ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅷ 友達 】――3―― page2
マキナの話が、はじまった。
一年前の、大地震――その後、マキナの家の使用人が、商人曰く『万病によく効く果実』を買い取ったのである。
それは、黄金の果実。大きく、綺麗な実だった。
だが、マキナはすでにあきらめていた。もう、自分の病は治らない――そう、確信していた。
マキナは思った。もし、この果実を食べるなら、誰か、大切な友達と一緒がいい、と。
両親はすでに他界していたし、病気で引きこもりがちだった自分に友達はいなかった。
いつも隣にいた、人形マウリヤ以外には。
からくり職人……マキナは彼を、からくりじいや、と呼んだ。
彼に作ってもらった、自分にそっくりな人形。
……マウリヤが、動いてくれたら。普通の女の子だったら、どんなに嬉しいことか……いつも、そう思っていた。
その時、いきなり起きためまい……吐き気。いつまでたっても、慣れない病魔の攻撃。果実がマウリヤの鳩尾に落ちる。
光輝。
マウリヤが、動き出していた。果実の力を得て……マキナの願いを聞き届けて。
マウリヤは驚いた。あぁ、幻覚まで見るようになってしまったのか……けれど、動き出したマウリヤ、
同じ顔なのにずっと元気な彼女は、マキナの姿を見て、完璧な所作でお辞儀したのだ。
「こんにちは、マキナ。わたし、あなたとようやく話せて、とても嬉しい!」
マウリヤ。願いは叶った。なのに、自分はもう、この世から旅立つ身……。
幻覚ではなかった。確かにマウリヤはいた。
けれど、彼女は人形。正体が知られたら、この町にはいられない。
だから……マキナは、言った。
あなたがマキナとなるのよ、と。
自分が持っていたものをすべて渡し、マキナと名乗らせ、そして……
たくさん、友達を作ってほしいと、彼女に言った。……それが、最後だった。
「……そんなことが」
三人は立ち止まっていた。すでにセリアスの足音は聞こえない。ごめん、あとで行くから、
状況ヤバくてもしばらく耐えてね、と無責任なことを三人は同じように思っていた。
『町の人たちを騒がせてしまった原因はこのわたし。どうかマウリヤを責めないで。
そして……どうか、あの子を助けて……』
マキナが祈るように、目を伏せる。そんな彼女に、マルヴィナはあえて明るい声で、「当ったり前だ」と言う。
「マキナでもマウリヤでも、どっちであろうとわたしたちは決めたんだ。マキナを助けるって!
……て、あれ? マウリヤなのか? ……アレ?」
どっちであろうとと言った割に本気で悩むマルヴィナに落ちつけ、とキルガが一言。マルヴィナは膨れる。
マキナは微笑むと、『ありがとうございます、天使さま』と言う。
「ま、さ。お礼は、もう一人の奴にも言ってあげてよ。今、マキナかマウリヤのために、身代――」
「大変だぁっ」
図ったようなタイミングで、いやに分かりやすい言葉が聞こえてきた。セリアスである。
「……って、あんたら、何でこんな遠くに、いるんだよっ!? もっと、近くにいるかと、思ってたのにっ」
荒く息をつきながら、セリアスは三人を睨めつける。ちょっと事情があって、とシェナが答えてから、
一体どうしたのかを問うた。
息を整え、セリアスは早口に状況を説明した。
「ま、マキナが、行方不明なんだよっ。何か知らない間に、逃げちまったらしい」
「マウリヤが……? って、セリアス知らないんだった」
「こっちには来ていないが……と言うことは、洞窟の奥に行ったんじゃないのか?」
キルガの推測に、セリアスは「うわあぁぁ」とトーンダウンしながら頭を抱えた。
「何かこの洞窟、すっげぇ深いトコ行くと、ヤバい魔物が出るんだってよ。ヘタしたら殺られちまうかもしれない」
