ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅷ 友達 】――2―― page2
デグマ、顔も頭も、名前からしても悪そうな筋肉ムキムキのそいつは、
サンマロウ最大の屋敷の前でウロウロしていた。
「あの屋敷で……遊び人……ちぃと眠らして……いや、金は……ぶつぶつ」
どう考えても怪しいデグマは、肩をごりごり鳴らして筋肉を盛り上がらせる。
そして、先ほど目の前の屋敷に入って行った四人の若者の内の一人の後姿を思い出す。
「……しかし、何だ。あの女……どっかで……むぅ、思い出せん」
「兄キぃ~~~っ」
考えているところに飛んできたその大声に、デグマはぎょっと振り返る。そして、叫ぶ。
「……だぁっ! 何でっ、お前が来たぁっ」
「うぃっす。備えありゃウレーなしって」
「お前なんぞ備えておきゃともウレーはないっ」
「へぇ。そっすか」
ペコペコしている奴はクルト、自称デグマの弟分である。デグマと違い名前はいたって普通だが、
見た目がひどい。黒頭巾、黒装束、ナイフ、見た目通りのチンケな盗賊である。
「で、兄キ。計画の事っすが――」
クルトが大声でそんなことを言い、デグマがあわててクルトの口をふさぎかけた時。
「×××××××××―――っ!!」
目の前の屋敷からのとてつもない怒りの叫びが聞こえてくる。クルトよりも明らかに大きなその声に、
屋敷周辺にいた人々が思わず足を止める、が、何故か
あぁまたか、と言いたげな表情でやるべき行動に戻ってしまった。
そして続いて、どやどや走る音に悲鳴の連鎖。
「ななな何だぁ……?」
「兄キ、ヤバいでやす。一回引きやしょうッ」
もちろんこの怪しい二人組、あぁまたかといってこれから移そうとしている行動をするわけにはいかない。
こそこそ逃げ隠れたのと同時、マルヴィナたち四人は追い出されて文字通り転がり落ちてきた。
「ってぇ……何だ今のはっ」マルヴィナ憤慨、
「うーん嫌われたねぇマルヴィナ」シェナのんびり、
「一体何をしたんだ? 急に怒らせるなんて」キルガ一言、
「ま、マルヴィナ女友達少ないからな」セリアス苦笑。
「……だったらなんでわたしを選んだんだっ」再びマルヴィナ、
「イヤ俺はキルガ指したから」セリアス弁護、
「ゴメン僕だ」キルガさらり。
「キルガ……反省していないだろ」マルヴィナジト目。
要するに、彼らはマキナを怒らせてしまい、屋敷を追い出されたのである。
四人以外にも追い出された人々の内の、礼のリボンを持ってきた女は、しばらくぼーぜん、としてから。
「ちょ……ちょっとぉ、あんたのせいでマキナちゃん怒っちゃったじゃない!! こっちは生活かかってんのよ!?」
マルヴィナにいきなり食ってかかる。
マルヴィナは、へぇ、そんなんで友達気取りかよと言い返してやろうと思ったが、
キルガに無言のままに首根っこをつかまれ、首が絞まったせいで実行不可能となる。
「ところで、彼女はいつもあのように激しく怒るのですか?」
マルヴィナの代わりにキルガがそう尋ねる。マルヴィナの首根っこはつかんだままである。
「むー! むー!」
マルヴィナがじたばたするが、当然明らかにキルガの方が力が強いので、無駄な努力でしかなかった。
「キルガ……やるわね」
シェナが呟いていたような。
ともかく、その光景は別として、いきなり若い美青年に声をかけられた女は、怒りにぎゅうと曲げていた眉を
いきなり元に戻すと、思いっきり声色を高くして答え始めた。
「えぇー? (ここで小声で、あら可愛い、とか言っていた気がする byセリアス)そぉねぇ、時々かなぁ?」
明らかに年上の色目を使っているその女に、キルガはとりあえず身を若干引きつつ、もう一度問う。
「彼女のことをよく知る人といえば?」
「詳しい人ぉ? そーねー、からくり屋のジイさおじーちゃんじゃなぁい? 教会裏に住んでるってぇ」
「そうですか」
キルガはさっと礼をして、思い切り逃げるように苦笑するセリアスとシェナの元へ戻る。
「むぁー、むぁー、むぇーーーっ(注・はぁーなぁーせぇーーーっ)」
干からびたカモのような声をあげてマルヴィナが再びじたばたする。
正直首根っこをつかんでいたことを忘れていたキルガは、
あぁゴメン、と再び反省っ気のない声色で謝り、マルヴィナを解放する。
「うぅ……キぃルぅガぁ―――っ」
「モテモテですねぇ」
マルヴィナの恨みがましい声に続くように、シェナがくすくす笑って言った。
