ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅲ 再会 】―― 2 ―― page2
セントシュタインの城――
「お主はその言葉そのまま信じて帰ってきたのかっ」
報告を終えたマルヴィナへの、王の開口一番がこれである。
「……は?」
「私はルディアノなどという国は知らぬし聞いたことも無い。
奴がでたらめを言っているとしか考えられんだろう!?」
「………………っ」
隣にいたフィオーネが、何か言葉を発しかける。
気付いたセリアスが問おうとして、シェナに足を踏みつけられた。
〈って!? な、何すんだシェナッ〉
ぼそぼそと文句をつけ、
〈後にしなさい。ここでは話してくれないわ〉
シェナも前を見ながらぼそぼそと返した。
「よいか。奴は私たちが安心した頃にもう一度ここへ攻め込んでくるはずじゃ!
奴を討つまで、褒美もお預けじゃな」
「……なっ。何ヨこのオッサン!! いーワヨ、アタシたちの本当の目的は星のオーラ!
別に住民が感しゃふがっ!?」
サンディの騒ぎ途中に、マルヴィナはフードをかぶるふりをして、とりあえず中に閉じ込めておいた。
「んあ~~っ! ハルフィナハァ、はにすんのほ~~っ!」 ←注・マルヴィナぁ、何すんのヨ~っ!
状況に気付いたサンディがフードの中で暴れ始めた時、セリアスとフィオーネの視線が合った。
フィオーネは少し厳しい目で頷く。セリアスもまた、頷いた。
「……お父様。少々疲れました。
フィオーネはこれで失礼させていただきますわ」
王の訝しげな視線を背に、フィオーネは王室を発つ。
「っ出ぁ~し~な~さ~い~ヨ~~っ、ハルフィナ~~っ!」
「セリアス、……説明お願い」
王室を出た四人、シェナがセリアスに初めに言った言葉である。……サンディは無視していいものとする。
「……ん? 何のこと……?」
マルヴィナが首を傾げる。「急に王室を出たわけか?」
「そう。分かってるじゃない。……で、フィオーネ姫と見つめ合ってたみたいだけど」
「……な、何だその微妙な言い方は。怪しい関係じゃねーぞっ、暗号みたいなものだ!」
「暗号……?」
「そ」
セリアスは腕を組んだ。
「瞬き二回で“二階”、瞳の位置で方向、頷きで“話がある”……
今回王様の前で話せない情報とか結構持ってるらしくてさ。兵士長がこういうときは話を聞いてこいって」
「ふーん……で? どっちだったの?」
「あっちだ」
セリアスを先頭に、(サンディはまだフードの中でバタついている)四人は若干早足で歩く。
「……ん。いた」
マルヴィナが見て分かることを声に出す。
「……皆様」
フィオーネは呟いた。辺りを見回し、人の気配が無いことを確認すると、話の内容の重要部分から言った。
「……ルディアノ国のことで、話があります」と。
***
シュタイン湖から、更に西。
桜の神木の村、エラフィタ――
「そこに、かつてのわたくしのばあやが住んでおります。彼女が昔、聞かせてくれたわらべ歌……
それにルディアノという名が出てきた記憶があります」
フィオーネはまつげを若干伏せた。
「……ばあやさん?」
「はい。――はい? いえ、名前はソナ・フローレンスです」
「はあ。かつての、って、王家ではおばあさんが変わるって事?」
「……はい?」
マルヴィナのかなりとんちんかんな言葉に、キルガが苦笑して“ばあや”の説明をした。
「ああ」
マルヴィナ、ようやく理解。フィオーネの話は続く。
「わたくしには、どうしてもあの騎士が悪い人には思えないのです。……どうか皆様、あの方のお力に……」
四人はちらり、と顔を見合わせ、頷く。キルガが答えた。
「分かりました。訪ねてみましょう。
――ところで、……メリア姫、と言う人物をご存知ですか?」
「はい……? メリア姫、ですか?」
一瞬だけフィオーネの目が泳いだのを、キルガは見た。
「……存じませんわ。異国の姫君であられますの?」
「…………。まあ、そうですね」
そのままキルガは黙り込む。沈黙。マルヴィナはその空気に耐えかねて、思い切り砕けた口調で言った。
「……じゃっ、行ってみるよ。あの騎士のためにも、さ」
「ちょ、マルヴィナ。お前誰に向かって……」
セリアスは当然のごとく慌てる。だが、フィオーネはそれを止めた。少しだけ切なく、笑って。
「……王家の人間というだけで、皆様方はわたくしを敬ってくださいます。
しかし、わたくしは普通の人間であることに変わりありません。
親しく話してくださるのなら、それ以上嬉しいこともありませんわ」
「マルヴィナ、でどうぞ。今日から友達ってことで。だから敬語は、お互いなし! いい?」
セリアスは、一瞬呆気にとられた。この大胆さと、さっぱりした性格、そして、相当の勇気。
こんなものを身につけている人間(天使?)など、そうそう入るものではない。
フィオーネは十九歳だった。マルヴィナたちもまた、人間界で言えば十九歳である。つまり、[表向きには]同い年だ。
呆気にとられた視線を背に、二人の会話はしばらく続いていた。
フィオーネの表情に、笑顔が戻っていた――。

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