあたった。
石。大きくはない、だが、小さくもない。つぅ、と、血の玉がキルガの頬を伝った。
「キルガ!? ――っ、誰!?」
そのマルヴィナの言葉に、反応した者はいた。
それは、小さくて六歳ほど、大きくて十歳ほどの子供たちだった。全員そろって、キルガをにらみつけている。
「何だ? いきなり危ないじゃないか」
「お前のせいだっ!」
一人の少年が、マルヴィナ――を通り越して、キルガを指差した。
「てんしなんて、いないじゃんかっ! ママを、あんな病気にさせて――」
キルガは悟る。涙をためた少年の心の内を。頼れる者のいない辛さを。
何かに怒りをぶつけなければ気を済ませられない、彼らの心境を――
無防備なキルガに、再び石が飛んでくる。マルヴィナは舌打ちした。
「――仕方ない」
その瞬間、マルヴィナは剣を引き抜いて、そのまま石つぶての向かってきたものだけを瞬時に見分けて
それを全て弾き返した。子供たちが呆気にとられる。そして、手中に残っている石を全て落とした。
マルヴィナは剣を鞘に納め、口を開きかけて何も言えなかった。神父が来たのだ。
「これ、子供たち。お客様方に、失礼をしてはなりません」
「っで、でも、そいつのせいなんだっ」
「……シャルロロ。彼は確かに、守護天使様と同じ名前です。ですが、彼は守護天使様とは違うのです。
そして、この病気も、守護天使様のせいではありません」
うわ、それ、言っちゃダメな言葉だって――と思ったが、セリアスは言わない。言ったら話がややこしくなる。
思った通り、キルガは歯の奥で、ぎりっ、と音を立てた。
「さぁ、謝りなさい。そして、八つ当たりなどというみっともない真似は二度としてはなりません」
「…………ごめんなさい」
その子の言葉に続き、それぞれ違った声の“ごめんなさい”が聞こえる。
そして皆、返事も待たずに逃げるように去っていった。
「……申し訳ございません、旅人さん方。……あの子は、人一倍情報入手が得意でしてね……
あなたの名前を聞き、居ても立ってもいられなくなったのでしょう。あの子の母親は先日、天に召されたのです」
「……そう、なのですか」
走り去る子供たちを、凝視できなかった。悔しかった。
「……お怪我をされたでしょう。教会にぜひいらしてください」
「いえ」キルガはその言葉に、丁寧に答える。「ありがとうございます。ですが、大したことではありません」
この町の人に比べれば。そう、呟く。
「……そうですか。……あなた方に、強運と健康の神のご加護のあらんことを……」
神父は、べクセリア特有の祈りをささげた。
ばしん、と。
「痛っ!?」
……しばらくの後、セリアスの右手がキルガの背中にヒットする。
「……な、……何?」
「何? じゃねーよ、この下げ下げ。勝手にひとり悩みやがって」
「……はぁ」
空返事をするキルガに、セリアスはずいと顔を近づけ言う。
「お前なぁ。なっにいまっさら後悔してんだよ。後悔したところでなんか変わるか? 誰かが蘇るか?
そんなのは叶わない。だったらいまっさらウーダウーダ考えてずにさっさと自分にできること考えろ」
「………………………………」
セリアスの言い切った言葉に、しばらく反応ができなかった。だが、言われたことは間違っていなかったし、
何より言葉の内容はキルガに最も必要なことであった。
「……返事!」
ずばりと言われ、
「……ああ。……そうだね。ごめん」
キルガは応え、力強く頷いた。
「――えぇぇーーっ!? パパがルーくんにっ!?」
エリザは、鍵のことを聞いた瞬間に口をぱっくり縦に開いて驚いた。
「ん~、まぁ、しゃーなしに、って感――」
シェナが言って、いや言いかけて、またもマルヴィナに口をふさがれた。
「……わかりましたよ。えーえー行けばいーんでしょう。
それじゃ、僕は先に行ってますんで、あなたもすぐ来てくださいよ」
というわけで、説明を終えた四人に言われたルーフィンの言葉がそれである。
やれやれといった割に、妙に張り切っている感じがしなくもない。彼にとっては、ツボを治すことよりも
封鎖され続けていた祠に入れることのほうが重要なのだろう。
残された計五人、初めに沈黙を破ったのはエリザの咳だった。
「……あ~、もう。やんなっちゃう。この部屋、ホコリ凄いから……けほっ」
「大丈夫? ……ほんとにホコリのせい?」
「……ええ、だからだいじょーぶですっ。……でも、ルーくんのほうが心配だな……病魔って、なんなのかな。
……お願い。ルーくんのこと、しっかり守ってあげてください!」
エリザは、本当にルーフィンのことが好きなんだな……
キルガは、そう思った。誰も死なせない。病魔封印を手伝うこと。
それが、今自分にできることだった。

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