セリアスの息が深くなることは滅多にない。と言うことは、相当探し回ったのだろう。
にもかかわらず見つけ出せなかったということは、本当に奥まで行ってしまったのかもしれない。
三人は素早く目を合わせると、「セリアス、まだ走れるか!?」「……任せろ!」一気に駆け出した。
「サンディ、ちょっと揺れるよ!」マルヴィナはそう言ってから、口を真一文字に引き締め、スピードを上げた。
***
「に……人形?」
セリアスがオウム返しをする。
「マキナがもう死んでたって……それ、マジかよ」
「あぁ。毎日のように“天使が迎えに来る”類のことを言っていたらしい」
「あ……そっか」
キルガの説明の後、マルヴィナが呟く。
「マウリヤは、一目でわたしを天使だと見抜いたんだ。だから、“マキナを迎えに来たの?”って聞いてきたのか」
「………………」三人が黙る。「……いつの話? それ」
「えっ? あぁ、そっか。屋敷から追い出される前。それが原因だったんだ」
「あぁ、マルヴィナが怒らせたわけじゃなかったのね……」
「さすがにそんな失礼なことはしないぞ!」
「どうだかね~……」
余計なことを言ったセリアスに、マルヴィナはとりあえず肘鉄で答えた。
セリアスの言った通り、中は相当入り組んでいた。彼の記憶を頼りに、どうにか進み、遂に誘拐犯のアジトへ着く。
「ってーか、ユーカイしたらしたで責任もって見張ってろってーの! 何でアタシらが探すハメに……」
と言ったのは言わずと知れたサンディなのだが、後ろからぶつぶつ呟かれるとかなりの悪寒を与えられたりする。
壁を右に、足音に気を付けて進み続ける。曲がり角で一度止まった。誰かいるだろうか。
大勢だったら厄介だな……と思いつつキルガが(こういう役はたいてい聖騎士だからという理由でキルガが選ばれる)
そろっと角の向こうを覗きこみ、……そこにいた誘拐犯たちと不幸にも目をばっちり合わせてしまった。
「やばいっ」
「ちょキルガ!?」
思わずさっと隠れなおしたキルガだが、当然その意味はなさない。
「誰だぁっ」
「ちっ」
聞き返された内容に、一度悪態をついてから、マルヴィナは、よく響く声で叫び返した。
「マキナを助けに来た者だ!」
「な……何だとおおっ」
思った通りの反応だった。仕方ない、身代金を貰う前に誘拐した相手の無事が分からなくなってしまったのだから。
とりあえず、大人数ではないらしい。四人は無言で、それぞれ姿を現した。
さっき会った青年セリアスにまず誘拐犯たちは驚き、そして。次に視線を定めたのは。
「て、て、て……てめぇ、はっ……・!?」
視線の先には、シェナである。一方のシェナもまた、相手をまじまじと見ていた。
そして、ほぼ同時に、「……っああああああっ!?」叫ぶ。
「あ、あんた、デグマ! サンマロウででかい顔してた、ものを盗まれる盗賊!」
叫びながら痛いところをグッサリと突く。改めて末恐ろしい。
「……でかい顔? ……もしかして前に話してた、デュリオと初めて会った時のアレ?」
「そう。まさか盗賊から人さらいに転職していたなんてね……」
イヤ転職は違うだろ、と胸中で突っ込みつつ、マルヴィナはデグマと呼ばれた
顔も頭も名前からしても悪そうな目の前のあらくれを、じーっ、と睨んだ。
「や……やっぱり、そうかっ! どっかで見たことあると思ったんだっ。
くっそう、オトシマエきっちりつけておきてーが、今日は特別だ! てめぇらもお嬢さんを探せ!」
「命令? またあの惨劇繰り返す?」
「……………………さ、捜して、くだサイ」
「はいよしよし。人にもの頼むときはちゃあんと敬うんですよー」
思いっきりバカにされた口調でさらりと言われ、デグマは肩をいからせ口をパクパクさせる。
