ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人
作者/漆千音 ◆1OlDeM14xY(元Chess ◆1OlDeM14xY

【 Ⅳ 封印 】――2―― page1
べクセリア、西の封印の祠にて――
四人は、守りを固めているかのように立ちはだかる死者の霊や実体のない魔物たちを次々と打ちのめしていった。
「かなり荒っぽいけど、昇天してもらうよっ」
マルヴィナが鮮やかに剣で薙ぎ、
「昇るのかなぁ?」
シェナが弓の狙いを魔物に定め、
「後ろ危ないっ」
キルガが盾で攻撃を弾き返し、
「さすが聖騎士」
セリアスが飛んだ血飛沫を拭う。
ルーフィンは一人呆気にとられた。何なんだこいつら? という言葉が顔に書いてある。
「で、ツボはどこだ?」
マルヴィナが戦いの手を止めないまま、ルーフィンを振り返る。
実に危なっかしいが、マルヴィナは余裕の表情である。
「あの部屋の奥が怪しいな。そこじゃないか?」
「……あ、あぁ、その通りです。ただ、この調子じゃなかなか行けなさそうですね……」
「……嫌味か?」
マルヴィナは剣を振ったまま、ちっ、と舌打ちした。
三十分経過。
ようやく扉の前までたどり着いた一行、扉があかないという事実に一気に脱力した。
「……待て待て。ありかこんなん」セリアス、
「実際ここにあるのよねぇ」シェナ、
「……扉開けるキーワードかなんかないわけ……?」マルヴィナ、
「……これじゃないか?」キルガ。
キルガが目ざとく見つけた石碑を見る。古めかしい文字が書いてあった。
マルヴィナとセリアス、キルガでさえその文字に首を傾げ、シェナが覗き込む。「……あぁ、古代文字ね」
「古代文字ぃ……?」
「そう。……ちょっとなら読めるんだけど……あ、ルーフィンさん、出番。この文字、読んで」
使えるときに使うとはこういうことを言うのか。
「僕ですか?」
「あなた以外にどこにルーフィンがいるのよ。
どうせこの先も調査するんでしょう? さっさとキーワードを読みなさい」
……やるな、シェナ。と、口中でマルヴィナ。サンディはおおっ、となぜか感心していた。
『 二人の賢者の目覚めし時
赤き光と蒼き光は蘇る 』
……ルーフィンの読み上げた石碑の内容に従い、二人の賢者を探す。
ここにシェナという賢者がいたが、それは『職』であるため、まずないだろうと意見は却下された。
「はいは~い。マルヴィナ、賢者“あった”よん」
パタパタ飛び回っていたサンディの導き(?)で、何とか一同は二つの[賢者像]を見つける。
静かにたたずんでいた賢者の像の手中に収まった赤と青の宝玉に触れた時、光が放たれ――“目覚める”。
祠が揺れた。二つの宝玉の光が消えたころ――閉ざされた扉は、開いていた。
ツボを見る。
今は開いた[閉ざされた扉]を、ルーフィン、セリアスとマルヴィナがほぼ同時、シェナ、キルガの順にくぐり抜ける。
「あー……壊れてるね。やっぱり……どう? 直せそう?」
マルヴィナが病魔の気配に気を遣いながら、ルーフィンを見た。様子は変わっていない。
「ええ。予想していたより割れた部分が少ないですからね」
言ういなや、ルーフィンは白衣のポケットの中からいろんな道具を出し(ドラえ●んか? by作者)、
散らばった破片を拾い集める。やることのなくなった四人はひとまず顔を見合わせた。……だが、その時。
「われヲふうジこメヨウトスルものヨ……ソノすべテニわざわイアレ……!」
「――っ危ない!!」
ツボの破片に集中していたルーフィンの後ろに突如現れた影に、キルガが反応した。三人も同じだ。
「来たなっ」
マルヴィナが真っ先に剣を構える。すぅ、と息を吸い、一気に病魔との距離を縮めた。
病魔の気がルーフィンからそれる。三つの目が、ぎょろっ、とマルヴィナを見据えた。
だが、彼女は怯えない。怯まない。もう、[慣れてしまった]。
必要なときには躊躇わない、その思いに。
(もらった!)
マルヴィナは剣を勢いをつけて病魔に深く突き刺した。――だが。
「……・っ?」
軽い。何かを刺した、という感触が、ない。まるで、空気を相手に、剣を刺しただけのよ――
「マルヴィナっ」
「えっ? ――なっ!」
マルヴィナはギクリ、とした。前にいたはずの病魔が、後ろにいる。驚いている暇はない。
だっと駆け出し、その場から離れる。
「な……!? 確かに、刺したはずなのに……!」
「効かないのよ!」シェナが叫ぶ。「あいつは病魔、本来存在するはずのない魔物なんだわ」
「どういうことっ?」
「だから、あいつには実体がないの。エレメントなのよ!
だから、どれだけ戦っても、あいつは倒せない。封じることしかできないのよ!」
「そっ……そんな! どうすればいいんだ!? これじゃ、またいつか同じことが……」
「てか、その前に、どうやって封じ込めるんだよ? 弱らせることができないってのに、一体」
セリアスの呟きに、シェナは少し考え込んでから――答える。
「……浄化、かしら。実体のない魔に効くのは聖、光、その類。……呪文勝負になるかもしれないわ」
「それしかないのか? 俺ら何もできないじゃんか……」
「何か一発で弱らせる方法はないかしら……弱点が……」
病魔は暴れる。動く。ふしゅふしゅと、嫌な音、嫌な色を伴って、気体が吐き出される。
「……っ!?」
それは、甘ったるい臭いのする気体だった。一番近くにいたマルヴィナが、ふら、とたたらを踏む。
そして、いきなり、倒れた。
「っ!」
キルガ、セリアス、シェナはとっさに口を手でふさぐ。気体には昏睡効果があったのだ。
病魔はいやらしく笑うと、昏睡したマルヴィナに向けて、手を振り上げる。
「っさせるか!」
傷を負わせることができなくても、マルヴィナから病魔を放す。
それを目的として、セリアスは病魔に斬りかかる。
……その時、気付いた。

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