ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅱ 人間 】―― 2 ―― page1
翌朝。
マルヴィナは再び村を出て、キサゴナ遺跡へと向かった。
(行くのは初めてだな……えっと、南東、峠の道方向じゃない方)
かなりいい加減である。
森の中へと入り、方位磁針と睨めっこしつつ、進むこと数分。
――十メートルほど後ろを、何かがつけていることにマルヴィナは気付いた。
魔物か。直感して、走ろうかと考えたのとほぼ同時、次はそこが騒がしくなる。
魔物の集団か!? ……と思ったのは見当違いで。
振り向けば魔物。……いや想像はしていたが。……ああ何か混乱してきた。
(えっと。……四匹だな)
リリパットと、ズッキーニャと、スライムとスライム。
だが、よくよく見てみれば……ズッキーニャとスライム×2は、
リリパットの持つ弓矢をグイグイと引っ張っているようにも見えなくはない。まるで、討たせまいとでもするように。
その三匹に、マルヴィナは見覚えがあった。
(……あの時の)
「……ゴッ!」
弓矢を取られたリリパットは、かなり怒って逃げ出す。
「ふぅーいっ。危なかったぜ。これであの子も……むっ!?」
ズッキーニャは、今自分が助けた少女が自分をじーっと見ていたことに気付いて身を引く。
「や、やっべ……」
「ちょ、まってズッキー、あの人、もしかして!」
マルヴィナは小さく開いていた口を閉じて、微笑んだ。
「久しぶりだな。……かな? あの時あんたの腹に突きつけた剣はないが」
「や……やっぱり天使だっ! 羽も輪っかもないけど、あの時の!」
「さっきはありがと。助かった」
と言ったものの、マルヴィナは自分が狙われていることが分かっていた。あえて言わなかったが。
「あん時から、おいらたち、色んな旅人さ守ってるだあよ。
だども、気付かれったら、おいらたちまで被害が来るった」
「前はひどかったよねー、剣持った男が『待て待てーっ』て追いかけて来るんだもん」
「ああ、生きた心地がしなかったぜ」
そのやり取りをしばらく呆然と聞いていたマルヴィナは、急にはっと気付き、尋ねる。
「……あんたたち、キサゴナ遺跡について知らないか?」
「キサゴナ? 知ってるよ。案内しよっか」
そのスライムは、スラらんと名乗った。
田舎風の喋り方のスライムがスラピ。
ズッキーニャはズッキーだった。
「全部あだ名だけどね。もともとの真名からとっているんだし」
道中、スラらんはそう言った。
そして、元天使と三匹の愉快な(?)魔物たちは、キサゴナ遺跡に到着。
中は、どことなく神聖な雰囲気があった。しかし、今は魔物だらけ。
一番多くいたのは、吸血蝙蝠ドラキーであった。
「どっちだ?」
マルヴィナが尋ね、
「こっちに、ボタンがあるだ。ボタン押さんこたぁ、先には進めんっぺよ」
スラピが答え、
「あ、ボク行く」
スラらんが行動に移そうとし、
「お前身長届かんだろう。ここで待ってろ」
……結局ズッキーが向かった。
リズミカルにステップを踏むかのように、てってってっ……と走るズッキーを見ていたマルヴィナは、
その手前に人影を見た。……だが、それは。
(あれは……死者?)
目が合う。人――四、五十代のその男性は驚きの表情を見せた。そして、スッと消える。
(……なんでこんな所)「にっ!?」
その瞬間、
ゴゴゴゴゴゴゴゴ………………
「なっ。地震かっ!?」
「ちちががううよぉぉ。とととびびららががが開くううぅんだぁぁよぉぉおお」
かなり揺れて、揺れに揺れて、しばらくして止まった。
壁だと思っていたところにぽっかりと穴が開いていた。奥への扉だった。
***
ウォルロ村から西の方角、セントシュタインの国。
一人の少年、もしくは青年が、城下町の看板を見ていた。
〔セントシュタインに謎の黒騎士現る。
奴を討たんとする勇気ある者は申し出よ。素性は問わぬ
セントシュタイン 国王〕
「俺ひとりじゃなぁ。――せめてキルガとか、マルヴィナとか、テリガン様がいてくれりゃなぁ……」
その少年は、腕を組み、天を仰ぐ。
「何で俺だけが、[こんな目]に……」
……びゅう。
強い風が、吹く。
「…………ん?」
人々のざわめき。
「おっおい、あれ……!」
「うっ、うわわ……また来たぞ!」
少年ははっとする。
「[黒騎士だ]!!」
馬の声と、蹄の高く軽快な音。
黒い馬に跨った、漆黒の騎士!
「っげ。黒騎士って、あれかよ!」
少年は呆然と突っ立った。
逃げる住民には目もくれず、黒騎士は城を目指す。少年はまさにその目の前にいた。
「……しゃあ、ねえ……なっ」
横にあった物干し棹をむんずと掴み、それを背に持ち、「……っせえぇぇええい!」少年は馬に足払いをかけた。
ガッ!
「ブヒィィィン!」
見事命中。馬は悲鳴を上げた。振り回された前足をおっと、とよける。
そして、黒騎士の意思とは逆に、町の外へ逃げて行った。
おおっ、と歓声があがる。
少年が棹をブン、と回し、元の位置に収めると、割れんばかりの拍手が起こる。
少年はにかっ、と笑い、何気なく群集を見渡し――
「相変わらずだね。――セリアス」
そう、声をかけられた。
「……エ?」
少年、セリアスはその瞬間、思考がスコン、と抜け落ちる。
何故なら、声をかけてきたのは。
「………………キル、ガ? ……っキルガじゃないか!!」
自分の親友の、[自分と同じ]翼も光輪もない天使だったから。
「まさかこんなところで会えるとは思わなかった。偶然ってのは恐ろしいな」
「だな。…………・どういう意味だ?」
「ん? そのままだけど」
「………………嫌がってるわけじゃないな? ……だな。ウン」
「………………? ……とりあえず、ここでは話がし辛い。ちょっとついてきてくれ」
二人は教会の横に行く。
「……さて。――セリアスも落ちていたんだね。人間界に」
「まーな。翼も光輪もないけど」
「見ての通り、僕もだ。[落ちた]ことが原因だろうか」
「さぁ。見事に俺も落ちました。見に行かなきゃ良かったなぁ……」
「それは自業自得だ。責任はとらない」
「ばれた時、じゃなかったっけ」
キルガに無言を通され、スミマセンと引くセリアス。
「でも、見かけこそ人間だけれど……天使としての力は、残っているみたいだな。
そう怪我もひどくはないし……」
「俺は足に。キルガは顔か……また目立つところに」
「実は喋り辛い」
「普段からあんまり喋んねーじゃんか」
話が不意に途切れ、微妙な空気が漂った時。
「おお、貴方ですな? 黒騎士を追い払ったと言うのは!」
城の兵士が一人、二人を見つけて沈黙を破った。
「え」
「是非! 是が非とも! わが国で戦士となってくださいませんか!
貴方のようなお強い人を求めているのです!」
セリアスは呆然。そして、別にいいけど、と答えようとして、兵士の視線がキルガに注がれていることに気付く。
「って、追っ払ったのは俺だ――――っ!!」

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