が、隣でマルヴィナが若干見せつけるように剣の柄に手をかけたのを見て、すごすごと引き下がる。
若いとはいえど実力はある、と言うことを見極められるのが、デグマの唯一の美点ともいえる。と思う。
デグマやクルトを残して、四人はさらに奥へと足を進めた。
一行を待ち受けていたのは、魔物の大群である。
侵入者発見用の機械メタルハンターや、水中の殺し屋オーシャンクロー、
闇の呪文使いメーダロードに、その師、邪に祈る祈祷師。感想は。
「多すぎだろっ」
……当然これである。
「あ~、うっとうしい。そこを退きな……さそうね。これは」
人間相手ならともかくさすがに魔物相手にシェナの脅しが効くはずもなく。皆散って、戦闘開始。
魔法戦士となって、敵の弱点を見極められるようになったマルヴィナは、
ざっと見積もって光に弱い敵が多いことに気付く。
(光……ライトフォースか、……・・って)
一番難しい奴じゃないか!! とマルヴィナは心の叫びを漏らす。ダーマ神官と戦った時は
たまたま発動したものの、常時で使うのはかなり厳しい。こう考えると、あのとき涼しい顔をして
ライトフォースを発動させた嫌味男(腹が立つので名前は出さない)が
少し、微妙に、ほんのちょっと、凄い奴なのかもしれないと思ってしまう。
(……ま、それはいいとして)
変人男(やはり名前は出さない)の浮かびかけた顔を頭の黒板消しでさっさと消して、
マルヴィナは脳裏に複雑な文様を描いてゆく。魔法文字を完成させ、意識を
オーシャンクローを相手に闘うキルガに向けた。ダークフォースが宿る。
ダークフォースはある程度経験を積んだ魔法戦士しか[使ってはいけない]と言われている。
だが、ライトフォースのように難しいからと言うわけではない。ダークフォースの持つ力は、土と闇。
使い方を間違えれば、宿った者はその闇の力にむしばまれる。宿す者の力量を判断する力がないと
扱えない――それが、経験豊富な魔法戦士しか扱えない理由である。
もっともマルヴィナは仲間の力量を信頼しているし、闇に食われるわけがないと知っているので、
初めから使えるようになっていたのだが。
(さて、と……次は、シェナだな)
先ほどとは違う、今度は比べればやや簡単な模様を思い浮かべる。魔力を温存するべく弓を使うシェナは、
同じ弓使いメタルハンターと戦っている。そんな彼女に、マルヴィナはストームフォースを送った。
(……よし、次はセリ――)
「っうっ、わっ、わっ、わわわわわぁがっ!?」
セリアスには援護ができなかった。しようとはしたのだが、その前にメーダロードに見つかったのである。
(や、や、やっば、見つかった、ゴメンセリアス頑張れ!)
文様の代わりにかなり無責任なことを思い、マルヴィナは大股で三歩跳び、魔物と距離をとった。
「む……」
そして、リッカからもらった剣――この前の石の番人戦で刃こぼれの目立ち始めた 白金剣_プラチナソード_を
油断なく構え、一気に踏み込んだ。
「せぇぇぇぇえいっ!!」
が、相手は浮遊体、ふぅわりとやけに優雅にかわされる。……優雅のくだりで少し腹が立った。
「このぉっ……」
悪態をついて、もう一度踏み込もうとした時、
「気をつけろ、マルヴィナ!」
セリアスからの叱責がかかる。
「攻撃は捨身と同じだ! 相手に近付けば、逆に相手からの攻撃も受けやすくなることを忘れるな!」
「おっと……了解!」
叫び返しながら、さすがセリアス、と思う。戦いの猛者の名は伊達ではなかった。
……が、マルヴィナはその後、メーダロードによってその言葉すら意識できない状況に陥るのである……。

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