ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人

作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅱ 人間 】―― 1 ―― page4


「さて、この先が土砂崩れのはずだ」
 峠の道。
 ニードが先ほどのへばりようはどこへやら、思いっきり威張り口調で一言。マルヴィナ無視。
 反応なくさっさと進むマルヴィナにかなりの虚しさを感じたニードは、ちえ、と舌打ちし、
だが左へ曲がれという指示(命令?)は忘れない。
 そしてニードは、そのマルヴィナがいきなり硬直したのを見た。
「…………?」
 ニードはその様子に興味を持ち、マルヴィナの後ろから彼女の視線先を見る。
 だが、そこはただ木が倒れているだけ。何も変な所はなかった。
「何やってんだよ? 木が倒れているだけじゃねぇか」

 マルヴィナはその言葉を聞いて、気付く。
 マルヴィナの眼には、倒れた木は映っていない。その前に、[別のもの]が倒れているのが見えるから。
 ――別のもの。
(天の――)
 人間の目には決して見えない――それは。
(箱舟!!)
 ……天使界から、崩れ、散ったはずの――天の箱舟。
(こんな、ところに――!)
「……変な奴。倒れた木がそんな珍しいのか?
……あっちだ。先行ってるぞ」
 ……ああ、と受け流す。
 ニードが林の奥に消えたのを確認すると、マルヴィナはそのまま箱舟の扉に手をかけた。
 ……開かない。
(……やはりダメ、か)
 マルヴィナは溜め息をついた。
 ニードの絶叫が聞こえたのは、その時。


「っどうした!? ――うわ」
 咄嗟に反応したマルヴィナが走り、……だがその原因を瞬時に理解し、脱力した。
「どうしたこうしたねぇ! 土砂崩れってこれかよ!
これじゃ二人でじゃどうにもなんねぇじゃんかよっ」

 ……土砂崩れとは。
 大きな岩が、でーん、と見事に道をふさいでいるという光景であった。
 確かにどうにもなりそうにない。……大体想像はしていたが。
「くっそぉぉ、せっかく親父の鼻を明かすチャンスだったのによお!」
 瞬間。

「誰かいるのかっ!?」
 岩の向こうから、別の声がする。

「うひゃうっ」
 ニードが驚いて超高速できっちり五歩引いた。代わりにマルヴィナが答える。
「いる。――ウォルロ村の者だ」
「それはオレだろ」
 ……ニード返答。立ち直りが早すぎる。
「おーい、ここだー。ウォルロ村のイケ面ニード様はこ――あでっ」
 二発目のチョップ。あと一発。
 妙な語尾を気にせず、岩向こうの誰かが返答した。
「やはりウォルロ村の者かー。私たちはセントシュタインの兵士だ。
王様に言われ、土砂崩れを取り除きに来たのだが」
 二人が顔を見合わせること数秒、ニードがいきなり拳を振り上げる。
「まじかよ! セントシュタインの王が動いたのか!
……んじゃ問題は解決したも同然じゃねーか、わざわざ来るまででもなかったんだな」
(わざわざ付き合わされる理由もな)
 苦々しくニードを睨んでおく。
「ところでウォルロ村の者よー。取り急ぎ確認したいことがあるのだが、
あなたたちの村にルイーダという女性は来なかったかー?」
「ルイーダねぇ? 知らねぇな、そんな奴は。お前は?」
「知らない」
 一言。
「そうかー。実はキサゴナ遺跡からそちらに向ったという噂があるのだ」

 キサゴナ遺跡。マルヴィナは思った。
 確か、昔はセントシュタインへ行くための通行手段だったはず。
 だが、崩れやすく、魔物も出るからと、遺跡の扉は閉ざされ、峠の道が開通された……マルヴィナは
イザヤールからそう聞いていた。

「キサゴナ遺跡ぃ? まさか、あそこを女一人で向かうこたァねーだろ?」
「……そうか。まあとにかく、しばらくすればここは通れるようになると伝えておいてくれ」
「おっし、了解だぜ!」
 単純な奴。
 マルヴィナはそっと、小さく笑った。