ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅲ 再会 】――3―― page1
レオコーンを追い、四人は暴走する馬のスピードに何とか着いていけた。
こういうとき、本当に天使でよかったと思う。
「ったく……勝手に一人ボーソーて、集団行動性がないっつーかさぁ」
サンディの愚痴を無視して、マルヴィナは咳払いした。
「凄い霧…… 靄_もや_ かな? ……なんでこんなに紫なんだ……?」
「毒……かもね。……あったよ」
ルディアノ国が、寂しく残されていた。
「……家が」
破壊されている。瓦礫の下や周りには、タールがどろりと流れていた。
「タール……確か、石炭とか木を乾留した時に得られる油みたいな奴……だったっけ」
「うん。……ねばねばした、ね」
辺りは紫の靄に包まれ、先の様子もほとんど見えない。ネチョリ、と嫌な音が、タールの沼から聞こえてきた。
「……何?」
セリアスがくるりと振り返る。
「は?」
「今、呼んだろ」
「……いや? 呼んでないけど」
ウィヒヒーン。
「そうか? 今も声が聞こえたんだけど」
ウィヒヒヒーン。
「………………・・」
そこでセリアス、その声の正体を理解し、引き腰気味になる。
当然の如くマルヴィナは、絵に描くとしたら怒りマークを五つほどつけて、つかつかと前に歩を進め、
「……セリアス。どーやったら、わたしの声と馬の声が同じに聞こえるんだっ」
そう言って、黒い馬をズビシ、と指差した。
「……・・。おい、これ――」
「聞けよっ」
「分かった分かった。――じゃなくてこれ、……レオコーンの乗ってた馬じゃないか?」
え、と呟いて、マルヴィナは怒りを忘れ改めてよく見る。
「……・・ホントだ」
「てことは、レオコーンはこの先?」
シェナが再び辺りを見渡すが、やはりうまく見えない。
「……あれ? キルガは?」
「いるよ。……あっちに城に入る階段がある。真新しい足跡もあった。おそらくレオコーンだ」
やることが早いことで、とセリアス。
「……なんか嫌な予感がするな。……急ごう」
マルヴィナの声に、皆が唱和した。
***
「変ね」
シェナが城に入ってから一番最初に話した。
「何が?」
「……おかしいと思わない? ここは滅びたのに……綺麗すぎるのよ」
「人骨が無いな」キルガも言う。「様子を見に行ったというエラフィタの人々はどこへ行ったのだろうか」
「……確かに、全員そろって家出……ってことは考えにくいな」
「つーか、色んなところに戦禍が残ってただろ? 何かあったはずなのに、何もないってことか」
「……説明の手間が省けたわね……物分かりのいいことで」
シェナがクスリと笑って、視線を前に戻す。「……いた」
レオコーンは近かった。四人は歩くのを止め、近くの倒れた振子時計とタンスの陰に隠れる。
レオコーンの前には、魔物がいた。
「……魔物……? 違う……あれは、死者の魂じゃないか? ……骨に、乗り移った」
「ぐ」
マルヴィナの一言に、三人は顔をしかめる。
「そういうことかよ……骨が無かったのは、魂が骨にのり移ったから、ってか」
「人も魔物に化する……欲望と、絶望と、憎悪によって……って聞いたことがある」
「いやあれはレオコーンと同じ類だと思うけど」
「しっ」
キルガが唇に指を当てる。「話し始めた」
『よくお戻りになられました。レオコーン様』
一人目、顔の形も分からぬ有様の骸骨_がいこつ_が言う。
『しかし貴方は、遅すぎました』
『貴方は帰っては来なかった……その後、我らは死にました……全ての者が……』
何故、というところは言わない。
「……では何故、地上に縛り付けられている? 何か思い残しでもあるのか。それとも……何者かが」
何者かが呪縛しているのか。その問いを制し、骸骨は口の端だけでニッと笑った……ように見えた。
『……ある方の言伝を貴方に。役目を果たせば、無事昇天させてくださると仰っていましてね』
そんな都合のいい話があるか、とマルヴィナは思う。昇天させる? そんなことが出来るのは、
天使か神官しかいないというのに。神官がこんなところにいるわけがないし……
「誰の、言伝だ」
レオコーンの口調は変わらない。だが、
『……イシュダル様です……』
その一言に、レオコーンは大きく反応した。盗み見続ける四人は顔を見合わせる。
「何か、関係――」
「イシュダルだと!? 何処だ……一体、奴は何処にいる!?」
『案内しましょう……』
三人の骸骨の後ろにレオコーンが続く。四人は目を配せあい、小さく頷いた。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク