ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅸ 想見 】――1―― page3


「神さまはっ、不公平だっ、なんでっ、キルガばっかりっ、モテるんだぁっ」
 トカゲを女王に返すべく、四人は許可を得て城内へ入った。
そしてその後、ようやくキルガを開放したセリアスが一言ずつ唾を飛ばさんばかりの勢いで言った文句がこれである。
「創造神グランゼニスさまを侮辱するなー!」マルヴィナが言えば、
「俺が文句を言ってるのは公平の神さまだ!」セリアスも負けじと返し、
「……誰だそれ?」冷静にツッコんだのはやはりキルガである。
「……誰だろ? 公平神コウヘーイとか」
「………………………………………………………………………………・・」
 超シラケた空気が漂う。
「…………・ゴメンナサイ」
「わたし、氷いらない」
「右に同じ」
 マルヴィナとシェナのダブル毒舌がセリアスに炸裂する。
「だ~~~~っ。ちくしょう。キルガ、少し分けろ!」
「どうぞ」
 一言で許可を得てしまい、セリアス一瞬黙り込む。もちろんできるわけがないので、悪態だけついておく。
「……腹立つ」
「セリアスが言い出したんだろ……」
「ちぇ」
 言い返す言葉がないので、それだけ言っておく。虚しいので、その後はその話に触れなかった。


「思ったんだけどさ」
 しばらく城内をさまよってから、シェナが一言。
「ここって、女だらけなのね」
 女中は言わずもがな、兵士までが女性である。よく考えたら、国の主まで女性なのだ。
「何で砂漠って大抵女が治めるのかしら。絶対政治は崩壊気味ね」
「え、何で?」
 マルヴィナが即座に聞き返す。シェナの意見に、キルガが何か言いたげな、微妙な表情をしたのだが、
今言うことでもないなと結局黙ったのである。
「女だらけっていうのは怖いのよ。表と裏のギスギス感がね」
「…………………………?」
 マルヴィナ、当然理解をしていない。性格がまずもって女にしては例外なので無理もないのだが。
「まぁ、即興で何かシチュエーションを言うならね。


『あら○○さん。シーツはもう干したの?』
『えぇ、私は仕事は誰よりも早くこなしますわ』
『その割にはその仕事内容が雑ですわね。
前なんて、そのシーツに髪の毛がついていましたのよ。しっかりしてくださらないと』
『あら、失礼しました。先輩のベッドメーキングには毎回皺が五つはあるのよりはずっとましだと思っていましたわ』


……で、心の中では、


『この小娘が……あたしに向かって舐めた口きくじゃない……』
『先輩だからっていい気にならないでよこのオバン……いちいちいちゃもん付けてくれて……』


……みたいな感じになるのよ」
「…………………………分かりやすい説明だな」
 セリアス、苦笑。マルヴィナが分かっているのかいないのかいまいち分からない表情で頷く。
「あー、陰でこそこそ文句を言いあうみたいな感じかー」
「声がでかい声がっ」
「まずいのか?」
「まずいわよ!」
「そっか。……ん」
 やはりいまいち理解していない(そして本人はそれに気付いていないような)表情で頷いてから、
マルヴィナは一点に目を止めた。

「す、す、すみません、そこのお方っ」

 それは、こちらに向かって走ってくる、一人の女中であった。

 呼ばれた四人は、声の主と思しき女中が着くのを待つ。
紫がかった髪を女性用のターバンですっきりとまとめた、若い女性である。肩のショールをひらひらさせて、
慌てて走ってくる。いやそんなに急がなくてもいいよ――と言おうとした時、女中は思った通り何かにつまずいて
前のめりにすてーん、とすっ転んだ。
 ……いや、これは思った通りとは言えないかもしれない。あまりにも見事に、いっそ綺麗と言えるほどに
しっかりと転んだものだから、マルヴィナたち四人は思わず呆気にとられた。
「……大丈夫?」
 念のために尋ねると、女中ははっと顔をあげ、あわてて立ち上がり、「はひっ! 申し訳ございません!」と
若干噛みつつもちゃんと答えたのであった。
「ならいい。……で、わたしたちを呼んだんだよね?」
 マルヴィナは慇懃に笑い、そう尋ねる。女中は再び返事し、まず自分の名をあげた。


 彼女の名はジーラ。グビアナ城女中、女王のペットの小蜥蜴アノンの世話係である。
彼女の話を整理すると。いつものようにアノンの世話をしていたら、いつの間にかいなくなっていたと、
そういうものである。何とも簡潔な話であった。
「こんなこと、今まで一度もなかったのに……どうしたのでしょう?」
「さぁ」
 もちろん知るわけがないので、それだけ答えておく。
「でも、本当によかったです。アノンは女王様の唯一の家族であられるのですから……」
 少しだけ切なく笑って、ジーラは小声で言う。が、すぐに気を取り直し、お礼に女王に会ってゆくといいと勧めた。
四人はいや別にどうでもいいのだけれど……というような視線を交わし合ったが、セリアスがキルガに
聖騎士の事頼んでみたらどうだ? と聞いた。確かに、修道院は寄付金が減ったせいで危機的な状況に陥りつつある。
 キルガがそうだなと頷き、マルヴィナとシェナはキルガがそう言うならとそれに従った。
別に果実が見つかったんだし他のもの探すのはあとからでもできるしと。



 半時はたっただろう。
四人は顔を見合わせた。
謁見の間にして、彼らはずっと待たされている格好となっていた。そこにいるのは四人のほか、先ほどのジーラ、
大臣―ちなみに男―、ジーラの妹という女中と女戦士二人だけ。すなわち、玉座には誰もいない。
皆が皆、溜め息をつく直前の表情であった。

 ――否、金のトカゲ、アノンも含めれば……そのアノンは、皆とは違う。
当然トカゲが溜め息をつくわけではないが、トカゲらしい表情をしているわけでもなかった。
セリアスの腕の上で諦めておとなしくしていながらも、緑色を成した小さな眼は、凶悪に光っていた。



 ……マルヴィナのフードに入った、金色の果実をじっと睨みながら。