キルガは顔をしかめ(マルヴィナの声は一切無視した)、
「やめてくれ。……ああいう人は正直、苦手なんだ」
「はは、分かる分かる」セリアスが軽く笑う。「……で、なんて?」
「からくり屋の男性」キルガは答える。「マルヴィナ、地図を……ごめんごめん、悪かったよ」
ふくれっ面を続けるマルヴィナに、先ほどよりは反省したような声でキルガは謝る。むぅ、とうなってから、
マルヴィナは仕方なしにサンマロウの地図を広げ、三人に見せる。
「教会の裏、だったよね」マルヴィナは地図を指でたどる。
「教会……あった。……けれど、裏って……な、何もないじゃないか……?」
実際の答えは、教会の横、であった。
「ごめんくださぁい」
教会の[横]の家、からくり屋の老人の住む家を四人は訪れる。
マルヴィナがノックし、そう声をかけたが、反応はない。もう一度、先ほどより声を大きくして叫んだ。
が、やはり誰も出てこない。
「あー、あるよな、こういうパターン」セリアスが言う。
「ぱたーん?」
「ほら、ノックしてもだれも出てこなくて、ドアを開けようとすると鍵が開いてる。
キィー、ってドア開けてみると、中で人間が倒れててうわぁぁぁなんてコトに……あっ、イヤ」
サンディ含む四人の思いっきり冷めた視線に、セリアスは「冗談です」と頭を垂れ、片手をひらりと振る。
が。
かちゃり。
「はっ?」
扉はすんなり開く。
「…………あの、まさか、ねぇ?」
マルヴィナがキルガに確認し、キルガはシェナに助け舟を出し、シェナはさぁ? と言うように肩をすくめる。
その反応を見たマルヴィナは、手に微妙に力を入れ、一拍置いてから、一気に扉を押しあけた。開けたが。
「うっわぁぁぁぁぁぁあああっ!?」
……本当に叫ぶこととなった。[立っている]一人の男に。……しかし、目はどんより、隈が浮き出て、
頬がこけた、半死人のような形相である。一瞬ルーフィンが化けて出てきたかと思った。
「あぁ……ひとの耳元で大声出さないでください……僕はあんまり寝てないんですよぉ……」
お前やっぱりルーフィンの親戚!? とセリアスは言ってやろうかと思った。
キルガとセリアスの反応は割と普通だったが、マルヴィナは扉を開けた張本人と言うこともあり、相当動揺していた。
「あ、あ、あ、の、そのぉ、か、からくり屋の、って、ここ、です、よね?」
久々マルヴィナの敬語である。
「からくり……? あぁ……親父なら、後ろに」
そう言って、ルーフィンもどきは(マルヴィナ命名)、一番後ろにいたシェナを――いや、シェナの後ろを指す。
「えっ?」
シェナが問い返し、そういえばなんか後ろから気配が……と早口に思い、そろそろと振り返り。
「っきゃあああああっ!?」
マルヴィナたちは、初めてシェナの悲鳴を聞くことになる。
「いやすまんすまん。驚かすつもりじゃなかったんだ」
ヌッと、シェナの後ろに立っていたからくり屋のおじいさん(ほとんどおじさんに見える)は、
カラカラ笑ってそう言った。が。
「……………………………………………………かちかち」
シェナの反応は変わらない。
本気で驚いたシェナは、マルヴィナの後ろから彼女の肩をぎゅうと掴んで、
奥歯を必死に噛みしめ(相当鳴っているが)、真っ赤な顔で睨んでいる。ちなみに涙目。
「……あの、シェナ。痛い。肩」
「………………………………我慢して」
「無理」
「我慢」
「…………………………」
即答に即答で返され、何でわたしが申し訳ないような気分に陥るんだ? と自分自身に疑問を抱くマルヴィナ。
ひとまずその二人をそのままにしておき、セリアスが訪ねてきた理由を話す。
キルガはマルヴィナに助けを求められて首をつかまれていた(多分さっきの恨みも込めて)。
「おじさんなら、マキナに会えるんじゃないか?」
「マキナさま、かい? そりゃな」
「……イヤ実は、マキナが部屋に引きこもっちまって」
「マキナさまがっ?」
あぁそこの肩掴まれてる人付き合い悪い&がさつ女が怒らせて、とは言わず(言えず)頷くセリアス。
「ふぅぅぅむ。心配じゃの。分かった。儂も行こう。……もしかしたら、また悪い病気が出たのかもしれん」
イヤそうじゃないんだけど、……とはやはり言わなかった。
「ほれ、行くぞ。……シェナ、いい加減落ち着け――どっ、わっ、だっ、痛い痛いシェナやめろろろっ!?」
最終的に、セリアスがシェナに無言のまま五発叩かれた。

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